第93話「魔獣調査を開始する(1)」

 ──リアナ皇女視点──





「それでは調査に向かうとしようか。リアナ殿下」


 大公カロンはそう言って、馬車に乗り込んだ。

 リアナがそれに続き、出発の合図をする。


 馬車を囲む兵士は全員、大公家の紋章を外している。

 これから行く先の者たちを、警戒させないためだ。


「我々が接近するのに合わせて、魔獣召喚の犯人たちが、資料や証拠を隠すことも考えられる。ここは、ただの国境警備兵の振りをしようではないか」


 馬車の中で、大公カロンが笑う。

 対照的にリアナは、真面目な顔で、


「向かう先は調査兵の報告通り、東にある砦ですね?」

「うむ。疑わしい砦は2箇所に絞られた。しかも、お互いが馬で半日の距離にある。片方が外れでも、もう片方に乗り込む時間はあるであろう」


 昨日、ふたたび調査部隊が報告にやってきた。

 帝都にいた彼らは、砦に向かう早馬 (連絡用)の頻度ひんどを調べていたのだった。

 その結果、東にある2つの砦に、帝都から、不思議なほど多くの早馬が出ていることがわかった。


 しかし砦の方では、帝都との連絡が必要になるような事件は起きていない。

 魔獣出没の情報もない。

 なのに帝都からの連絡用早馬は頻繁ひんぱんに出ている。金の流れも多い。

 しかも、場所は国境にもほど近い。

 不審に思った大公カロンとリアナは、その砦の調査に向かうことにしたのだった。


「大公さま」

「なにかな、殿下」

「私たちが砦に向かうという情報が、相手に漏れていたらどうされますか? 先方は証拠を隠すのではないでしょうか」

「調査部隊を先行させておるよ。相手が証拠を隠すために動けば、それがある意味証拠となろう」

「では、敵が魔獣で、こちらを攻撃してきたときは……」


 リアナはためらいながら、口を開いた。


「いえ……ありえない話だとは思います。大公さまに魔獣をけしかけるなど、帝国への反逆のようなものですから。ただ、万が一の場合は私が」

「そうだな。皇女殿下とこのカロンで、なんとかするしかなかろうな」


 大公カロンはなんでもないことのように、肩をすくめた。


「まぁ、最悪のことばかり考えても仕方ないよ。殿下」

「……はい。大公さま」


 最悪のときは、自分が盾となり、大公の部隊を逃がそう。

 リアナは心の中で、そう思った。


 今回の魔獣調査には、姉のソフィアも興味を持っている。

 もしかしたらソフィアの部隊も、調査を始めているかもしれない。

 彼らの前で、無様なことはできない。


 それに……姉と会えるようにしてくれたのは大公だ。その恩には報いたい。

 リアナはそんなことを考えながら、拳を握りしめた。


「私が気になるのは、魔王領のことだな」


 不意に、大公カロンは言った。


「彼らが我々より先に、魔獣の召喚者を見つけるとは思えぬが……見つけてしまった場合は、面倒なことになるやもしれぬ。帝国の恥を他国に知られるのは困るからな」

「わかります」

「私も帝国の禄を食んでいる身だ。義理はある。身内の恥は隠すとしよう」

「大公さま」

「なにかな?」

「仮に、今回の魔獣召喚に帝国が関わっていたとして……そのことを魔王領の者に知られたら、どうされるおつもりですか?」

「話をしてみるよ。黙っていてくれるように」


 大公カロンは楽しそうに笑った。


「代わりになにか差し出すとするさ。大公国から貢ぎ物をするのもいいだろう。国境近くの『ノーザの町』を大公国が支援するのもよいだろう。それで交易が進めば、魔王領の利益にもなるからな」

「大公国が支援をして、魔王領との交易を?」


 大公国は帝国とは少し違った政体や税制が取り入れられている。

 そこが支援するなら、『ノーザの町』が魔王領と公式に交流することができるようになるかもしれない。

 姉のソフィアにもメリットになるはずだ。


「あくまで念のためだよ。もとより魔王領に負ける気はないさ」


 大公カロンは座席の脇に置いた剣を、軽く鳴らしてみせた。

 彼の愛剣である、銀色の片刃剣だ。この剣が振られるとき、銀色の旋風が魔獣を切り刻むと言われている。

 生きる伝説、大公カロンの一部とも言うべき剣だ。


「魔王領をみくびるつもりはないが、我らの勝利はゆるがぬ。ただ、魔王領の者と話はしてみたいものだな。彼らの力の源がどこにあるのか、ぜひ」

「……は、はい。大公さま」


 リアナは内心、考え込んでいた。


(私たちが犯人を捕まえれば帝国の利益に、魔王領が捕まえた場合は……姉さまのメリットになるのですね)


 優しい姉、ソフィア。

 彼女は『ノーザの町』を、よりよく治めている。リアナの想像を超えるほどに。

 そうして彼女は、リアナを厳しく指導してくれる人でもある。


 そんな姉の姿を思い浮かべたリアナは── 


(手を抜くわけにはまいりません。そんなやり方で勝ちを譲るなど、姉さまも許さないでしょう。もう、怒られるのはこりごりです)


 本気で競おう。

 たとえ、魔王領にいるあの方・・・に敵わなかったとしても。


 馬車に揺られながら、リアナはそんなことを心に誓うのだった。








 ──その頃、『ノーザの町』の南東の森で──





「これより、魔王領との合同調査を開始する」


『ノーザの町』の南東にある、森の中。

 そこには帝国兵と、魔王領から派遣されてきた兵団が集まっていた。


 帝国兵を率いているのは、部隊長のアイザック・オマワリサン・ミューラ。

 魔王領の兵を率いているのは、将軍であるライゼンガ・フレイザッドだ。


 兵の数は、帝国兵20人に対し、魔王領の兵はミノタウロスが10人。

 魔王領側が少ないのは、帝国兵をおびえさせないためだ。ミノタウロスの力が帝国兵の倍はあることから、互いに話し合って決めたことだった。


「調査の目的は、魔獣を召喚した者の居場所を突き止めることにある。少数精鋭で来たのはそのためだ。皆、ソフィア殿下のご期待にそむかぬように!」


「「「ソフィア殿下のために!」」」

「「「治安を守る『オマワリサン』の誇りにかけて!!」」」


「その意気や善し!」


 兵士たちの士気を確認し、アイザックはライゼンガの方を見た。


「それで将軍。魔王領では魔獣の痕跡を追うための切り札を用意されたとうかがっていますが」

「うむ。紹介しよう」


 ライゼンガが合図すると、兵士たちが箱を持ってくる。

 木製の箱だ。大きさは一辺数十センチ。数は3個。


「これらは、我の尊敬する方が用意してくださったものだ。魔獣を追跡する能力を持つマジックアイテムで、名を『ロボット掃除機』と言う」

「『ロボット掃除機』ですと!?」


 アイザックが声をあげ、帝国の兵士たちがざわめく。

 彼らも、勇者の伝説は知っている。

 勇者のうち数名がゴーレムを見て『超かっこいい。ロボットみたい』と言ったことも。


「つまり、ここにあるのはゴーレムですか。だが、掃除機とは?」

「勇者世界のアイテムで、ゴミや害虫をどこまでも追跡するものだそうだ」

「ゴミや害虫を!?」

「かつて勇者は魔獣を『ゴミめ』『ザコめ』と呼んでいた。それを駆除するアイテムならば、どこまでも魔獣を追跡できるはず。錬金術師どのはそう考え、これを製作されたのだ」


 箱が開いた。

 中から、3体のゴーレムが姿を現す。

 既に起動していたのだろう。それらは、ゆっくりと外に出ようとしている。


「これが魔王領の錬金術師れんきんじゅつしどのが作られた『お掃除ロボット』──蜘蛛型くもがた、蛇型、球体型である!!」





──────────────────




『お掃除ロボット』

(属性:光・闇・地・水・火・風)

(レア度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆)



 全属性の魔石により、魔力探知機と同レベルの『魔力探知能力』を持つ。


 勇者世界の『お掃除ロボット』を参考に作られたゴーレム。

 魔獣がいた痕跡こんせきを突き止め、どこまでも追跡する能力を持っている。


 魔獣の体毛や皮膚のかけらなどを吸い込み、それを手がかりにして進んでいく。

 吸い込んだ素材が増えれば増えるほど、追跡能力が上昇する。


 現在のところ『蜘蛛型』『蛇型』『球体型』の3タイプが存在する。



『蜘蛛型』

 金属製の多関節ゴーレム。

 強力な吸引力で、地上のゴミや魔獣のかけらを吸い込む。

 防御力は3タイプの中で最強。リンク機能搭載。


『蛇型』

 金属と『魔織布ましょくふ』を組み合わせて作られたゴーレム。

 実際の蛇のような、くねくねした動きが可能。

 どんな隙間にも入り込み、隠れたゴミもキャッチする。

 尻尾にさまざまなオプションを装着可能。リンク機能搭載。


『球体型』

 完全な球体型ゴーレム。

 金属と『風の魔織布』で作られており、身体全体でゴミなどを吸い込む。

 移動速度は最も速い。また、衝撃にも強く、壊れにくい性質を持つ。

 リンク機能搭載。


 物理破壊耐性:★★★ (魔術で強化された武器でしか破壊できない)

 耐用年数:1年 (ただし、こまめに整備をすれば、長く保つ)

 2年間のユーザーサポートつき。




──────────────────



「「「これが…………ゴーレム?」」」


 帝国兵たちが言葉に詰まる。

 彼らにとってゴーレムとは、岩や金属で作られた巨人、あるいは人型を現す。


 けれど、目の前に現れたのは、蜘蛛と蛇と謎のボールだ。

 しかもなぜか『掃除機』という名前がついている。


 大きさは、それぞれ1メートル前後で、蜘蛛はカサカサ、蛇はシュルシュル、ボールはぽこんぴょーんと音を立てて、箱から出てきている。


「ライゼンガどの」

「なにかな。アイザック部隊長どの」

「魔王領の技術を疑うわけではないが……これが本当に魔獣を見つけ出してくれるのでしょうか?」

「うむ。勇者世界のアイテムのコピーだからな」

「ゆ、勇者世界の!?」


 思いがけない言葉に、目を見開くアイザック。

 ライゼンガは、トールの工房がある北方を見つめながら、


「あるお方の話によると、勇者世界ではこのような『お掃除ロボット』を用いて、部屋を維持管理しているそうだ。襲い来る外敵の排除さえも行っているという。そうして生活をおびやかす『ゴミ』のような魔獣を退治していたのだろう」

「た、確かに、勇者が魔獣に対し『ゴミめ!』『チリに還れ!』と叫んだという記録はあるが……」

「これは私見だが、勇者世界の『お掃除』とは、敵をきれいさっぱり倒すという意味の、スラングのようなものだったのではないだろうか」

「いや……しかし、そのようなことが」


 アイザックは首をかしげていた。

 彼が知る勇者の伝説の中に、『お掃除ロボット』などというものはない。

 それが魔獣を片付け、まわりをきれいにするものだと言われても、納得できるわけがなかった。


「自分は幼いころから勇者の伝説に触れてきた。だが、こんなものは知らない。本当にこれが、勇者世界のアイテムなのだろうか……?」

「ふむ。アイザックどのは勇者の伝説に触れてこられた、と?」

「そうだ。屋敷にあるものは、すべて目を通している」

「ならば……召喚された勇者の中に、メイドを好む者がいたこともご存じであろう」

「……メイドを?」


 もちろん知っている。有名な話だ。

 確かに召喚された後、宮殿にいるメイドを見て、感動した勇者がいた。

 しかも、複数。


「『メイドさんに身の回りの世話をしてもらいたい。部屋をきれいにして欲しい』……そう申していた勇者もいたはずですな」

「おっしゃるとおりだが……あれは文化の違いから来たものでは?」

「では、勇者が魔獣や魔王軍との戦いに、メイドを同伴していたことについてはどう思われる?」

「あ、あれもやはり趣味の問題では? 『お掃除するメイドさんが好き』という勇者もおりましたから。異世界の風習ではないかと……」

「そうだろうか? 超絶の力を持ち、世界を救うために来た勇者が、それほどこだわるのだ。趣味以外の理由があると考えるのが、自然ではないのかな?」

「……で、では、まさか?」


 アイザックの声が震え出す。

 ライゼンガはその反応に、満足そうにうなずいて、


「うむ。異世界勇者がメイドに望んだ『お掃除』とは、ザコの魔獣を倒すこと。この世界で『ロボット掃除機』の代わりを務めることだった。だから勇者の中に、メイドを雇用するのにこだわった者がいた。そのようには考えられないだろうか?」


 ライゼンガの言葉に、アイザックたち帝国兵が、どよめく。

 

「これが、魔王領にてゴーレムを製作された方の意見だ。部隊長のお考えや、いかに?」

「新説……まさに新説ですな!」


 アイザックは興奮したように叫ぶ。


「帝国での、勇者についての学説がひっくり返りますぞ! 将軍」

「だが、納得できる話であろう?」

「確かに、勇者の指導を受けて、強くなったメイドもいましたからね……そこまで勇者がメイドにこだわり、強化した理由こそが……まさか」

「メイドに『ロボット掃除機』と同じ強さを持たせたかったのだろうよ。自分たちが強力な魔獣や……我らの祖先である魔王軍に専念できるように、露払いをさせたかったのではないかな?」

「だから勇者は『戦闘用メイド』などという言葉を残したのですね……」


 アイザックが口にしたのは、勇者の伝説の中でも、いまだ解読されていない単語のひとつだ。

 この世界に、戦闘を専門に行うメイドは存在しない。

 だからこそ勇者が残した『戦闘用メイド』という言葉が、ずっと謎だったのだ。


 しかし、勇者世界の『お掃除ロボット』が、部屋の掃除を担当し、魔獣さえも討伐するゴーレムであったとしたら──それは。


「勇者世界では、掃除を担当するものと、戦闘を担当するものが同じ……ならば、勇者の世界には、人型で、メイドの姿をしたゴーレムがいたのかもしれませんね」

「あり得る話だ」

「そして、このゴーレムは、勇者世界の『ロボット掃除機』のように、また、勇者が望んだ『戦闘用メイド』のように、魔獣を追跡し、世界をクリーンにするもの……ということですか」


 アイザックは呆然とつぶやいた。


「このアイザック・オマワリサン・ミューラ……我が身の未熟さを思い知らされました。勇者についての新説を、魔王領の方に教えられるとは」

「なぁに、我らも、あの方・・・には教えられてばかりだ」


 ライゼンガは、ゴーレムのひとつを抱え上げた。


「では、あの方が作ってくださった『お掃除ロボット』の力、確認させていただくとしよう。アイザックどの、巨大な魔獣が通った痕跡こんせきというのは、どれだろうか?」

「その大木の向こうです」

「これか……ああ。確かに、木がなぎ倒されているな」


『蜘蛛型』ゴーレムを持ったまま、アイザックの指さす方へ移動するライゼンガ。


 その先には、大きな生き物が通過した跡があった。

 森の木は左右に倒れ、地面はえぐれ、草がまき散らされている。

 巨大な魔獣が、重い身体を引きずって移動したようだった。


「これは数日前、我らの部隊が発見したものです」


 アイザック部隊長は言った。


「その前に来たときはなかった。近くの村人が、森で大きな音がしたのを聞いている。巨大な魔獣の痕跡だとは思うのですが……」

「ならば、確認するとしよう」


 ライゼンガは地面に『蜘蛛型』ゴーレムを下ろした。



 シュルシュル。ころころ。



 他の2体──『蛇型』『球体型』ゴーレムたちが、『蜘蛛型』のまわりにやってくる。

 生まれたての生き物のような、ぎこちない動きだった。



「──動きが遅いな」

「──魔獣の痕跡を追えるとしても、あれでは時間がかかるのではないか?」

「──勇者世界のアイテムを完全に再現するのは難しいのだろうな。仕方ない」



 帝国兵たちがつぶやく。

 あのゴーレムは、勇者世界の『お掃除ロボット』を再現したのかもしれない。

 けれど、完全ではないのだろう。

 そう思いながら、彼らはため息をついた。


「ところで将軍」

「なにかな。アイザック部隊長」

「このゴーレムたちの動きが、不思議なくらいそろっているのは何故ですか?」


 地上のゴーレムたちは、倒木のまわりを動き回っている。

『蜘蛛型』は樹上の幹をはいまわり、『蛇型』はむきだしになった根にからみついている。掘り起こされた地面の上で回転しているのは『球体型』だ。周囲の土を巻き上げて、なにかを探しているようにも見える。

 それぞれが役割分担をしながら、互いの邪魔をしないように動いている。

 術者もいないのに連携を取るゴーレムを見るのは、初めてだったのだ。


あの方・・・の話によると、勇者世界の『お掃除ロボット』は『わいふぁい』というものによって、様々なものとリンクするらしい」

「『わいふぁい』で、リンク……ですか?」

「魔力の一種のようだ。あのゴーレムたちにも、似たような機能が備わっている。なんでも『魔力の波長を合わせることで、三位一体の動きができるようにした』そうだが……」



 ぴたり。



 不意に3体の『お掃除ロボット』が動きを止めた。



 カサカサ。シュルシュル。ごろんごろん。



 まるで見えない糸で操られているように、一斉に東の方を向く。

 そして──




 カサカサカサカサカサッ!

 シュシュシュシュシュッ!

 ゴロゴロゴロゴロゴロッ!



 凄まじいスピードで、森の出口に向かって走り始めた。



「──は、速っ!? なんだあれは!?」

「──魔獣の手がかりを見つけたのか!?」

「──な、なんて速度だ! 誰だ、遅いなんて言った奴は!!」



蜘蛛クモ型』は、カサカサと障害物を乗り越え──

『蛇型』は、草や木をすり抜けながら──

『球体型』は、超高速回転しながら、問答無用で転がって──



 ──3体そろって、東へと突っ走っていく。



「速っ! 『蜘蛛型』が最速か!?」

「ああ、脚が多い分だけ速い! しかも安定している。足場の悪い森の中を、あんな速度で!」


「違う! 速いのは『蛇型』だ」

「木の根っこや転がる石をものともしない。障害物を無視する『蛇型』が最速だ!! 見ろ、あのスムーズな動きを! すでにコーナーを回って、森の出口にさしかかっている!」


「いやいや速いのは『球体型』だ!」

「高速回転しながら走ってる。障害物はバウンドして避けてる!? まさか、他のゴーレムの視界を利用してるのか? 『蜘蛛クモ型』の内側から追い越していくぞ……」


 兵士たちは必死にゴーレムたちを追いかけていく。


「ライゼンガ将軍。うかがってもいいだろうか」

「なにかな。アイザック部隊長どの」

「魔王領では、あれを帝国との戦闘に使おうとは考えていらっしゃらないのですな?」

「むろんだ。陛下もあの方も、そんなことは望まぬ」


 ライゼンガは、真剣な表情でうなずいた。


「我らはソフィア殿下やアイザック部隊長を、善き隣人と考えているのだから」

「……魔王領が敵でなくて本当によかった」


 アイザックの額に冷や汗が伝う。


 あのゴーレムが戦闘用だったら──どうやって対抗すればいいのか、わからない。


『蜘蛛型』は当たり前のように城壁を這い上ることができる。

『蛇型』はわずかな隙間からも入り込むことができる。

『球体型』は──



「──あれが最も恐ろしい。ボールが転がっていたところで、誰も気に留めない。中から武器が出るようにして敵の中に放り込めば……回転する武器が襲ってくるのと同じだ」

「そう考えると、恐ろしいものではあるな……」

「『球体型』のゴーレムを設計したのは、とても頭のやわらかい方なのでしょうな」


 そんなことを口にしながら、アイザックたちはゴーレムたちを追いかけるのだった。

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