【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第221話「錬金術師トールと魔王ルキエ、『プレ結婚式』を実行する(2)」
第221話「錬金術師トールと魔王ルキエ、『プレ結婚式』を実行する(2)」
『プレ結婚式』は、2ヶ月後に行われることになった。
招待客は、魔王領と帝国合わせて、二十名前後。
人数を絞って、小規模でやることになったんだ。
目的は、人々の好奇心を満たすこと。
そうすれば問い合わせの数も減るはずだ。
2年後の本格的な結婚式まで、みんな静かに待ってくれると思う。
ケルヴさんや文官たちの負担も減るはずだ。
帝国からは、大公カロンと皇太子ディアスを呼ぶことにした。
あのふたりには影響力がある。
彼らが『魔王の結婚式はこんな感じだった』と話を広めてくれれば、帝国の人たちも落ち着くだろう。
魔王領側の出席者は、各種族の代表者を呼べばいいな。
ミノタウロスの警備隊長さん、エルフの魔術部隊長さんから、種族の長に連絡を取ってもらおう。エルフの村の村長さんも呼びたい。できれば『ご先祖さま』にも来てほしい。そうそう、
出席者のリストを作っていると……ふと、気づいた。
帝国側で名前が出てくるのは、大公カロンと皇太子ディアスと……あとはアイザックさんくらい。
でも、魔王領で呼びたい人は、いくらでも名前が出てくる。
俺にとっての身内は、もう、魔王領の人たちなんだ。
帝国の人は身内じゃなくて『お客さま』。
そんなことに今さら気づいた自分が、なんだか、おかしくなる。
そもそも『プレ結婚式』をやろうと思ったのも、魔王領の人たちの負担を減らすためだからね。
だから、準備はできるだけ俺の方でやるつもりだ。
ルキエからは
作ったものはルキエがチェックするそうだけど。
魔王領のみんなに喜んでもらえるように、がんばろう。
人々を失望させるわけにはいかないからね。
小規模とはいえ、魔王ルキエにふさわしい式にしないと。
まずは結婚式にふさわしいドラゴンを作ろう。
あとは、勇者世界の結婚式の資料を読み込んで──
「あの……トールさま」
「どうしたの。メイベル」
「この剣も、『プレ結婚式』で使われるのですか?」
「うん。勇者世界を真似してるからね」
「空を飛んで、炎を吐き出すダガーも、ですか?」
「勇者世界の結婚式では必要なものらしいよ?」
「拠点攻撃用の兵器にしか見えないのですが……?」
「勇者にとってはおもちゃなんだろうね」
「勇者世界で結婚する人は大変なのですね」
「費用もすごくかかりそうだよね。俺は
「……私は、この世界の人間でよかったです」
「……俺もだよ。勇者世界で暮らしていたら、結婚式を挙げるために生命をすり減らしていただろうね」
そんな話をしながら、俺たちは『プレ結婚式』の準備を進めるのだった。
──2ヶ月後 (宰相ケルヴ視点)──
「お集まりの皆さまに申し上げます。『プレ結婚式』の司会を担当させていただきます。
魔王城の広間で、『プレ結婚式』が始まろうとしていた。
彼はトールが作ったマジックアイテム『
短い
『拡声マイク』を通したケルヴの声は、会場内へと広がっていく。
人々の拍手の音にもかき消されることはない。
マイクが『風の魔石』の力で、ケルヴの声以外の音をかき消しているからだ。
本来、ケルヴは『プレ結婚式』の客席側にいるはずだった。
司会をすることになったのは、彼自身の希望によるものだ。
はじめは客席にいるつもりだった。
けれど、想像してみたら……耐えられなくなった。
マジックアイテムを自由自在に
だったら、せめて司会として参加したい。
それならいざという時、式の進行を止めることもできる。
そう考えて、ケルヴは式の司会をすることを申し出たのだった。
(危ないところでした。この『拡声マイク』を使われたら……私が制止する声もかき消されていたでしょう)
ケルヴは舞台の上で息をつく。
彼は『拡声マイク』を手に、
(そういえばこの『拡声マイク』は、勇者世界の学校などで使われているものなのでしたね。やはりこの『自分が発する音以外をかき消す効果』で、勇者の私語を打ち消していたのでしょうか)
教師が勇者に指示を伝えるのは大変だろう。
勇者は強さに自信を持っている者ばかりで、
教師に反論したり、文句を言ったりする者もいたはずだ。
そんな勇者たちに対して、確実に言葉を伝えるために、『拡声マイク』には『
だから『風の魔石』で空気を震わせ、使用者以外の声をかき消すことができるのだ。
だが──
(このアイテムでも、勇者を静かにさせるのは大変だったと聞いております。勇者世界の文書には『皆さんが静かになるまでに10分かかりました』『25分かかりました! 昨日より長くなっています!』という、教師の言葉が書いてありましたから)
『拡声マイク』でも消せない、勇者の
それがどんなものなのか想像して、ケルヴの身体は震え出す。
(考えるのは後です。今は司会の役目を果たさなければ)
『プレ結婚式』は、ケルヴや文官たちの負担を減らすために開催されたものだ。
準備に、ケルヴたちはほとんど関わっていない。
数日前に式のプログラムと、必要なマジックアイテムを渡されたくらいだ。
ケルヴたちの負担を減らそうというトールの配慮はうれしいが、目の前に並んだ人々を見ると不安がよぎる。
『プレ結婚式』の出席者は二十数名。
魔王領側はミノタウロスやエルフや獣人の族長が出席している。会場の隅には水の入ったタライがある。入っているのは人魚の族長だ。
隣で身体を丸めている狼は『ご先祖さま』。太古から生きている、魔王領の守り神のような存在だ。
そんなものまで呼び寄せてしまうルキエとトールの影響力にびっくりだ。
同時に、『失敗できない』という思いがケルヴの頭をよぎる。
帝国側からも、皇太子ディアス、大公カロン、『ノーザの町』のアイザック・オマワリサン・ミューラが出席している。
魔王領に留学しているリアナ皇女が、彼らの
彼らの前で、無様な姿をさらすわけにはいかないのだ。
ケルヴは不安を抱えたまま、式を進めていく。
彼は手元の
「それでは、魔王ルキエ・エヴァーガルド陛下と、錬金術師トールどのが入場されます。今回は『プレ結婚式』ということで、勇者世界風の入場となっております。
『キシャ────ッ! グルォアアアアアアアッ!』
直後、天地を
城の
巨大な頭部を飾るのは、2本の角。
長い胴体と尻尾は、黒曜石のような鱗で
それは翼を広げた、
「「「お!? おおおおおおおっ!?」」」
出席者たちがさけび声をあげる。
ドラゴンは口から真っ白な
背中に乗っているのは、魔王ルキエと錬金術師トールだ。
ふたりは地上の者たちに手を振っている。逃げようとしていた客たちが、ふたりの姿を見て動きを止める。よく見れば、ドラゴンは身動きひとつしていない。翼もまったく動かさず、空中を滑るように移動している。
あのドラゴンは作り物だ。
飛行しているのは魔王ルキエが身に着けている『
魔王ルキエは『
「
ケルヴは『拡声マイク』を手に、客席へと語りかける。
「あのドラゴンは、勇者世界の結婚式を参考に作り出されたものです。皆さまに危害を加えることはありません」
「──勇者世界の風習ですと!?」
「──ど、どういうことなのだ!?」
「──勇者世界、では、新郎新婦が、ドラゴンに、乗って!?」
「──た、確かに異世界勇者は、ドラゴンに並々ならぬ
「──勇者世界の風習であれば、帝国でも取り入れなければなりませんか。叔父上」
「──待て待て殿下よ。いくらなんでもあれは……」
「──ドラゴンなど、オマワリサンでも管理できないのではないだろうか……」
人々の反応を見ながら、ケルヴは、
「錬金術師トール・カナンどのが、勇者世界の結婚式の資料である『あなたの理想のブライダル』を研究したところ、『異世界の新郎新婦は
「「「な、なんと!?」」」
「ですが、ドラゴンを結婚式に呼び出すわけにはまいりません。ですからトール=カナンどのとドワーフの技術者が協力して、煙を吐き出すドラゴンの
ケルヴは、用意しておいたセリフを語り続ける。
「『プレ結婚式』のプログラムをご説明イタシマス。まずはドラゴンによる新郎新婦の入場。続いて、魔王陛下のスピーチにケーキ入刀、キャンドルサービスが行ワレルこととナッテおります。ドウカミナサマ、魔王陛下と錬金術師トールどのノ『プレ結婚式』ヲ、最後マデミトドケテイタダケルヨウニオネガイイタシマス…………」
「叔父さま。ご立派でした!」
「…………あぁ。エルテ」
すぐ側で自分を見上げる
やり遂げた。自分は、やりとげたのだ、と。
規格外の結婚式の司会として、宰相ケルヴはあいさつを終えたのだ。
ここからの進行は魔王ルキエが引き継いでくれる。
「叔父さまの仕事は、あとは閉会のあいさつだけです。それまでしばらくお休みください」
「エルテ」
「はい。叔父さま」
「……はやく一人前になって、私の仕事を引き継いでください」
「いえ、わたしなど、まだ叔父さまの足下にもおよびません。叔父さまの域に達するには10年以上の年月が……あれ? 叔父さま。どうして倒れそうになっていらしゃるのですか? しっかりしてください! わ、わかりました。なんとか、あと20年で追いついてみせます……え? どうして
そうして、結婚式の進行は、魔王ルキエへと引き継がれ──
宰相ケルヴはエルテに支えられながら、休息を取ることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます