【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第120話「番外編:第1回羽妖精(ピクシー)会議」
第120話「番外編:第1回羽妖精(ピクシー)会議」
「創造錬金術」書籍版発売記念の番外編、第6弾です。
書籍版発売日まで、あと3週間前後となりました。
カドカワBOOKさまのホームページでは、表紙やキャラクターデザイン、画像つきの作品紹介も公開されています。
ぜひ、見てみてください。
さてさて。
今回は
──────────────────
「これより第1回、
ここはライゼンガ領の西にある、羽妖精の森。
広場には、たくさんの羽妖精たちが集まっていた。
赤い髪の、火の羽妖精。
黄色い髪の、地の羽妖精。
青い髪の、水の羽妖精。
緑の髪の、風の羽妖精。
それぞれが髪の同じ色の服を身にまとい、気ままに飛び回っている。
中央に浮かんでいるのは、黒髪のルネと、プラチナブロンドのソレーユだ。
「司会をつとめるのは、闇の羽妖精ルネと──」
「私、光の羽妖精のソレーユです」
ふたりはまわりの羽妖精を見回して、一礼した。
彼女たちが進行役をやることについて、反対意見は出なかった。
今回の会議はずっと前から計画されていたことだ。
議題は、羽妖精の生活の変化に関するものだ。
羽妖精たちは西の森に住み、他種族とはほとんど接触することはなかった。
彼女たちの日常を塗り替えるような事件が起きたのは、ほんの数ヶ月前のことだ。
今日の会議は、そのためのもの。
羽妖精たちにとって最も重要な議題について、話し合うためのものだった。
それは──
「「では『誰が錬金術師さまの、一番の部下か』について、話し合いを始めましょう!」」
ぱちぱちぱちぱちっ!!
ルネとソレーユが議題を告げると、他の羽妖精たちが一斉に拍手する。
「待っておりましたー!」
「……楽しみ」
「心が燃えるー」
「…………おなかへった」
地、水、火、風の羽妖精たちは、それぞれに声をあげた。
錬金術師とはもちろん、トール・カナンのことだ。
彼はこの森の近くに居を構えている、羽妖精たちの良き隣人だ。
さらに、彼は羽妖精たちに『
光・闇・地・水・火・風の属性を持つ『魔織布』の服のおかげで、羽妖精たちは自由に人前に出られるようになった。
それを『フットバス』と併用することで、光の羽妖精ソレーユも元気になった。
『なりきりパジャマ』を使うことで、人の世界にも出入りできるようになったのだ。
錬金術師トール・カナンは羽妖精の世界を広げてくれた。
彼は羽妖精という種族すべての恩人だ。
それに、一緒にいるとすごく楽しい人でもある。
羽妖精たちは彼の側で、役に立ちたいと思っている。
だから『誰が彼の一番の部下か決めよう会議』が行われることになったのだった。
「では司会として、最初に発言させていただきます」
こほん、とせきばらいして、闇の羽妖精ルネは言った。
彼女は隣にいるソレーユを見てから、
「会議が長引かないように、結論から申し上げます」
「もっとも錬金術師さまのお役に立っている羽妖精は、ソレーユとルネだと思うの」
しゅた、と、手を挙げて、ルネとソレーユは宣言した。
背中合わせになり、くるくる回りながらまわりの者たちを見回す。
「ルネは錬金術師さまの腹心として、連絡役を任されているのでございます」
「ソレーユは『ノーザの町』のソフィア皇女との、橋渡しをしているのよ」
「最初に錬金術師さまと出会ったのはルネで」
「最初に命を救われたのも、ソレーユなの」
「ルネは錬金術師さまのために命をかける覚悟でございます」
「ソレーユも、錬金術師さまの幸せのために尽くす覚悟なの」
「「というわけで、ルネとソレーユが一番の部下ということで決まりなの!」」
ふたりは、びしり、と、空中で停止。
闇と光の『
まわりの羽妖精たちの答えを待つ。
そして、しばらくすると──
ふわふわ、ふわふわ。
羽妖精たちが、ルネとソレーユに近づいてくる。
みんないい笑顔だった。
彼女たちはふたりのまわりで輪になり、それから、
「「「「異議ありー」」」」
みんな同時に、反対の声をあげた。
「異議あり! 炎のように反論!」
「自分にも意見がございます」
「……わたしも言いたいこと、ある」
「…………ねむたい」
「語らせて! 熱っぽく話したい!!」
「はいはい! 自分も手を挙げております」
「……発言、させてほしい」
「…………すぅ」
わちゃわちゃと発言する羽妖精たち。
「わかりました。では順番に」
「そちらの方、どうぞー」
ルネとソレーユは、適当にひとりを指さした。
前に出たのは、真っ赤な髪の少女、火の羽妖精だった。
「火の羽妖精を代表して申し上げるよ!」
赤い髪を揺らして、彼女は言った。
「私たち火の羽妖精は、しょっちゅう錬金術師さまのお役に立ってる! 絶対!」
「うかがいましょう」
「具体的な内容を聞きたいのよ」
「錬金術師さまがお風呂好きなことは、皆さまご存じの通り」
火の羽妖精は宣言した。
「お風呂を湧かすためには火が必要。だから火の羽妖精は、かまどの火をおこすお手伝いをしてる。仕事に夢中になるとお風呂を忘れてしまう錬金術師さまだから、火の羽妖精はあの方に『お風呂がわいたよー』とお伝えする仕事もしてるんだよー!!」
「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」
周囲の羽妖精たちが拍手する。
「これは一本取られたのでございます」
「……ソレーユも、感動したの」
「…………びっくり」
ルネもソレーユも、他の羽妖精たちも、感心したように火の羽妖精を見ている。
そんな中、地の羽妖精が立ち上がり──
「でもでも、お風呂を沸かすなら、アグニスさまでもできるのではございません?」
びしり、と手を挙げて異論を述べた。
「火の羽妖精たちは、アグニスさまができないときに、お手伝いをしてるだけでは? それほど役に立っているとはいえないと思います」
「地の羽妖精。あなたはひとつ、見落としてるよー」
ちっちっちっ、と、唇の前で指を振り、ついでに髪から火の粉を散らして、火の羽妖精は言う。
「アグニスさまがお風呂を沸かすには、服を脱ぐ必要があるのです。つまり、錬金術師さまのご自宅の湯沸かし場で、裸にならなければいけないのです!!」
「「「「「おお!」」」」」
「アグニスさまはおっしゃっていました。『トール・カナンさまのおうちで服を脱ぐのが、くせになったらどうすればいいので』と。そういう意味では、火の羽妖精はアグニスさまをお助けしているとも言えましょう!!」
火の羽妖精は、気合いを入れて宣言した。
「錬金術師さまだけでなく、アグニスさまもお助けしている火の羽妖精こそ、錬金術師さまの第一の部下と言えるのではないでしょうか!!」
そうして、火の羽妖精は、みんなに向かって一礼。
照れくさそうに、仲間のところへ戻っていったのだった。
「司会のルネでございます。ソレーユ、今の主張についてはどうなのでしょう?」
「説得力があるの」
「ルネも、生活に即したお話だと感じました」
「では、異論のある者は──はい。地の羽妖精さま」
ソレーユは、挙手した地の羽妖精を指さす。
黄色い髪をした地の羽妖精は、地面に降り立ち、樹木のように背筋を伸ばして、
「地の羽妖精が申し上げるのでございます!」
まっすぐに手を挙げたまま、宣言した。
「火の羽妖精は、ひとつ隠し事をしております」
「隠し事?」
「どういうことなのよ? 地の羽妖精さん」
「自分は知っています。お風呂のお手伝いをする代わりに、火の羽妖精が錬金術師さまの手から、お菓子を食べさせてもらっていることを! テーブルの上で『あーん』と口を開けて、錬金術師さまが手にした焼き菓子をかじったり……錬金術師さまがてのひらに載せたお菓子に口をつけていることを!」
「「「「「な、なんだってー」」」」」
予想外の言葉に、羽妖精たちが声をあげる。
ルネとソレーユは赤面し、水の羽妖精は興奮したのか、周囲に霧を発生させる。
「な、なんということを!」
「他の羽妖精は、パーティのときにやってもらっただけなのよ。それを火の羽妖精は……お手伝いをするたびに?」
空中で顔を見合わせる、ルネとソレーユ。
「しかも火の羽妖精は、メイベルさまと連携していますよね?」
さらに、地の羽妖精は続ける。
「あなたが錬金術師さまの手からお菓子を食べているとき、隣でメイベルさまは錬金術師さまにお菓子を食べさせたり、食べさせてもらったりしているのでしょう?」
「う、うん。メイベルさまがそうしたいって」
「仲良しなのはいいことです。けれど、そんなうらやま……いえ、錬金術師さまにお手間を取らせている子は、あの方の一番の部下にふさわしくないのでは?」
「「「「「むむむー」」」」」
「それに対して、私たち地の羽妖精は真面目で堅実です。伝言や手紙を運ぶのに向いております。つまり、あの方の一番の部下には地の羽妖精こそが──」
「……異議、ある」
次に発言したのは、内気な、水の羽妖精だった。
彼女たちは木の枝に腰掛けて、ぽつりぽつりと話し始める。
「……錬金術師さまはお風呂が好きだけど、お茶も好き。どちらも水。錬金術師さまは……水と縁が深い……の」
「皆さま。水の羽妖精さまが、いつになくたくさんしゃべっております」
「どうかお静かに。勇者世界で言う『お口にチャック』なのよ」
ルネとソレーユ、他の羽妖精たちは口を押さえ、水の羽妖精の言葉を待つ。
話を聞いてくれる様子の仲間たちに会釈して、水の羽妖精は、
「……お世話係のメイベルさまも……水属性の、エルフ。メイベルさまがいないときは、水を作り出すのは、わたしたちのお仕事」
「「「「「ふむふむ」」」」」
「たまにこっそり、汗もふいて差し上げてる」
「「「「「なんとーっ!?」」」」」
「錬金術師さまは集中すると熱くなるので、濡らしたおしぼりで……頭を冷やすこともあるの。そういうときは、体温の低い、水の羽妖精がお役に立つ……」
「お待ちください! 水の羽妖精さま!」
「内気な方々だと思っていたら、そんな大胆な!?」
「詳しく!」「続きをお願いいたします!」
水の羽妖精の発言に、他の者たちが騒ぎ出す。
内気な水の羽妖精だったが、考えていることは大胆だった。彼女たちが夏を待っていること。熱い夜に、錬金術師トールの額や首筋を冷やす役目を果たそうとしていること。すでに水の羽妖精たちの間で、ポジションを決めていること。トールの胸を冷やす役目の倍率が高いこと。
そんな話を聞いた、他の羽妖精たちは──
「「「「「異議あり──っ!!」」」」」
司会役のルネとソレーユを含めて、全員で声をあげた。
もはや会議もへったくれもなかった。
発言の順番も関係なく、彼女たちは口々に意見を述べていく。
「ルネもそういうことをしたいのでございます。水の羽妖精はずるいです」
「じゃあソレーユは夜の灯りになります! 錬金術師さまのお着替えを手伝います!」
ルネもソレーユも司会役を放り投げ、議論に突入する。
さらに他の羽妖精たちも加わり──会議は混迷を極めていく。
「メイベルさまは確かに水属性。でも、それを言うなら魔王陛下は闇属性。ならばルネこそが──」
「ソフィア殿下は錬金術師さまのおよめさんになろうと画策中。そもそも『UVカットパラソル』を作られたのは、錬金術師さまが光に興味があるからで──」
「いえいえそれならばアグニスさまは火属性。しかも錬金術師さまは、
「……水属性を仲間外れにしないで」
わちゃわちゃ。わちゃわちゃ。
羽妖精たちの議論は終わらない。
誰が錬金術師トールの一番の部下が。
役に立っているか。
仲良しになりたいか。
──ソフィア皇女がおよめさんになったら、ソレーユが付き人に。
──それは一番の部下とは関係ない。
──火はお料理に必要。
──それを言うなら……水も。
──だったら地属性のおよめさんを探して参ります。
わちゃわちゃ。わちゃわちゃ。
わさわさ。ふわふわ。
森の中での会議は続く。
話し続けた羽妖精たちは、やがて、息を切らせる。
疲れて木の枝に座り込む者、地面に横たわる者。広場の泉に浮かんで休む者。
なしくずしに休憩時間になり、彼女たちは一休み。
そうして、話が一段落したところで──
「……あれ? そういえば……風の羽妖精は?」
──彼女たちは、いつの間にか姿が見えなくなっている者がいることに、気がついたのだった。
──トール視点──
「……ああ。寝ちゃってたか」
気づくと夕方だった。
お昼を食べて横になったら、そのまま眠ってしまってたみたいだ。
今日はいい天気だ。
開けっぱなしの窓から入って来る風も温かい。
昼寝するにはちょうどいいな。毛布を掛けてるせいで、身体も冷えてない。むしろぽかぽかする。
……でも、ちょっと暖かすぎるんじゃないかな?
そう思って、毛布をはがしてみると──
「すやすや……」
「きもちいいですー」
「あったかー」
「しあわせー」
俺の胸やお腹の上で、数体の
「……いつの間に」
全員、髪と服は緑色だ。ということは、風の羽妖精たちか。
俺が昼寝をしてる間に、窓から入り込んでたらしい。まるで猫みたいだ。
「くっついて寝てるのは別にいいんだけど、他の子たちは?」
俺が訊ねると、風の羽妖精たちは眠そうな声で、
「──話し合ってましたー」
「──難しい話、してた」
「──長くなりそうでしたー」
「──だから、思ったの」
「「「「話し合いをするよりも、本人に会いに行った方がいいって」」」」
「……どういう意味?」
思わず西の森の方を見ると……あれ?
なんかすごい勢いで、羽妖精たちが飛んでくるよ? 大勢だよ?
一体なにが起こって……?
「「「「錬金術師さま。お願いします」」」」
羽妖精たちは起き上がり、俺のお腹の上で、正座。
そうして、めいっぱいに頭を下げて、
「「「「かくまってくださいー!」」」」
「君たち一体なにをしたの!?」
結局、間に合わなかった。
俺が事情を聞く前に、羽妖精たちは全員で俺の部屋に飛び込んできた。
先頭にいたのは、闇の羽妖精のルネと、光の羽妖精のソレーユ。
ふたりは俺に向かってお辞儀をして、
「失礼いたします。錬金術師さま」
「このお詫びはのちほど、ちゃんとするの。ですから、今は……」
「「「「「抜け駆けしてる不届き者を、引っ立てるのです──っ!!」」」」」
「「「「おゆるしをー」」」」
そうして、風の羽妖精たちは、他の子たちに引っ立てられて行き──
『錬金術師さまの第一の部下は、ご本人のご意見で決めることにしました。下記にご記入くださいー』
──数日後、家に届いた調査用紙を前に、俺は首をかしげることになるのだった。
──────────────────
【お知らせです】
いつも「創造錬金術」をお読みいただき、ありがとうございます!
書籍版「創造錬金術」の情報が、カドカワBOOKSさまのホームページで公開中です。
表紙の画像やキャラクターデザイン、キャラ紹介など、さまざまな情報がアップされています。ぜひ、見てみてください!
書籍版の発売日は5月8日です。
書き下ろしエピソードも追加してますので、どうか、よろしくお願いします!
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