【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第195話「錬金術師トールと皇太子ディアス、対峙する」
第195話「錬金術師トールと皇太子ディアス、対峙する」
俺とアグニスは『ノーザの町』に行くことになった。
帝国の皇太子、ディアス皇子に会うためだ。
彼は大公カロンの副官のノナさんと一緒に、ソフィアの元にいる。
正体がばれると大騒ぎになるから、フードで顔を隠して、旅をしてきたらしい。
帝都ではなく『ノーザの町』に来たのは、大公カロンの『魔王領の
帝国内で皇太子と大公が襲われるなんて、普通に考えたらありえない。
それを元剣聖の大公が撃退できずに、俺を頼るなんてことも、考えられないはずだ。
とにかく、異常事態だった。
状況を確かめて、対策を練る必要がある。
だから俺はアグニスを連れて、皇太子ディアスに会いに行くことになったのだった。
「よく来てくれた。錬金術師どの。アグニスどの」
宿舎で俺たちを出迎えてくれたのは、部隊長のアイザックさんだった。
緊張した表情だった。気持ちはわかる。
皇太子が突然、国境地帯の町を訪ねてきたらびっくりするよね。
『オマワリサン部隊』も、ピリピリしてた。
いつも以上に気合いを入れて、『オマワリサンは町を守る!』と声を上げていたからね。
町の人たちも、なんとなく空気が違うのを、察していたようだった。
「両殿下がお待ちだ。どうぞ、上の階へ」
「その前に、
俺は言った。
「帝国の
「う、うむ。もっともだ。では、部屋を用意しよう」
「ありがとうございます」
そうして、俺とアグニスは空き部屋へと入った。
そして──
────────────────────
「それじゃ『超小型簡易倉庫』から、例のものを出しますね」
「は……はい」
「どうぞ着替えて……って、あの、アグニスさん?」
「ト、トール・カナンさま! あまり見ないで欲しいので」
「いえ、そういう格好になるとは思ってなかったですから……つい」
「は、恥ずかしいので」
「あの……アグニスさん」
「はい」
「これを着るのに、そこまで脱ぐ必要はないですよ」
「え?」
「発火能力は『健康増進ペンダント』でコントロールできてますから、別にその……これの下は、普通に服を着ていても」
「────!?」
そんな感じで──
俺とアグニスは、身支度を調えたのだった。
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──その頃、二階の部屋では──
「身体の調子はいかがですか? ディアス兄さま」
椅子に座った兄に向けて、ソフィアは訊ねた。
ここは、ソフィアの屋敷の応接間。
ソフィアとディアスは椅子に座り、トールたちが来るのを待っていた。
副官のノナも同席している。
彼女はディアスの護衛という立場だ。
大公カロンに厳命されたからだ。『皇太子殿下を守れ』と。
彼女は、この部屋に来てからは一言も口をきかない。
護衛の仕事に
それでもノナが、大公カロンを心配しているのがわかる。
彼女はずっと、真っ青な顔をしている。時折、腕をつかんで、身体の震えを抑えている。
大公カロンの元に向かうのを、必死にこらえているのがわかる。
ソフィアも、できればノナの思いを叶えてあげたい。
けれど、今は無理だ。
『皇帝一族の狩り場』で起きた事件は、明らかな異常事態だ。
現場を見ているのは、ディアスとノナだけ。
ふたりには、トール・カナンに対して、状況を説明してもらう必要があるのだ。
(……でも、まさかリカルド兄さまとダフネが、大公さまを
リカルドとはつい最近、顔を合わせたばかりだ。
あの時、ソフィアは彼に『例の箱』を渡した。
代わりに、ソフィアは国境地帯の領主となり、終生、この地を治めることを望んだ。
それで話はついたはずだった。
リカルド皇子は『例の箱』を手に入れるために、無茶な手段を使った。
部下を国境地帯の交易所や、ソフィアの宿舎にまで侵入させたのだ。
そんな人には、さっさと帰って欲しかった。
『例の箱』を彼に渡したのは、そのためだ。
けれど──
(こんなことになるのなら、もっと話をするべきだったかもしれません)
ソフィアはため息をついた。
「……
不意にディアスが、ぽつり、と、つぶやいた。
「うっとうしいものだな。気にしないようにしても、まとわりついてくる」
「なにかおっしゃいましたか、ディアス兄さま」
「お前も聞いているのだろう。私が、大公カロンに敗れた話を」
「
「ああ。十分だ。このディアスは大公カロンに敗れた」
椅子の背もたれに身体を預け、ディアスは天井を
「必勝を期して立ち向かい。無様に敗れたのだ。片腕が使えぬ大公カロンに対して、双剣を使ってな。片腕を封じれば勝てると、浅はかな考えで」
「……浅はかではないと思いますが」
「だが、両腕を使った大公カロンに敗れた」
ソフィアの言葉を、皇太子ディアスは聞いていない。
彼は独り言のように続ける。
「ここままでは次期皇帝の名折れと、何度も再戦を申し出た。やっと再戦の機会を得たのが、今回の狩りだった。獲物の数で勝てば、再戦を受けてくださると言った……だが、結局、私は大公どのに敗れてしまった」
「再戦はされなかったのでしょう?」
「私はあの方に助けられ、おめおめと逃げたのだ。これが敗北でなくてなんだ!?」
皇太子ディアスは叫んだ。
彼は頭を抱えながら、
「私はなにもできなかった! 状況が理解できず、帝国兵を切り伏せることもできず、
「大公さまは、皆に情報を伝えるために、ディアス兄さまを逃がしたのでしょう」
ソフィアはディアスの視線を受け止めながら、答える。
「狩り場で起きた件について、私たちに伝えるために」
「だが、この敗北感はどうすればいい? 私はまた、大公どのに敗れた。乗り越えるべき相手に救われ、ここにいる。それを──」
「ディアス殿下! 落ち着いてください!」
不意に、副官のノナが叫んだ。
「おみ足から血が出ております。リカルド殿下に
「…………あ、ああ」
痛みに気づいたかのように、ディアスが顔をしかめる。
彼の両足には、包帯が巻かれていた。
逃げるとき、リカルドに斬られたのだ。
そのこともディアスにはショックだったのだろう。
まさか弟が自分に刃を向けるとは。しかも、背後から切りつけるとは思っていなかったのだ。
「……リカルドには、しかるべき
ディアスは歯がみしながら、そう言った。
「だが、あいつのことはどうでもいい。私は大公カロンに勝ちたいのだ。そのためには、あの人には無事でいてもらわなければならない。なにがあっても、どのような犠牲を払っても、大公どのは助け出す! そうだな。ノナ」
「殿下……」
「魔王領の錬金術師とやらは、まだ来ないのか」
ディアスは応接間の扉に視線を向けた。
「今日の約束なのだろう? 帝国の皇子皇女を待たせるとは無礼な──」
「あの方は魔王領の高官です」
ソフィアの鋭い視線が、ディアスを射た。
「他国の高官を、私たちの自由にはできません。それに、今回は私たちが来訪を願い出たのです。それをとやかく言うことの方が無礼では?」
「だが、あやつは元帝国貴族で──」
「関係ありません。あの方を
「……あ、ああ」
ソフィアの迫力に、ディアスはたじろぐ。
久しぶりに会った妹姫の様子に、とまどいを隠せない様子だった。
ディアスの知るソフィアは、病弱で、離宮から出ることもない、忘れられた皇女だ。
『不要姫』などと呼ぶ者もいた。
けれど、今のソフィアは別人のようだ。
健康的で、堂々とディアスと渡り合っている。
そんな彼女だから頼りになると、大公カロンは考えたのだろう。
「──失礼いたします。両殿下」
ドアの向こうで、部隊長アイザックの声がした。
「魔王領からの客人がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「トール・カナンさまとアグニス・フレイザッドさまですね」
「はい……ただ……」
アイザックはとまどうように、
「アグニスどのは普段と違うお姿のようですが、いかがいたしましょう」
「構いません。お通ししてください」
「……はい」
がちゃり、と、ドアが開いた。
その向こうにいたのは、錬金術師のローブをまとった少年、トール・カナン。
それと──深紅の
──トール視点──
「いらっしゃいませ。トール・カナンさま。アグニスさま」
「お招きに預かり、参りました」
「失礼いたす」
俺は応接間に足を踏み入れた。
後ろにいるアグニスは、
『火炎耐性の鎧』とは違う。
ライゼンガ将軍がアグニス用に、新たに作らせたものだ。
金属製の胸当てに、深紅のマント。
炎をかたどった装飾のついた膝当て。
胸元では『健康増進ペンダント』が光っている。
これがフレイザッド家の正装だ。
「お忙しいところ申し訳ありませんでした」
ソフィアは、まったく動じていなかった。
でも、皇太子ディアスは、気圧された様子で、
「そちらの方は、火炎将軍ライゼンガどのの……ご息女か」
「アグニス・フレイザッドと申す。帝国の皇太子殿下がいらしたということで、『火炎巨人』の眷属としての正装でうかがった。以後、お見知りおきを」
ライゼンガ将軍っぽい口調で、アグニスは言った。
今のアグニスは兜をつけていないから、表情がよくわかる。
アグニス、がんばってる。
来る前に何度も練習してたからね。ライゼンガ将軍っぽく話ができるように。
皇太子ディアスは、帝国の重要人物だ。
『強さ』を最重要視する国の中枢にいる人物でもある。
だから、それに対抗する権威として、アグニスに同行してもらったんだ。
もっとも、着替えるときが大変だったけど。
アグニスはずっと『火炎耐性の鎧』を着るとき、他になにも身に着けないようにしてたから、その時の
今は、交渉の場だからね。
「錬金術師トール・カナン──いや、トール・カナンどのに
皇太子ディアスが、俺の方を見た。
「高名な火炎将軍ライゼンガどののご
「そうです。それと、アグニスさまはカロンさまと縁があるので」
「大公どのと?」
「あの方が国境地帯にいらしたとき、アグニスさまは手合わせされているのです。それで、アグニスさまも、カロンさまの身を案じていらっしゃるのですよ」
「────!?」
皇太子ディアスが目を見開いた。
「大公カロンどのと、手合わせを? 勝敗は?」
「それは、今は関係のない話かと」
「……う、うむ」
「帝国内で異常事態が起こったとうかがいました。それでお呼び下さったんですよね。ソフィア殿下」
「そうです」
俺の正面の席で、ソフィアがうなずいた。
「事情を聞かせていただけますか?」
「……承知いたしました。では、わたしが……」
「いや、ノナは
皇太子ディアスは手を挙げて、話し始めようとしたノナさんを止めた。
彼の後ろでノナさんは、真っ青な顔をしてる。
カロンさんのことが心配で仕方ないんだろうな。
「最初に言っておく。私は、大公どのに救われた。あの方が『魔王領の錬金術師を頼れ』と言ったのだ。その意思には従う。あくまで、大公どののために」
「承知しております」
「そして、貴公のことは知っているよ。錬金術師トール・カナン」
皇太子ディアスは、まっすぐ、俺を見た。
俺も、その視線を受け止める。
なんだか、不思議な感じだ。
数ヶ月前までは俺も帝都にいた。
皇帝一族の姿を目にすることもあった。
毎年、新年になると、皇帝と皇太子は宮殿のバルコニーに姿を現したからだ。
そこで、広場に集まった民に向けて、新年の言葉を述べるのが皇帝一族のならわしだった。
俺も出向いたことがある。
そのときは、皇帝一族から、すごい権威と威圧感が伝わってきた。
でも、今はなんとも思わない。
目の前に帝国の皇太子がいて、俺を見ている。ただそれだけだ。
俺が変わったんだろうか。
それとも、皇太子って、元々こういう人だったんだろうか。
「それでは、大公どのの願い通り、貴公にはすべてを伝えよう」
俺をまっすぐに
「まるで、兵士たちがひとつの生き物になったようだった」
最初に異常を感じたのは、大公カロンだったという。
あの人は、四方八方から届く視線に気づいていたそうだ。
まるで、大勢の人間が同時に、自分を見ているように感じたらしい。
さらに、その場にいたリカルド皇子も、奇妙な行動を取っていた。
彼は森から現れた獲物を、出現と同時に矢で
まだ、カロンもディアスも、獲物の存在にさえ、気づいていなかったのに。
その上リカルド皇子は、手から血が出るほど勢いよく、矢を連射していた。
痛みは、感じていないようだった。
不気味な気配を感じた大公カロンは、森へと向かった。
そこには獲物を追い立てるために、大公領の兵と、皇太子の兵がいるはずだった。
大公カロンは彼らを連れて、狩り場から引き上げるつもりだったのだ。
だが、そにはダフネ皇女と、リカルドの兵士たちがいた。
ダフネ皇女は、ソフィアの妹姫にあたる人らしい。
彼女は兵を指揮して、ディアスとカロンを
兵士たちの動きが、おかしかった。
ダフネ皇女は、なにも指示はしていなかった。
なのに兵たちは、連携の取れた動きで大公領の兵士と、ディアスの部下たちを拘束していた。
「……信じられない光景だった。手練れの兵士たちが、次々と無力化されていったのだ」
まるで悪夢のようだったと、ディアス皇子は言う。
「右から兵士の手が伸びてくる。それを払いのけようとした瞬間、反対側から身体を押さえられる。
「それでも大公さまは抵抗していました。けれど……」
耐えきれなくなったように、ノナさんが口を挟んだ。
許可を求めるように、皇太子ディアスを見る。ディアスがうなずく。
「……けれど、相手は帝国兵です。問答無用で斬り殺すわけにはまいりません」
ノナさんは、話を続けた。
大公カロンは帝国最強だ。
だからこそ、彼は兵士たちを斬り伏せることに抵抗があった。
殺さずに無力化しようとしたのだと、ノナさんは言う。
「大公さまには『
「奴らはそれを
皇太子ディアスは、苦々しい口調で、そう言った。
「まるで、大公どのが技を使うのが、わかっていたかのようだった」
大公カロンが剣に手を掛ける。腕に力を込める。足を一歩、踏み出す。
そうした動きを、兵士たち全員が捉えていたようだと、皇太子ディアスは言った。
「兵士たちのうち、数名の者が盾となり、『
大公は数名を殴り倒し、再び衝撃波を放った。
同じ手で避けられた。けれど、これは大公の誘いだった。
大公カロンは、敵を自分に引きつける目的で、大技を放ったのだ。
即座に大公は副官ノナに、ディアスを連れて逃げるように指示を出した。
『魔王領の錬金術師を訊ねて、力を借りろ』──と。
ディアスは、拒否した。
他の兵士たちと協力すれば、包囲を突破できると考えたからだ。
だが、配下の兵士たちは、すでに動きを止めていた。
リカルドが持つ、奇妙な板の効果だった。
板には、奇妙な絵が映っていた。
人が、なにか体操をしているように見えた。
リカルドはそれを、ディアスの部下や、大公の部下に見せていた。
後ろから手足を掴み、絵の中の人物と同じ動きをさせていた。
なにかの魔力運用のようだった。
そうしているうちに、ディアスと大公の部下たちは、抵抗を止めた。
再び大公カロンの「逃げろ」という声が響いた。
次の瞬間、飛びついてきたリカルドが、ディアスに向けて剣を振った。
足の怪我だけで済んだのは、ノナさんのおかげだ。
馬に乗ったノナさんが、ディアスを馬上へと引っ張りあげたからだ。
彼女が乗ったのは大公カロンの馬だ。丈夫で、足も速い。
彼女はそのまま森を脱出した。
そうして、ふたりは『ノーザの町』へとやって来たのだった。
「皇太子殿下にうかがいます」
話を聞いたあと、俺は懐から、1枚の
「リカルド殿下が持っていた『奇妙な板』とは、こういうものではなかったですか?」
羊皮紙に描かれているのは、『正義の精神感応スマホ』の絵だ。
『通販カタログ』には『スマホ』は載っていない。
でも、『スマホケース』はある。だいたい、似たような形をしていた。
となると、『カースド・スマホ』と『正義の精神感応スマホ』が同じ形をしている可能性がある。
「…………貴公は、どこでこれを」
予想通りだった。
皇太子ディアスはおどろいたように、目を見開いた。
「やっぱり、同じ形をしているんですね?」
「どうしてこれを知っている!? まさか! 貴公もリカルドたちと同じように!?」
「落ち着いてください。ディアス兄さま」
立ち上がろうとしたディアスを制したのは、ソフィアだった。
「ノナさまのお話にもあったでしょう。リカルドたちの手首には、鎖のような印があったと。トール・カナンさまの手には、そのようなものはありませんよ」
「……では、なぜ、貴公はこのアイテムのことを知っているのだ!?」
「お教えすることはできます。けれど、その前にひとつ、約束してください」
俺は皇太子ディアスと視線を合わせたまま、告げる。
ルキエは、『カースド・スマホ』について、帝国に伝えるのは構わないと言っていた。
というか、すでにソフィアがリアナ皇女宛に書状を出しているはずだ。
こういう危険なものがあるから、触れないように、と。
リアナ皇女が、ソフィアからの手紙を無視するわけがない。
書状を読んでいるなら、指示に従うはずだ。『聖剣の姫君』が「こういう危険なものがあります」と帝都に言えば、無視はできない。ある程度の情報は伝わっているはず。
そうなっていないということは、リアナ皇女は今、帝都にいないのだろう。
もしかしたら、書状は帝都に留め置かれているのかもしれない。
「約束していただけますか? リカルド殿下が手にしているアイテムを、破壊すると」
「……なんだと」
「皇太子殿下のお話をうかがってわかりました。リカルド殿下が持っているアイテムは人を軍勢に……いえ、人を個人ではなく、群体にしてしまうものです。身体強化と感覚同調、そういう効果を持っていると考えられます」
リカルド皇子が持っているのは間違いなく『カースド・スマホ』だ。
その中にあるはずの『
リカルド皇子やダフネ皇女、兵士たちを取り込んでいる。
下手をすれば、大公カロンさえも。
『軍勢ノ技』は『ハード・クリーチャー』対策のために作られたものだ。
だとすれば……それにかかったものは『ハード・クリーチャー』を召喚してしまうかもしれない。
自分たちの強さを試すために。
でも、ディアス皇子とノナさんの話を聞く限り、『軍勢ノ技』にかかった者は、理性が吹っ飛んじゃってる。
そうじゃなかったら、皇太子や大公に手を出したりはしないだろう。
そんな連中が召喚を始めたら、ところ構わず『ハード・クリーチャー』を呼びだして被害を拡大……ってことも起こりうる。
できるだけ早く、対処する必要があるんだ。
「今回、俺とアグニスさまは、魔王領の
だから俺もアグニスも、正装している。
魔王ルキエからある程度の権限も、預かってきてる。
帝国の皇太子と、対等の立場で、交渉をするために。
「皇太子ディアス殿下にうかがいます。今回の事件を解決するために、魔王領と対等の立場で協力する気はおありですか?」
「──な!?」
「リカルド殿下が使っている術は危険です。すべての人間、亜人、魔族が協力して対処する必要があります。どちらが上とか関係ありません。差別感情を気にしている暇もないんです」
「…………う」
「すぐに対処しなければいけません。帝都に確認してからでは遅すぎるんです。そして、俺たちには現場を見ているディアス殿下と、ノナさんの力が必要です」
俺は深呼吸してから、続ける。
「もう一度うかがいます。皇太子ディアス殿下は、魔王領と対等の立場で協力することはできますか?」
俺の後ろには
『ライゼンガ将軍の代理』という
正面には真剣な表情のソフィアがいる。
彼女はこの場の立会人でもある。
皇太子ディアスの言葉の、その証人となるために。
皇太子の後ろにいるノナさんは、緊張した表情だ。
彼女は魔王領の力を知っている。
この交渉の結果によって大公カロンの運命も決まる。そう思っているのだろう。
そして皇太子ディアスは、じっと俺を
彼は帝国の中枢にいる人間だ。
そして、次期皇帝でもある。
自分が発する言葉の重みを、わかっているのだろう。
彼はまだ、なにも言わない。
俺とアグニスに視線を向けながら、じっと、考え込んでいる。
だから、俺はじっと、皇太子ディアスの答えを待つ。
共闘するか。それとも、それぞれに『カースド・スマホ』に対処するか。
その結論を、待っていたのだった。
────────────────────
【お知らせです】
書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」4巻の発売日が発表になりました。
7月8日です!
4巻は全体的に改稿を加えた上に、後半が新たに書き下ろした、書籍版オリジナルのお話になっています。
(ただいま原稿チェック中です。WEB版を金曜日に更新したのは、土日にがっつりチェックするためでもあったりします……)
WEB版とは少し違うルートに入った、書籍版『創造錬金術師』4巻を、よろしくお願いします。
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