第120話「番外編:第1回羽妖精(ピクシー)会議」

「創造錬金術」書籍版発売記念の番外編、第6弾です。


 書籍版発売日まで、あと3週間前後となりました。

 カドカワBOOKさまのホームページでは、表紙やキャラクターデザイン、画像つきの作品紹介も公開されています。

 ぜひ、見てみてください。


 さてさて。

 今回は羽妖精ピクシーが住む森で行われた、とある会議のお話になります……。



──────────────────




「これより第1回、羽妖精ピクシー会議をはじめるのですー!!」



 ここはライゼンガ領の西にある、羽妖精の森。

 広場には、たくさんの羽妖精たちが集まっていた。


 赤い髪の、火の羽妖精。

 黄色い髪の、地の羽妖精。

 青い髪の、水の羽妖精。

 緑の髪の、風の羽妖精。

 それぞれが髪の同じ色の服を身にまとい、気ままに飛び回っている。


 中央に浮かんでいるのは、黒髪のルネと、プラチナブロンドのソレーユだ。


「司会をつとめるのは、闇の羽妖精ルネと──」

「私、光の羽妖精のソレーユです」


 ふたりはまわりの羽妖精を見回して、一礼した。


 彼女たちが進行役をやることについて、反対意見は出なかった。

 今回の会議はずっと前から計画されていたことだ。


 議題は、羽妖精の生活の変化に関するものだ。


 羽妖精たちは西の森に住み、他種族とはほとんど接触することはなかった。

 彼女たちの日常を塗り替えるような事件が起きたのは、ほんの数ヶ月前のことだ。


 今日の会議は、そのためのもの。

 羽妖精たちにとって最も重要な議題について、話し合うためのものだった。


 それは──



「「では『誰が錬金術師さまの、一番の部下か』について、話し合いを始めましょう!」」


 ぱちぱちぱちぱちっ!!



 ルネとソレーユが議題を告げると、他の羽妖精たちが一斉に拍手する。 


「待っておりましたー!」

「……楽しみ」

「心が燃えるー」

「…………おなかへった」


 地、水、火、風の羽妖精たちは、それぞれに声をあげた。


 錬金術師とはもちろん、トール・カナンのことだ。

 彼はこの森の近くに居を構えている、羽妖精たちの良き隣人だ。


 さらに、彼は羽妖精たちに『魔織布ましょくふ』を与えてくれた人でもある。

 光・闇・地・水・火・風の属性を持つ『魔織布』の服のおかげで、羽妖精たちは自由に人前に出られるようになった。

 それを『フットバス』と併用することで、光の羽妖精ソレーユも元気になった。

『なりきりパジャマ』を使うことで、人の世界にも出入りできるようになったのだ。


 錬金術師トール・カナンは羽妖精の世界を広げてくれた。

 彼は羽妖精という種族すべての恩人だ。

 それに、一緒にいるとすごく楽しい人でもある。


 羽妖精たちは彼の側で、役に立ちたいと思っている。

 だから『誰が彼の一番の部下か決めよう会議』が行われることになったのだった。


「では司会として、最初に発言させていただきます」


 こほん、とせきばらいして、闇の羽妖精ルネは言った。

 彼女は隣にいるソレーユを見てから、

 

「会議が長引かないように、結論から申し上げます」

「もっとも錬金術師さまのお役に立っている羽妖精は、ソレーユとルネだと思うの」


 しゅた、と、手を挙げて、ルネとソレーユは宣言した。

 背中合わせになり、くるくる回りながらまわりの者たちを見回す。


「ルネは錬金術師さまの腹心として、連絡役を任されているのでございます」

「ソレーユは『ノーザの町』のソフィア皇女との、橋渡しをしているのよ」


「最初に錬金術師さまと出会ったのはルネで」

「最初に命を救われたのも、ソレーユなの」


「ルネは錬金術師さまのために命をかける覚悟でございます」

「ソレーユも、錬金術師さまの幸せのために尽くす覚悟なの」



「「というわけで、ルネとソレーユが一番の部下ということで決まりなの!」」



 ふたりは、びしり、と、空中で停止。

 闇と光の『魔織布ましょくふ』のスカートをつまんで、一礼。

 まわりの羽妖精たちの答えを待つ。


 そして、しばらくすると──



 ふわふわ、ふわふわ。



 羽妖精たちが、ルネとソレーユに近づいてくる。

 みんないい笑顔だった。

 彼女たちはふたりのまわりで輪になり、それから、




「「「「異議ありー」」」」




 みんな同時に、反対の声をあげた。


「異議あり! 炎のように反論!」

「自分にも意見がございます」

「……わたしも言いたいこと、ある」

「…………ねむたい」

「語らせて! 熱っぽく話したい!!」

「はいはい! 自分も手を挙げております」

「……発言、させてほしい」

「…………すぅ」


 わちゃわちゃと発言する羽妖精たち。


「わかりました。では順番に」

「そちらの方、どうぞー」


 ルネとソレーユは、適当にひとりを指さした。

 前に出たのは、真っ赤な髪の少女、火の羽妖精だった。


「火の羽妖精を代表して申し上げるよ!」


 赤い髪を揺らして、彼女は言った。


「私たち火の羽妖精は、しょっちゅう錬金術師さまのお役に立ってる! 絶対!」


「うかがいましょう」

「具体的な内容を聞きたいのよ」


「錬金術師さまがお風呂好きなことは、皆さまご存じの通り」


 火の羽妖精は宣言した。


「お風呂を湧かすためには火が必要。だから火の羽妖精は、かまどの火をおこすお手伝いをしてる。仕事に夢中になるとお風呂を忘れてしまう錬金術師さまだから、火の羽妖精はあの方に『お風呂がわいたよー』とお伝えする仕事もしてるんだよー!!」


「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」


 周囲の羽妖精たちが拍手する。


「これは一本取られたのでございます」

「……ソレーユも、感動したの」

「…………びっくり」


 ルネもソレーユも、他の羽妖精たちも、感心したように火の羽妖精を見ている。

 そんな中、地の羽妖精が立ち上がり──


「でもでも、お風呂を沸かすなら、アグニスさまでもできるのではございません?」


 びしり、と手を挙げて異論を述べた。


「火の羽妖精たちは、アグニスさまができないときに、お手伝いをしてるだけでは? それほど役に立っているとはいえないと思います」

「地の羽妖精。あなたはひとつ、見落としてるよー」


 ちっちっちっ、と、唇の前で指を振り、ついでに髪から火の粉を散らして、火の羽妖精は言う。


「アグニスさまがお風呂を沸かすには、服を脱ぐ必要があるのです。つまり、錬金術師さまのご自宅の湯沸かし場で、裸にならなければいけないのです!!」

「「「「「おお!」」」」」

「アグニスさまはおっしゃっていました。『トール・カナンさまのおうちで服を脱ぐのが、くせになったらどうすればいいので』と。そういう意味では、火の羽妖精はアグニスさまをお助けしているとも言えましょう!!」


 火の羽妖精は、気合いを入れて宣言した。


「錬金術師さまだけでなく、アグニスさまもお助けしている火の羽妖精こそ、錬金術師さまの第一の部下と言えるのではないでしょうか!!」


 そうして、火の羽妖精は、みんなに向かって一礼。

 照れくさそうに、仲間のところへ戻っていったのだった。


「司会のルネでございます。ソレーユ、今の主張についてはどうなのでしょう?」

「説得力があるの」

「ルネも、生活に即したお話だと感じました」

「では、異論のある者は──はい。地の羽妖精さま」


 ソレーユは、挙手した地の羽妖精を指さす。

 黄色い髪をした地の羽妖精は、地面に降り立ち、樹木のように背筋を伸ばして、


「地の羽妖精が申し上げるのでございます!」


 まっすぐに手を挙げたまま、宣言した。


「火の羽妖精は、ひとつ隠し事をしております」


「隠し事?」

「どういうことなのよ? 地の羽妖精さん」


「自分は知っています。お風呂のお手伝いをする代わりに、火の羽妖精が錬金術師さまの手から、お菓子を食べさせてもらっていることを! テーブルの上で『あーん』と口を開けて、錬金術師さまが手にした焼き菓子をかじったり……錬金術師さまがてのひらに載せたお菓子に口をつけていることを!」


「「「「「な、なんだってー」」」」」


 予想外の言葉に、羽妖精たちが声をあげる。

 ルネとソレーユは赤面し、水の羽妖精は興奮したのか、周囲に霧を発生させる。


「な、なんということを!」

「他の羽妖精は、パーティのときにやってもらっただけなのよ。それを火の羽妖精は……お手伝いをするたびに?」


 空中で顔を見合わせる、ルネとソレーユ。


「しかも火の羽妖精は、メイベルさまと連携していますよね?」


 さらに、地の羽妖精は続ける。


「あなたが錬金術師さまの手からお菓子を食べているとき、隣でメイベルさまは錬金術師さまにお菓子を食べさせたり、食べさせてもらったりしているのでしょう?」

「う、うん。メイベルさまがそうしたいって」

「仲良しなのはいいことです。けれど、そんなうらやま……いえ、錬金術師さまにお手間を取らせている子は、あの方の一番の部下にふさわしくないのでは?」


「「「「「むむむー」」」」」


「それに対して、私たち地の羽妖精は真面目で堅実です。伝言や手紙を運ぶのに向いております。つまり、あの方の一番の部下には地の羽妖精こそが──」

「……異議、ある」


 次に発言したのは、内気な、水の羽妖精だった。

 彼女たちは木の枝に腰掛けて、ぽつりぽつりと話し始める。


「……錬金術師さまはお風呂が好きだけど、お茶も好き。どちらも水。錬金術師さまは……水と縁が深い……の」


「皆さま。水の羽妖精さまが、いつになくたくさんしゃべっております」

「どうかお静かに。勇者世界で言う『お口にチャック』なのよ」


 ルネとソレーユ、他の羽妖精たちは口を押さえ、水の羽妖精の言葉を待つ。

 話を聞いてくれる様子の仲間たちに会釈して、水の羽妖精は、


「……お世話係のメイベルさまも……水属性の、エルフ。メイベルさまがいないときは、水を作り出すのは、わたしたちのお仕事」

「「「「「ふむふむ」」」」」

「たまにこっそり、汗もふいて差し上げてる」

「「「「「なんとーっ!?」」」」」

「錬金術師さまは集中すると熱くなるので、濡らしたおしぼりで……頭を冷やすこともあるの。そういうときは、体温の低い、水の羽妖精がお役に立つ……」


「お待ちください! 水の羽妖精さま!」

「内気な方々だと思っていたら、そんな大胆な!?」

「詳しく!」「続きをお願いいたします!」


 水の羽妖精の発言に、他の者たちが騒ぎ出す。

 内気な水の羽妖精だったが、考えていることは大胆だった。彼女たちが夏を待っていること。熱い夜に、錬金術師トールの額や首筋を冷やす役目を果たそうとしていること。すでに水の羽妖精たちの間で、ポジションを決めていること。トールの胸を冷やす役目の倍率が高いこと。

 そんな話を聞いた、他の羽妖精たちは──


「「「「「異議あり──っ!!」」」」」


 司会役のルネとソレーユを含めて、全員で声をあげた。

 もはや会議もへったくれもなかった。

 発言の順番も関係なく、彼女たちは口々に意見を述べていく。


「ルネもそういうことをしたいのでございます。水の羽妖精はずるいです」

「じゃあソレーユは夜の灯りになります! 錬金術師さまのお着替えを手伝います!」


 ルネもソレーユも司会役を放り投げ、議論に突入する。

 さらに他の羽妖精たちも加わり──会議は混迷を極めていく。


「メイベルさまは確かに水属性。でも、それを言うなら魔王陛下は闇属性。ならばルネこそが──」

「ソフィア殿下は錬金術師さまのおよめさんになろうと画策中。そもそも『UVカットパラソル』を作られたのは、錬金術師さまが光に興味があるからで──」

「いえいえそれならばアグニスさまは火属性。しかも錬金術師さまは、火炎巨人イフリートの子孫であるライゼンガ将軍の領地に住んでいて──」

「……水属性を仲間外れにしないで」


 わちゃわちゃ。わちゃわちゃ。

 羽妖精たちの議論は終わらない。


 誰が錬金術師トールの一番の部下が。

 役に立っているか。

 仲良しになりたいか。


 ──ソフィア皇女がおよめさんになったら、ソレーユが付き人に。

 ──それは一番の部下とは関係ない。

 ──火はお料理に必要。

 ──それを言うなら……水も。

 ──だったら地属性のおよめさんを探して参ります。


 わちゃわちゃ。わちゃわちゃ。

 わさわさ。ふわふわ。


 森の中での会議は続く。

 話し続けた羽妖精たちは、やがて、息を切らせる。

 疲れて木の枝に座り込む者、地面に横たわる者。広場の泉に浮かんで休む者。

 なしくずしに休憩時間になり、彼女たちは一休み。

 そうして、話が一段落したところで──



「……あれ? そういえば……風の羽妖精は?」



 ──彼女たちは、いつの間にか姿が見えなくなっている者がいることに、気がついたのだった。






 ──トール視点──





「……ああ。寝ちゃってたか」


 気づくと夕方だった。

 お昼を食べて横になったら、そのまま眠ってしまってたみたいだ。

 今日はいい天気だ。

 開けっぱなしの窓から入って来る風も温かい。

 昼寝するにはちょうどいいな。毛布を掛けてるせいで、身体も冷えてない。むしろぽかぽかする。


 ……でも、ちょっと暖かすぎるんじゃないかな?


 そう思って、毛布をはがしてみると──



「すやすや……」

「きもちいいですー」

「あったかー」

「しあわせー」



 俺の胸やお腹の上で、数体の羽妖精ピクシーさんが眠ってた。


「……いつの間に」


 全員、髪と服は緑色だ。ということは、風の羽妖精たちか。

 俺が昼寝をしてる間に、窓から入り込んでたらしい。まるで猫みたいだ。


「くっついて寝てるのは別にいいんだけど、他の子たちは?」


 俺が訊ねると、風の羽妖精たちは眠そうな声で、



「──話し合ってましたー」

「──難しい話、してた」

「──長くなりそうでしたー」

「──だから、思ったの」



「「「「話し合いをするよりも、本人に会いに行った方がいいって」」」」

「……どういう意味?」


 思わず西の森の方を見ると……あれ?

 なんかすごい勢いで、羽妖精たちが飛んでくるよ? 大勢だよ?

 一体なにが起こって……?


「「「「錬金術師さま。お願いします」」」」


 羽妖精たちは起き上がり、俺のお腹の上で、正座。

 そうして、めいっぱいに頭を下げて、



「「「「かくまってくださいー!」」」」

「君たち一体なにをしたの!?」



 結局、間に合わなかった。

 俺が事情を聞く前に、羽妖精たちは全員で俺の部屋に飛び込んできた。


 先頭にいたのは、闇の羽妖精のルネと、光の羽妖精のソレーユ。

 ふたりは俺に向かってお辞儀をして、


「失礼いたします。錬金術師さま」

「このお詫びはのちほど、ちゃんとするの。ですから、今は……」



「「「「「抜け駆けしてる不届き者を、引っ立てるのです──っ!!」」」」」

「「「「おゆるしをー」」」」



 そうして、風の羽妖精たちは、他の子たちに引っ立てられて行き──



『錬金術師さまの第一の部下は、ご本人のご意見で決めることにしました。下記にご記入くださいー』



 ──数日後、家に届いた調査用紙を前に、俺は首をかしげることになるのだった。





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【お知らせです】

 いつも「創造錬金術」をお読みいただき、ありがとうございます!


 書籍版「創造錬金術」の情報が、カドカワBOOKSさまのホームページで公開中です。

 表紙の画像やキャラクターデザイン、キャラ紹介など、さまざまな情報がアップされています。ぜひ、見てみてください!


 書籍版の発売日は5月8日です。

 書き下ろしエピソードも追加してますので、どうか、よろしくお願いします!

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