第122話「魔王ルキエと話をする」
「まずは、その箱を開けてみよ」
ルキエは硬い声で、そう言った。
ここはライゼンガ将軍の屋敷の広間だ。
彼女は仮面とローブを身につけ、魔王スタイルで椅子に座っている。
つまり、今は魔王領の王として話しているということだ。
俺もちゃんと、礼儀正しくしないとな。
「失礼いたします。陛下」
俺は広間の床に置かれた箱に手を掛けた。
木製の箱だった。
表面には魔王領の紋章が浮き彫りになっている。
それだけで、重要なものだとわかる。
しかも、かなり古いもののようだ。
装飾に使われている石は欠けてるし、ホコリもかぶってる。
思わず修復したくなるけど……今はそんな場合じゃないな。
ふと、顔を上げると、緊張した様子のルキエが見えた。
表情は──『
でも、椅子の肘掛けを握る手が小さく震えている。俺とメイベルの方を向いたり、下を向いたりを繰り返している。
ルキエが気にしているのは、このアイテムのことかな?
それとも──
「陛下、その前にうかがいたいのですが。婚約というのは……」
「箱を開けるのが先じゃ。トールよ」
「……承知いたしました」
俺は古い箱に手をかけた。
箱の中はきれいだった。
底には、布が敷いてある。それほど劣化していない。
中央には何重にも布で包まれたものがある。
相当、貴重なものみたいだ。
ルキエが見せたいものってこれかな。壊れやすいものだろうか。
慎重に見てみよう。そう思いながら、俺は布をほどいていく。
そうして、中から現れたのは──
「これは……魔石?」
即座に俺は『
現れた情報は──
──────────────────
『虹色の魔石』
時間経過によって七色に変化する、半透明の魔石。
変化する色は、白・黒・黄・青・赤・緑・透明。
名前は『魔石』だが、粘土のようにやわらかい。分割して使うことも可能。
とても貴重なもの。
属性:全属性 (光・闇・地・水・火・風すべての属性を持つ)。
──────────────────
「……すごい」
それしか声が出てこない。
なんだこれ。
全属性の魔石……って、そんなものが存在してたのか?
これは相当な貴重品だ。普通に考えたら値段なんかつかない。
思わず手が震え出す。錬金術師だったら誰でもそうだろう。
これは夢の素材だ。どんなアイテムにも使える。
でも──
「これって……魔王領の秘宝じゃないんですか?」
「秘宝というより、
ルキエはそう言って、肩をすくめた。
「アイテムの素材なら、それぞれの属性の魔石を使った方が安くあがる。それに『虹色の魔石』を使いこなせるほどの術者は、これまで魔王領にはいなかった。ゆえに、誰も使う者もなく、宝物庫の奥にしまってあったのじゃ」
「そうだったんですか」
「先々代の魔王さまはガラクタ集めが趣味だったのじゃが、たまに価値があるものも見つけておったのじゃ。それらは宝物庫に収めてある。これもそのひとつじゃ」
「『通販カタログ』も、その魔王さまが手に入れたんですよね?」
「そうじゃな。色々と、面白い方だったようじゃ」
「お会いしてみたかったです」
「ふふっ。お主ならそう言うと思っておった……いやいや、そういう話ではない! 以前の魔王について語るのは後じゃ!」
ルキエは仮面のまま、
「とにかく、この『虹色の魔石』をトールとメイベルの婚約祝いとして贈る。これを素材とすれば、メイベルを守るためのアイテムも作れるじゃろう」
「確かにそうです。でも、この素材は貴重すぎますから──」
「そうか。ならば別のものを」
「──貴重すぎますから、全部いただくことはできません。3分の1……いえ5分の3くらいで」
「好きにせよ」
くくく、と、ルキエが苦笑いする。
「粘土のようなものじゃからな、分割して使うのもよかろう。残りは別の機会に、魔王領のためのアイテムの素材として使うがよい」
「わかりました。では、ありがたく頂戴します」
俺はルキエに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。魔王陛下。この素材は、俺の家族を守るためのアイテムの素材とさせていただきます」
「……うむ」
「ところで、陛下」
「なんじゃ?」
「実は俺から、陛下に申し上げたいことがあります」
「申し上げたいこと、じゃと?」
「はい。貴重なものをくださった陛下に、どうしてもお伝えしておきたいことです」
広間には、俺とメイベルとルキエだけ。他には誰もない。
衛兵さんたちは廊下にいるけど、距離がある。
ここでの話は、俺たち以外には聞こえないはず。
ないしょ話をするには、ちょうどいいと思うんだ。
「もしも、陛下がご不快に思われるのでしたら、どんな罰でもお受けいたします。発言をお許しいただけますか?」
「……トールさま?」
「もしや、
「いいえ。さきほどルキエさまがおっしゃった、俺とメイベルの婚約に関わることです」
俺は言った。
ルキエが一瞬、固まったように見えた。
それから、彼女はなにごともなかったように、うなずく。
メイベルはおどろいた顔で、俺を見ている。
このタイミングで、ルキエが『俺とメイベルの婚約』を提案した理由は、なんとなくわかる。
以前にも、一時的に俺とメイベルの婚約話が出たことがあったからだ。
あれは俺がソフィア皇女と会談するときだったっけ。
俺が帝国に引き抜かれないように、そういう話が出ていたんだ。
今回、同じ話が出たことには、メイベルと『ミスラ侯爵家』の件が関わってるんだと思う。目的はおそらく、メイベルを守るためだ。
だから、婚約そのものについては、別にいい。
でも、そういう話が出たからには、ルキエにもちゃんと話すべきことがあるんだ。
「……なるほど。お主とメイベルの婚約に関わること、じゃな?」
ルキエは興味深そうに、椅子の肘掛けを、とんとん、と叩いた。
「婚約についての説明は後でするつもりなのじゃが、お主はその前に、余に言いたいことがあるのじゃな?」
「はい。どうしても」
「お主とメイベルとの婚約は余の命令でもある。それに不満はあるまい?」
「まったくありません」
「ならばよい。トールの話を聞くとしよう」
「ありがとうございます」
「構わぬ。余は、臣下の言葉は聞くようにしておるからの」
「では申し上げます。陛下にお伝えするのは、恐れ多い言葉ですが……」
俺は床に膝をついたまま、ルキエの顔を見上げる。
表情はわからない。
いつもの、仮面を外してお茶会をしてるときの顔だったら、いいと思う。
くるくる変わるルキエの表情が、俺は好きだから。
そうしてルキエを見つめながら、深呼吸して、俺は告げる。
「俺は、魔王ルキエ・エヴァーガルド陛下を家族のように思っております」
──しばらく、沈黙があった。
ルキエもメイベルも、なにも言わない。
いや、違うな。メイベルはうつむいたまま、口を押さえてる。
言葉がこぼれそうになるのを、必死にこらえてるみたいだ。
ルキエは……うん。硬直してるね。
椅子の肘掛けを握りしめたまま、こっちに向かって身を乗り出してる。
びっくりしてるみたいだ。
やっぱり、このタイミングで言うことじゃなかったかな。
でも、口に出してしまった言葉だ。最後まで言おう。
「俺はさきほど、メイベルに言いました。『メイベルは大切な人で、家族だと思ってる』と。その彼女と婚約するにあたり、陛下にも、同じ言葉をお伝えしておきたかったのです」
なんとなくだけど、そうした方がいいような気がした。
婚約話が魔王領の公式のものになる前に、ちゃんと、ルキエにも。
「帝国に住んでいたころの俺には、家族と呼びたい人はいませんでした。母は小さい頃に亡くしていますし、父は──陛下もご存じのように、ああいう人間ですから。祖父は酒浸りで、孫を構うような人ではありませんでした。だから、帝都に俺の家族はいなかったんです」
俺は、説明を続ける。
「でも、魔王領に来て、俺はメイベルと出会いました。陛下──いえ、ルキエさまには錬金術師として雇っていただきました。その後、ちょっとした事故で、ルキエさまの正体を知ることとなり、それから俺はルキエさまと共に、お茶のテーブルを囲むようになりました。ルキエさまは、マジックアイテムの実験や、勇者世界についての研究にも付き合ってくださいました」
そう言ってから、ひと呼吸。
「そういう時間が、俺にとっては、とても大切なものになっていたのです」
「──!?」
ルキエが目を見開いた──ような気がする。
『認識阻害』の仮面の向こうにある表情が、最近ちょっとだけ読み取れるようになってきた。
もちろん、気のせいかもしれないんだけど。
「先ほど、ルキエさまは『トールとメイベルが婚約』とおっしゃいました。その意味はわかります。俺は以前にもメイベルと一時的に婚約したことがありましたから。となると、今回のこれは、メイベルを守るための措置ですよね?」
「……う、うむ」
「メイベルは俺にとって大切な人で、家族です。その彼女を守るための手段を考えてくださったことに感謝します」
俺はまた、ルキエに頭を下げた。
「俺も同じ気持ちです。メイベルは俺にとって大事な人で、家族ですから。ルキエさまが彼女のためにそういう手段を考えてくださったことが、すごくうれしいです。だから……ですね」
あぁ、まずい。
照れくさくて、ルキエの顔を見ていられない。
俺も自分用に『認識阻害』の仮面を作っておけば──いや、意味はないか。
恥ずかしいことを言うたびに『認識阻害』の仮面をつけてたら、その仮面を着けることが『これから恥ずかしいことを言います』ってサインになってしまう。
となると……恥ずかしいことを言う時用の仮面と、普通の時用の仮面を──って、いかん、混乱してる。
あんまりこういうことを言ったことがないからな。
俺もかなり緊張してるみたいだ。
「と、とにかく、ルキエさまも俺にとって大切な人で、家族のようなものだと、そう申し上げておきたかったのです。それだけです」
本当は『家族になって欲しい人に向ける言葉 (勇者世界版)』を調べてからにするつもりだったんだけどな。
でもルキエの口から──俺がメイベルと公式に婚約するという話を聞いたら──なんだか、急がなきゃいけないような気がした。
自分でもよくわからない。
まぁ……とにかく、言っちゃったものは仕方がない。
ルキエの裁定を待とう。
魔王領を治める王さまに向かって『家族のようなもの』なんて言っちゃったんだ。
刑罰──いや、ルキエに限ってそれはないか。
他の罰といったら……一時的な錬金術禁止だろうか?
それは勘弁して欲しいんだけど……。
「ルキエさま。いえ、魔王陛下」
反応なし。
「先ほども申し上げたように、無礼なことを申し上げた罰は受けるつもりです」
回答なし。
「いかなる罰でも、反論はいたしません」
無言あり。
「あの……これはもしかして『追って
「……この場を離れることは、許さぬ」
ルキエはやっと、それだけを口にした。
「いいから、そこを動くな」
「はい」
「1分待て。トールもメイベルも、そのままじゃ」
「承知しました」
それからの1分は、長かった。
ルキエは椅子の上で立ち上がり、くるりと反転。
俺に背中を向けて、椅子の背もたれを抱くようにして、座り直した。
ローブの背中が、小刻みに上下してる。
静かな広間に、ルキエの呼吸音だけがこだましていた。
それが治まってきたのは、俺のカウントで300秒後。5分くらい経ってた。
でも、ここは魔王が治める魔王領。
魔王が1分と言ったら、それが5分でも100分でも1分だ。
だから俺は360数えたところで、カウントを止めた。
そうして、ルキエの背中が落ち着いたところで──
「……まったく」
魔王ルキエのため息が聞こえた。
からん、と、音がした。床に『
続いてローブも、床の上へ。
そうしてルキエは振り返り、俺を見た。
『認識阻害』を解除した、普段通りのルキエがそこにいた。
不敵な笑みが浮かんでいたけど、視線は泳いでる。
でも、怒ってはいないようだった。
「錬金術師トール・カナンよ。お主がメイベルと婚約することの意味は、わかっておるじゃろうな?」
「承知しております」
もちろん、わかってる。
ルキエが意味もなく、こんなことを言い出すわけがないからな。
「メイベルは失われた『ミスラ侯爵家』の子孫の可能性があります。帝国がこのことを知れば、メイベルと『水霊石のペンダント』を欲しがるでしょう。それを防ぐためには、俺の婚約者にするのが有効……陛下と宰相閣下は、そうお考えなのでは?」
「婚約者がお主である意味は?」
「俺がメイベルを大事な人で、家族だと思っている以外の意味ですか?」
「うむ。政治的な意味じゃ」
「俺の存在を、帝国の者たちが知っているからですよね」
「そうじゃ。お主は帝国から人質として送られてきた人間じゃ。また、リーガス公爵家の長子でもある。また、大公カロンも、ソフィア皇女とリアナ皇女も、お主のことは知っておる」
「けれど、魔王陛下は俺を客人として扱ってくださっています」
「余だけではない。帝国の大公カロンも、双子の姫君も、お主を重要人物として扱っておる。そのお主が魔王領の者を側室とする。その情報は帝国にも伝わるじゃろう。さすれば、どうなると思う?」
「帝国は嘘をつかなければいけなくなりますね」
「どのような嘘じゃろうか?」
「帝国が俺を、最初から、魔王領への使者──あるいは客人として送り込んでいたという嘘です」
たぶん、そうなるだろう。
魔王のお抱え錬金術師で、魔王領の者と婚約した人間を『人質』『生け贄』として扱うわけにはいかない。
帝国は、俺を人質として送り込んだことを、なかったことにするはずだ。
誤解や連絡ミスにするか、俺の父親──バルガ・リーガスが独走したせいにするかはわからない。とにかく、最初から使者か、客人だったことにすると思う。
帝国ってそういう面子とか、体面にこだわるから。
「そうじゃ。余はそこまで考えて、お主とメイベルを婚約させることにした。帝国でのトールの扱いが変われば、帝国と魔王領の関係も変わる。帝国は、自分たちが送り込んだ客人がいる魔王領に、手を出しにくくなる……思わず、そこまで考えてしまったのじゃ」
ルキエは目を細めて、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「余は王じゃ。国そのもののことを考えねばならぬ。だからお主やメイベルを守ることの他に、国同士の関係まで考えてしまった。余にとって大事な者のことを、政治的な目で見たのかもしれぬ……」
「別に、気にしなくていいと思います」
「……なに?」
「だってルキエさまは以前、俺のために怒ってくれたじゃないですか」
親父とガルア辺境伯が俺を利用しようとしたときのことだ。
あいつらライゼンガ将軍に銀の横流しを持ちかけ、その罪を俺になすりつけようとした。
その事実を知ったルキエは、泣きながら──すごく怒ってくれたんだ。
親が子を、そんなふうに利用するなんてあり得ないって。
だから──
「ルキエさまがそういう人だって、俺は知ってます。だから、たまに俺のことを政治的な目で見たって、別に気にしません。それに俺は……ルキエさまが俺の立場も考えて、今回のことを決定されたのだと思ってますから」
「…………!」
「俺とメイベルが婚約して、帝国が俺を『魔王領に送り込んだ客人』だと扱うようになれば……親父がしたように、帝国が俺を利用するのは難しくなります。メイベルとの婚約は、俺を守るものでもある、ということですよね?」
「……うぅ」
「それに……ルキエさまが言ってないことがあります」
俺はルキエとメイベルを見て、笑ってみせた。
「婚約の話が帝国に伝わって……俺が『帝国が魔王領に送り込んだ客人』になれば、俺を生け
「……あ」
メイベルが目を見開いた。
俺の言いたいことが、わかったみたいだ。
「うちの父親も、リーガス家の執事や衛兵隊長も、俺を魔王領まで連行した兵士たちも……みんなそろって、勇者世界の言葉で『ぎゃふん』と言うことになります。ルキエさまが、それに気づかないわけがないですよね?」
「わ、わかります。ルキエさまは……トールさまをひどい目に遭わせた人たちに対して……すごく怒っていらっしゃいましたから」
勢いよくうなずくメイベル。
俺は続ける。
「それに、ソフィア皇女のこともあります。彼女が帝国を捨てて、魔王領に来ることになって……俺の側室とか、まぁ、そういうものになる場合……ソフィア皇女にとっては、俺が帝国から来た客人の方が都合がいいですよね? 帝国が認めた人間のところに行くわけですから」
「陛下はそこまでお考えになっていたのですか!?」
「当たり前だよ。だって、ルキエさまなんだから」
「そ、そうですよね……」
「ルキエさまは魔王だから、俺を政治的な目で見るかもしれない。でも、ちゃんと俺自身や、俺のまわりの人たちのことも考えてくれてる……いえ、くれています」
俺は口調を戻して、まっすぐにルキエを見た。
「そんなルキエさまだから、俺は家族って呼びたいと思ったんです」
「……ぐぬぬ」
俺とメイベルの視線を受けて、ルキエがのけぞる。
ルキエは赤い目を細めて、俺をにらんで、
「その考えが正しいとして……お主はこれから、どうするつもりじゃ?」
「『虹色の魔石』を素材に、3人分のアイテムを作ります。メイベルとルキエさまを守るためのものを。それと、自分用のアイテムも」
「……珍しいな。お主が自分を守るためのアイテムを、とは」
「家族に心配をかけたくないですから」
「──!?」
「……照れくさいので、以上です」
俺は話を打ち切った。
正直、むちゃくちゃ恥ずかしかった。
自分のことも、ルキエのことも、色々と語ってしまったからだ。
でも、俺の言いたいことは、すべて伝えた。
これをルキエがどう考えるかだけど……。
「…………」
ルキエはまた、黙ってしまった。
でも、表情は動いてる。
ぎゅ、っと目を閉じて、唇をかみしめて、はぁ、と、息を吐いて、
それから──
「ああもうわかった! 余の負けじゃ!!」
ルキエは金色の髪を揺らして、
「メイベルとお主が婚約することになって、余は色々と考え、悩んでおった! じゃが、お主のセリフのせいで、考えも悩みも消えてしもうた。もう、考えるのはやめじゃ!」
そうしてルキエは、深呼吸して、一言。
「認めよう。余もお主を……トールを家族のように思っておる! 他の者よりも大切で、側にいて欲しい存在じゃ! 色々と口実をつけたが、帝国でのトールの立場をよくしたかったのも本当で、トールをいじめた者たちを、勇者世界の言葉で『ぎゃふん』と言わせたかったのも、お主の言葉通りじゃ!」
がたん、と、ルキエが椅子から立ち上がる。
靴の
「だが、余は魔王じゃ。お主を最優先にできぬこともある」
ルキエは俺の手を取って、言った。
「国を治めるため、お主と会う時間が取れぬこともあろう。それでもよいか?」
「もちろんです。というか、ルキエさまの仕事が楽になるように、俺はマジックアイテムをじゃんじゃん作るつもりです」
「自分の趣味が入っておらぬか?」
「多少は、まぁ」
「わかった……じゃが、やりすぎるでないぞ」
はぁ、とため息をつくルキエ。
それから空いた手で、金色の髪を掻いて、
「ほんとーに困った奴じゃな。お主は。どれだけ人の心をかき乱せば気が済むのじゃ!」
「申し訳ありません」
「じゃが、もうわかった。お主は余の家族のようなものじゃ。3人でいるときは……余とメイベルを同等にあつかうがよい」
「陛下!?」
「気にするなメイベル。これはもう、決まったことじゃ」
「ですが……」
「お主を守るため、そして、魔王領のためにトールとメイベルを婚約させようとしたのは余じゃ。ならば、その選択の責任を取らねばなるまいよ。まぁ、あくまで家族じゃからな。メイベルのように、
「わかってます。ルキエさま」
「……こら、トール」
ルキエは俺の頭に手を置いて、また、不敵な笑みを浮かべた。
「余はメイベルと同等に扱え、と申したぞ? なのにどうしてまだ『ルキエさま』なのじゃ?」
「えっと」
「ほれ、呼び捨てにしてみよ。この魔王領を治める魔王ルキエ・エヴァーガルドを『ルキエ』と呼んでみたらどうなのじゃ? 家族というからには、それくらい可能じゃろ? ほれほれ」
「わかりました。ルキエ」
「──!?」
いや、呼べっていったのはルキエだよね?
どうして顔を押さえて後ろを向くんですか。
「お主はこれだから……まったく」
ルキエはせきばらいして、それから、
「とにかく、これで話はまとまった。トールとメイベルは婚約する。それを魔王領は公式に発表する。『ノーザの町』のソフィア皇女にも知らせる。無論、帝国にも伝わるじゃろう」
「俺がルキエにお願いして、メイベルとの結婚を望んだことにした方がいいですね」
「うむ。それがよかろう」
「あくまでも選んだのはトールさまで、私には価値がない……そう思わせるのですね?」
いつの間にか俺とルキエとメイベルは、広間の床に座ってる。
3人で額を近づけて、ひそひそ密談状態だ。
「メイベルに価値がない……ってことはないけどね。なぜかというと──」
「わわっ。トールさま。なにをおっしゃるつもりですか!?」
「メイベルをほめるのは後にせよ。それより、これからの予定じゃが──」
それから話し合って、俺たちはこれからの予定を決めた。
数日後、ルキエは魔王城に帰る。
それに俺とメイベルも同行することになる。
その後、魔王城で俺とメイベルの婚約発表を行う。
俺は帝国貴族だから、妻は複数持つことになる。
メイベルは側室になる。これは、帝国のソフィア皇女とバランスを取るためだ。
俺たちが魔王城に行っている間に、ライゼンガ領の家を改築する手配をする。
これはメイベル用の離れを作るためだ。
一応、俺は貴族っぽい扱いを受けることになるからね。
それらの情報は、交流のある『ノーザの町』に伝えることになる。
その前にソフィア皇女にも、
「──こんなところですね」
「私のせいで大変なことになり……申し訳ありません……」
「メイベルのせいではない。それに、お主の祖母を受け入れると決めたのは、先々代の魔王さまじゃ。魔王が公式に決定したことならば、その後継ぎが責任を取るのは当然じゃろ」
さすがルキエだ。頼りになるな。
とにかく、予定は決まった。
いきなり政治的な話になってしまったし、やることも増えたけど、これはすべて必要なことだ。
メイベルを守るため、魔王領を平和のままにするために。
それに、俺のすることは決まってる。
「それじゃ最優先で、メイベル用のアイテムと、ルキエ用のアイテムを作りますね」
「は、はい。お願いします。トールさま」
「余の方は後回しでよいが……まぁ、頼む」
メイベルとルキエはうなずいてくれた。
まずはメイベル用に『水霊石のペンダント』のカバーを。
そしてルキエ用には──もちろん、魔剣だ。
背負う用の大刀は後で作るとして、常に身につけられる魔剣を作ろう。
最後の俺のためのアイテムだけど……これは『通販カタログ』から適当にみつくろえばいいな。使えそうなものがきっとあるはずだ。
こうして、ルキエとの話し合いは終わり。
メイベルとルキエは、俺の家族になった。
ルキエの方は秘密だけど、まぁ、これはしょうがない。
とにかく、メイベルが帝国貴族の関係だというのは予想外だった。
『魔獣調査』の結果、こんな情報がわかるなんて思わなかった。
……失われたミスラ侯爵家と、ティリク侯爵家か。
帝国の内乱のことはどうでもいいけど、侯爵家の子孫のことは気になる。
ティリク侯爵家の方にも、生き残った人はいるんだろうか?
それに、大公カロンのことも気になる。
いい人だから、できれば、無事でいて欲しいんだけど。
そんなことを思いながら──その日の話し合いは終了となったのだった。
──────────────────
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