第189話「『スマホモドキ』をいじり回す」

『正義のスマホ』は、無事に起動した。

 俺たちは、勇者世界の情報を得ることができた。

 その後の『スマホ』に変化はない。ずっと同じ文章を映し出しているだけだ。


 それを確認したルキエとケルヴさんは、現状、これ以上の情報は得られないと判断した。

 だから、俺が『スマホ』を預かることになり──


「よっしゃ。これで心置きなくいじり回せる」


 ──俺は部屋で『スマホ』の分析をすることになったのだった。


 もちろん、好奇心でやるわけじゃない。

 このアイテムは、徹底的てっていてきに調べなきゃいけないんだ。


 送り主が善意で送ってきていることから考えて、これが危険な魔術を発動することはないと思う。

 でも、メッセージ以外の情報を宿している可能性はある。

『カースド・スマホ』の情報がないかも調べたい。

 だから、内部構造を心ゆくまで鑑定かんていして、調べる必要がある。


 別に趣味でいじり回したいとか、分析してコピーを作りたいとか、そういうことじゃない。

『カースド・スマホ』への対抗手段を見つけたいだけなんだ。本当だよ?


「──だから、アグニスさん。そんなに心配そうな顔をしないでください」


 ここは、魔王城にある俺の部屋。

『スマホ』を調べている俺の側で、アグニスがじーっとこっちを見てる。

 なんだか、困ったような表情で。


「……トール・カナンさま」

「はい。アグニスさん」

「今日は、ちゃんとベッドで眠っていただきたいので」

「え? いつも普通にベッドで休んでますけど……」

「ベッドに『スマホ』を持ち込んで、夜遅くまでいじっていたら駄目なので」

「いえいえ、ちゃんと眠りましたから」

「横になって眠るのと、座ったまま意識を失うのは違うので!」


 怒られた。


 でも……このアイテムの調査は、しなきゃいけないことだからなぁ。

 俺の仮説が正しければ『スマホ』は、勇者世界の儀式用アイテムでもある。


 勇者の証言も残ってる。

『スマホ』があれば遠くの人と話をしたり、世界を空から見下ろしたりできる──って。

 この『正義のスマホ』だって、覚醒かくせいして真の機能を発揮するかもしれない。

 その方法を知るためにも、詳しく調べる必要があるんだ。


「……やっぱり、メイベルはすごいので」


 ふと、アグニスがつぶやいた。


「メイベルはトール・カナンさまを、きちんと夜、眠らせることができていたので」

「……アグニスさん?」

「アグニスでは力不足なので……どうすれば……」

「…………ごめんなさい」


 アグニスを困らせるつもりはなかったんだけどな。

 あと少しで完全に鑑定かんていできそうだったから、つい夢中になってた。

 ……反省しよう。


「そんな顔しないでください。今日はちゃんと眠りますから」

「……本当ですか?」

「だから、『正義のスマホ』の鑑定について、アグニスさんの意見も聞かせてくれませんか?」

「アグニスの意見を?」

「ヒントが欲しいんです。あと少しで、色々なことがわかりそうなんで」


 俺は『正義のスマホ』を手にして、『鑑定把握かんていはあく』スキルを起動した。

『鑑定把握』はアイテムや素材の属性、効果を調べるためのスキルだ。


 このスキルでわかったのは──


────────────────


『正義のスマホ』


 異世界のマジックアイテム。

 内部のカラクリの効果により、さまざまな情報を提示する。


 特殊なかみなりの力で動いている。

 威力を極小に押さえた『雷系統の魔術』で、動力を補給することができる。

 ただし、微妙な調整が必要。動力補給は、『鑑定把握』を起動中に行うこと。


 機能制限中。

 内部に、情報を守るための防壁あり。


 属性:不明


────────────────


「『鑑定把握』でわかるのはここまでです」


 俺はアグニスに説明した。


「問題は、『正義のスマホ』に『対魔術障壁たいまじゅつしょうへき』のようなものが組み込まれていることですね」

「トール・カナンさまのスキルでも破れない防壁、なので?」

「『鑑定把握』で防壁を揺らすことはできます。もうひとつ、なにか手を加えれば破れそうなんですけど……今のところは、難しいですね」

「情報を守るための防壁って……やっぱり、勇者世界は計り知れない場所なので……」

「ですよね……」

「『対魔術障壁』なら、強い魔術や大量の魔力をぶつければこわれるので。でも『正義のスマホ』の内部に、魔術を打ち込むわけにもいかないので……」

「確かにそうですね……って、あれ?」


 うーん。なにか引っかかるな……。

『対魔術障壁』と同じ対処法……それでいて『正義のスマホ』にダメージを与えないやり方があればいいってことだよね。

 …………なにか思いつきそうな気がするんだけど。


「ありがとうございました。アグニスさん。参考になりました」

「いえいえ。勇者世界の『スマホ』を扱うのが大変なのは、アグニスも理解していますので」

「やりがいはありますけどね。魔王領の安全のためですから」

「はい。それはわかるので」

「だから、徹夜てつやしてもしょうがないですよね?」

「え?」

「勇者世界の防壁を破るためなら、ついつい時間を忘れちゃっても仕方ないですよね?」

「……え、えっと」

「仕方ないんです」

「……し、仕方ないので」

「うんうん」

「は、はい」


 顔を見合わせてうなずきあう俺とアグニス。

 よし、ごまかせた。


「問題は『正義のスマホ』の画面が、文章を表示させた状態で止まっていることです。機能制限されているせいか、それ以上のことができないんですよ。正しい使い方がわかれば、別の機能を呼び出すこともできるかもしれないんですけど……」

「無理をするとこわしてしまうかもしれないので」

「ですよね……」


 おそらく、全機能を解放するための呪文や動作があるのだろう。

 あるいは、決められた紋章もんしょうが必要なのかもしれない。


 だけど、俺にはそのやり方がわからない。

 難しいな……。

 本当に、あとちょっとで、なにか思いつきそうなんだけど……もどかしいな。


「一度休んで、頭をすっきりさせた方がいいのかもしれないので」


 ふと、アグニスが言った。

 確かに、一理ある。

 それに、これ以上アグニスを心配させるわけにはいかないからね。


「わかりました。あと10分調べてみて、なにも手がかりが見つからなかったら、休むことにします」

「はい。それがいいと思うので」


 アグニスは俺をたしなめるように、


「お昼を食べて、お昼寝したら、きっといいアイディアも浮かぶと思うの」

「そうですね」


 あと10分か。

 うん。時間制限をつけた分だけ、集中できそうな気がしてきた。

 とりあえずは、あと10分間、集中して──



「「「ただいま戻りましたー!」」」



 と、思ったら、窓から羽妖精ピクシーたちが飛び込んできた。


「──『迷いの森』から帰還いたしました」

「──燃える情熱と共に旅をしてきましたー!」

「──ただいま、です」

「──にゃんにゃん! すりすりすりーっ!!」


 礼儀正しく頭を下げる『地の羽妖精』さん。

 俺のまわりを飛び回ってる『火の羽妖精』さん。

 窓のところで恥ずかしそうにしてるのが『水の羽妖精』さん。

『風の羽妖精』さんは──『猫型なりきりパジャマ』のフードを着けたり外したりしながら俺のほっぺたに顔をこすりつけ……って、だからどうして君はいつも俺の服の中に入ってくるの? くせなの?


「みんなお疲れさま……って、あれ? メイベルは?」


 俺がたずねると、羽妖精ピクシーのみんなは──


「お城の外にいらっしゃいます」

「わたしたちがお止めしましたー」

「……安全のため、です」

「わふわふわぅわぅわんわんなのでー」


 ──そんなふうに説明してくれた。


「ど、どういうことなので……?」

「……うん。なんとなくわかったような気がする」

「ええっ!?」

「どうしたんですか。アグニスさん」

「今のでわかったので?」

「はい。つまりメイベルは『迷いの森』から無事に帰ってきたけど、今の状態だと城には入らない方がいい。だから城の外で待機してる。念のため、俺が迎えに行った方がいいってことですよね? たぶん、ですけど」

「「「「そうですー」」」」

「……す、すごいので」

錬金術師れんきんじゅつしですからね。それじゃ行きましょう」

「は、はい」

「「「「ご案内しますー」」」」


 そんなわけで、俺とアグニスはメイベルを迎えに行くことになった。




 その後、俺たちは、城の外にある大きな木の下で、メイベルと合流した。

 だけど、メイベルは──


「わぅわぅわぅわんわんわんわんっ────っ!」

「メ、メイベル!?」

「ど、動物になりきってます!? どうしちゃったので、メイベル!?」


 ──俺は犬の姿のメイベルに、抱きつかれることになった。


「わぅわぅ! わんわんっ!」

「ちょ!? 正気に戻って、メイベル!」

「わ、わわっ!? トール・カナンさまが押し倒されてますので! い、今助けます! てーい!」


 アグニスは『健康増進ペンダント』を起動。

 身体能力を少しだけ強化して、メイベルを俺から引きがした。


「だ、大丈夫なので!? トール・カナンさま」

「俺は大丈夫です。でも、メイベルは……」


 メイベルは地面に転がって、起き上がり──『お座り』の姿勢になって、俺を見てる。

 銀色の体毛の犬の姿で、尻尾をぶんぶんと振ってる。

 自分がエルフだって意識もないみたいだ。動物になりきっちゃってる……。


「そういえば『迷いの森』を抜けるには、動物になりきらなきゃいけないって話だったような……」

「メイベルは真面目だから、身も心も動物になりきっちゃったので……?」

「ごめん。アグニスさん。メイベルの『なりきりパジャマ』を脱がせてくれますか?」


 メイベルは『身も心も』動物になってる状態だからね。

 まずは身体の方をエルフの戻そう。


「わかりました。今、脱がせますので!」



 すぽーん。



 アグニスは素早く、メイベルの『なりきりパジャマ』を脱がせた。

 メイベルは抵抗しなかった。

 完全に、動物になりきってるからだ。

 自分が服を着ているという意識もなかったんだろう。


 それはわかる。

『服を着ている意識はなかった』──まったくその通りだった。

 だって、『なりきりパジャマ』を脱がされたメイベルの姿は──



「わ、わわわわわわわわわ────っ!?」



 あ、我に返った。


 こうして、正気に戻ったメイベルは、俺たちの元に帰ってきたのだった。







「………………お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。トールさま」


 正座だった。

 服を着たメイベルは、俺の部屋の床に座ってた。


 ちなみに、アグニスと約束した『残り10分』はとっくに過ぎてる。

 でも、しょうがないよね。

 約束は『10分調べてみて、なにも手がかりが見つからなかったら休む』だったからね。メイベルの意見で、『スマホ』解析の手がかりが見つかるかもしれないから。

 制限時間はちょっとだけ、延長させてもらおう。


「……えっと……それで、メイベル」

「は、はい。私があんな格好・・・・・をしていた理由ですね……」

「もしかして『迷いの森』を抜けるのに関係があるの?」

「は、はいぃ……」


 そうして、メイベルは話し始めた。


 ──『迷いの森』を通るには、動物の真似をする必要がある。

 それは俺たちが『ご先祖さま』のカロティアさんに聞いたことだ。


 だからメイベルも羽妖精たちも『なりきりパジャマ』を着ていたんだけど、それでは不足だったらしい。

 なぜなら、動物は服を着ないから。

 だから試練を受ける者も、『なりきりパジャマ』の下は、裸じゃなきゃいけなかったそうだ。


 メイベルは言われた通りにした。

 動物になりきることで試練をくぐり抜け、『ドラゴンの骨』の場所まで行き、素材を回収した。

 だけど、帰り道も動物になりきる必要があったせいで──


「身も心も動物になりきっちゃったんだね……」

「…………はぃぃ」

「でも、素材は持ってきてくれたんだよね。すごいよ」


 机の上には、メイベル用の『超小型簡易倉庫ちょうこがたかんいそうこ』がある。

 動物になりきっても、素材をこれに入れて持ち帰ってきたのはすごいと思う。

 さすがメイベルだ。


『超小型簡易倉庫』の横には長さ2メートルを超える、半透明の素材がある。

 これが『ドラゴンの骨』だ。

 またの名を『精神感応素材せいしんかんのうそざい』。

 北の地に住んでいたドラゴンが、この地の民のために残してくれたものだ。


 見た目は骨というよりも、水晶みたいだ。

 齢を経たドラゴンの骨は結晶化して、こんな姿になるらしい。

 綺麗きれいだ。しかも、強い魔力を感じる。


「動物になりきっても、素材を持ってくるのは忘れなかったんだね。すごいよ」


 俺はメイベルに向かって、うなずいた。


「本当にありがとう。メイベル」

「そ、そんなにほめられると……照れてしまいます」


 メイベルは恥ずかしそうに、頬を押さえた。


「やっぱり、動物になりきる前に、自分に暗示をかけたのが良かったようです」

「暗示を?」

「はい。トールさまが『そーら、取ってこーい』と命じるシーンをイメージして、心に焼き付けて……あの、トールさま」

「うん?」

「頭をなでていただけますか?」

「いいけど……メイベル、意識はしっかりしてるんだよね? エルフに戻ってるんだよね?」

「大丈夫です。あと、尻尾もなでていただけると……」

「メイベルに尻尾はないからね!?」

「……うぅ」


 メイベル、涙目になってる。

 俺が髪をなでると、気持ち良さそうに目を閉じる。まだ犬っぽい。

 本当に大変な思いをして、素材を採ってきてくれたんだな。感謝しないと。


「そういえば『ご先祖さま』のカロティアさんは?」

「森に残られました。機会を見て、こちらにも遊びに来るそうです」


 そう言って、メイベルは机の上の『ドラゴンの骨』を見た。


「これはドラゴンの肋骨ろっこつだそうです。カロティアさんのおすすめの部分をいただきました。根こそぎにするわけには、いきませんでしたから」

「それで十分だよ。ありがとう」

「メイベル。お疲れさまでしたので」


 俺とアグニスはうなずいた。


 それから俺は、『ドラゴンの骨』に手をかざして、『鑑定把握かんていはあく』スキルを起動した。

 それで、わかったことは──


────────────────────


『エンシェントドラゴン・ヴィーラの骨』


 かつてこの地に棲息していたドラゴンの骨。その肋骨。

 所有者の精神に反応する効果がある。


 骨には『エンシェントドラゴン・ヴィーラ』の残留思念ざんりゅうしねんが含まれている。

 精神に反応して姿かたちを変えるのは、その残留思念の効果である。


 属性:光・闇・地・水・火・風・竜


────────────────────


「「「……おお」」」


 思わず溜息ためいきが出た。

 これがエルフの伝説にある『精神感応素材』か。すごいな……。

 この骨を使えば、ロマン兵器の『超高振動ちょうこうしんどうブレード』、『思考制御しこうせいぎょパワードスーツ』、『精神感応式砲台せいしんかんのうしきほうだい』も、作り出せるかもしれない。


「そういえばトールさま。『スマホモドキ』はどうなったのですか?」

「無事に発動したよ」


 俺はメイベルに『スマホモドキ』改め『正義のスマホ』のことを伝えた。


「──というわけだよ。極大魔術を発生させたり、新種の魔獣を召喚しょうかんしたりってことはなかった。ただ……」

「悪人が送り込んだ『カースド・スマホ』が、この世界に来ているということですね」

「そうだね。『正義のスマホ』の中にはもっと勇者世界の情報があるのかもしれない。でも、防壁があったり、機能が制限されていたりで、情報を引き出すことができないんだ」

「勇者世界のことですから、鍵となる呪文が必要なのかもしれませんね」

「そうだね。他にもなにか方法があればいんだけど……」


 ここは、勇者になったつもりで考えよう。


『正義のスマホ』には機能制限がされていて、障壁が『鑑定把握』を妨害している。

 中の情報を引き出すには、防壁を突破して、機能制限を解除しなければいけない。


 そして、勇者が好きな言葉は『覚醒かくせい』だ。

『自分の中の制限を消し去り、覚醒! 真なる力を解放せよ!』

 ──これは今もこの世界に残る、勇者の言葉だ。

 帝国では貴族向けの学園のスローガンにも使われている。あんまり思い出したくもないけど、ヒントにはなる。


 つまり『正義のスマホ』を覚醒させて、真なる力を解放するには……いや、待てよ?


「……勇者たちが『スマホ』を使うのに、わざわざ詠唱えいしょうなんかするだろうか?」


 勇者は戦闘民族だ。となると『スマホ』を使うのも戦闘中だろう。

 戦闘中に触ったり、詠唱えいしょうして起動する暇なんてないはずだ。

『スマホ』が戦闘用アイテムなのは間違いない。この世界に来た勇者たちは、みんな『スマホ』を欲しがっていたんだから。戦闘民族が欲しがるものといったら戦闘用アイテムだろう。

 だとすると──


「勇者たちは、思考で『スマホ』を操っていたんじゃないかな?」

「思考で、ですか?」

「……確かに、その可能性はあるので」


 おどろくメイベル。

 でも、アグニスは納得したようにうなずいてる。


「敵と斬り合いながら、複雑なマジックアイテムをいじるのは危ないので。となると、思考で『スマホ』を操っていた可能性は十分にあると思うの」

「確かに、そうだね」

「優秀な騎士は馬と心をひとつにして、人馬一体じんばいったいとなって戦うの。だから、『スマホ』を扱う勇者たちも同じように、スマホと一体となって戦いあっていたのかもしれないので」

「……さすがアグニスさん。説得力があるなぁ」


 ライゼンガ将軍の一人娘のアグニスは、戦闘に関する知識が豊富だ。

 彼女の判断なら、間違いはないだろう。


 となると、勇者世界の『スマホ』は、思考で操るもので間違いなさそうだ。

 この『スマホ』はメッセージを伝えるためのものだから、思考を読み取る機能を外してあるのかもしれない。

 だったら、その機能を、こっちで追加すればいいわけだ。


「よし。『精神感応素材』を使ってみよう」


 部屋の机の上には、『ドラゴンの骨』がある。

 これを『正義のスマホ』と合成すれば『正義の精神感応スマホ』ができるはずだ。


 素材の量は十分ある。

『正義のスマホ』に使うのは、こぶしひとつ分くらいだから、素材の消費は少ない。他のアイテムを作るための素材は、十分残る。

 ただ──


「……ドラゴンさんは、勇者世界のアイテムと合体するのは、気が進まないかもしれないな」


 でも、これは必要なことだ。

 この世界を守るためには、『正義のスマホ』について調べる必要があるんだから。


「大丈夫だと思いますよ。トールさま」


 不意に、メイベルが言った。


「『ご先祖さま』のカロティアさんが言っていました。亡くなったドラゴンさんも、この地を守るためなら、骨を持ち帰るのを許してくれると。そんなドラゴンさんなら、トールさまのお気持ちをわかってくれると思います」

「アグニスも同感ですので!」

「それにまた『ドラゴンの骨』のところに行くこともありますから」


 そう言ってメイベルは、笑った。


「あの地は、ドラゴンさんのお墓のようなものです。お参りして、報告しましょう。こんなアイテムに、あなたの骨を使わせてもらいました……って。みんなで、一緒に」

「うん。そうだね」


 メイベルの言う通りだ。

 あの地を守る『ご先祖さま』のカロティアさんは、俺たちが素材を使うのを許してくれてる。

 ドラゴンも、許してくれると信じよう。


 いつか俺もあの地に行くことになる。

 その時に、お墓参りして、作ったものについても報告しよう。

 怒られるかもしれないけど、それはそれで、覚悟して。


 ……でも、あの地に行くには、動物になりきらなきゃいけないんだよなぁ。

 俺もメイベルと同じような状態になったらどうしよう。

 理性が吹っ飛んだ状態でみんなと旅をするのは、危険な気がするんだけど……。


「まぁいいか。とにかく、今は『正義のスマホ』を調べるのが先だ」


 俺は『ドラゴンの骨』に触れた。

 これは『精神感応素材』だから、俺が考えていることもわかるのかもしれない。

 骨には『エンシェントドラゴン・ヴィーラ』の残留思念ざんりゅうしねんも含まれているらしいからね。


「俺は錬金術師トール・カナンと言います。この世界の人々を守るために、あなたの骨を使ってもいいですか?」


 俺は『ドラゴンの骨』に向かって、訊ねた。

『ドラゴンの骨』が、小さく光を放った。

 触れていると、かすかに温かさを感じる。優しい熱だ。

 ……俺のすることを、認めてくれたのかな。


「それじゃ始めます。発動! 『素材錬成そざいれんせい』!」


 俺は『創造錬金術』スキルを起動した。


 それから『正義のスマホ』と『ドラゴンの骨』を近づける。

 ゆっくりと、そのふたつを合成していく。

『正義のスマホ』すべてに、『ドラゴンの骨』が溶け込んでいくように──


 合成はスムーズに進んでいく。

 他の素材を使ったときよりも、抵抗が少ない、

 まるで骨の主であるドラゴンが、自分を素材にすることを、許してくれているみたいだ。


 エンシェントドラゴン・ヴィーラって、どんなドラゴンだったんだろう。

 生きているうちに、話してみたかったな……。


 そんなことを考えているうちに、『素材錬成』は完了した。

 これが『正義のスマホ』の改良版『正義の精神感応スマホ』だ。


────────────────────


『正義の精神感応スマホ』


 勇者世界の『スマホ』に、精神感応能力を持つ『ドラゴンの骨』を合成したもの。

 所有者の思考のみで操作できる。

 精神力の強さによって、使用できる機能が変わる。


『ドラゴンの骨』の魔力で動くようになったので、動力を補給する必要がない。

『エンシェントドラゴン・ヴィーラ』の残留思念が含まれている。


 現在、機能制限中。

 内部に、情報を守るための防壁あり。


 属性:光・闇・地・水・火・風・竜・不明


────────────────────


「これが『正義の精神感応スマホ』……ですか」

「勇者世界のアイテムを、考えただけで操れるなんて、すごいので!」


 メイベルとアグニスは目を輝かせてる。


「これで、すべての情報が開示できるのですね!」

「勇者世界のことや、『ハード・クリーチャー』のことがわかるようになったので!」

「……いや、まだすべてが解決したわけじゃないみたいだ」


 さすがは勇者世界のアイテムだ。『ドラゴンの骨』を使っても、完全に支配できてない。

鑑定把握かんていはあく』するとわかる。

 この『スマホ』は、まだ機能制限がされているし、防壁も残っているんだ。


「『スマホ』に命令します」


 俺は『正義の精神感応スマホ』を手に、宣言した。


「すべての機能を解放してください」

『──ピッ』


 音がした。

 ずっと表示されていた文章が、薄れていく。

 そうして、『スマホ』の表面が暗くなり──



『機能ロック解除コードを入力してください』



 別の文字と数字が、現れた。


「機能を解放してください。『正義の精神感応スマホ』」

『機能ロック解除コードを入力してください』

「その解除コードを教えてください」

『機能ロック解除コードを入力してください』

「……駄目か」


 やっぱり、内部の防壁がまだ機能している。それを消すには解除コードが必要らしい。

 そのコードはおそらく、この『正義の精神感応スマホ』の中にある。でも、それを知るためには防壁を突破しなきゃいけない。

 防壁の強度は……さっきより弱くなってる。がんばれば突破できそうだ。


「……『ドラゴンの骨』でも支配できないのですか」

「……さすがは勇者世界のアイテムなので」

「大丈夫。突破方法は思いついたよ」

「「そんなあっさり!?」」

「このアイテムの中にあるのは防壁……つまり、対魔術障壁たいまじゅつしょうへきと同じようなものだからね。だったら、あれを突破するのと同じやり方で、なんとかできると思う」


 さっきアグニスが『対魔術障壁』の破り方を教えてくれたからね。

 あれよりは楽にできると思う。

『スマホ』の防壁を破る必要はないからね。

 防壁を弱めて、『鑑定把握』スキルで情報を読み取れるようにすればいいだけなんだから。


 ただ、『スマホ』そのものを壊さないようにしないと。

 これには『ドラゴンの骨』を合成してある。無駄にはできないんだ。

 骨を残してくれたエンシェントドラゴンのためにも、ちゃんとした手順で対策しよう。


「あなたの想いは無駄にはしません。ドラゴンさん」

『──ピッ』


 あれ?

 一瞬、文字が変化したような……。

『──ご用件を……』って文字が出たように見えたけど……気のせいかな?


「まずは、ルキエさまとケルヴさんに相談しよう」


 防壁突破には、ふたりの力が必要だ。

 ふたりとも忙しいかもしれないけれど、そんなに時間は取らせない。

 実際の作業は、十数分で終わるはずだ。


 そんなことを考えながら、俺はふたりに会うための準備をはじめるのだった。





──────────────────



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