第191話「帝国領での出来事(13)」

 ──その頃、ドルガリア帝国では──




「ここには『必ずお読みください』と書かれておりますぞ。殿下」


 リカルド皇子の横で、ローブ姿の男性が言った。


 ここは帝国内にある修練場しゅうれんじょう

 皇帝一族とその部下が、狩りや魔獣討伐でおのれを鍛える場所だ。


 その修練場の一角にある宿舎で、リカルド皇子はとある魔術師と話をしていた。

 魔術師の名前はマルク。失脚した魔術大臣アジムの部下だ。


「再起の機会をいただき、ありがとうございます」


 魔術師マルクは、深々と頭を下げた。


「わたくしの知識が、殿下のお役に立てば幸いです」

「うむ。それで、ここにある文章は『必ずお読みください』なのだな?」

「間違いございません。わたくしの専門は勇者世界の言語学ですから」

「そうか。わかった」


 リカルド皇子は、テーブルに置かれたマジックアイテムに手を伸ばした。

 金属製の板のようなアイテムだ。

 滑らかな表面には数字や、文章が映し出されている。

 これまでリカルドが、見たこともないものだった。


「これまでのことから考えると、この『必ずお読みください』の文字に触れると、次の文章が表示されるのだろうな」

「わたくしもそのように思います」


 魔術師マルクは一礼して、


「ですが、事を急ぎすぎるのは危険でございます。このアイテムをもう少し調べるべきかと」

「じれったいものだな……」


 リカルドがこのアイテムを見つけたのは、10数日前のことだ。

 配下の兵士が言ったのだ『空中に魔法陣が浮かんで、その下にこれのアイテムが落ちていた』と。

 だからリカルドは、気になって調査を始めたのだったが──


「これ以上時間をかけては、他の皇子皇女の不審ふしんを招く。我々は先に進まねばならぬのだ。お前ならわかるだろう? マルクよ」


 リカルドは魔術師をにらみつけた。


「これまでも、特に問題は起きていない。適当に触れていたら『必ずお読みください』が出てきたのだ。先に進んでも危険はないのでは?」

「油断は禁物でございます。これは異世界のマジックアイテムなのですから」

「わかっている。だからお前に声をかけたのだろう?」


 最初に見たとき、このアイテムの表面に数字が描き出されていた。

 リカルドは数字や、マジックアイテムの表面に触れてみたが、反応はなかった。

 魔力を通したり、弱い風の魔術を当てても同じだった。


 仕方がないのでリカルドは、魔術に詳しい者の力を借りることにした。

 それが、魔術大臣の配下だった魔術師マルクだ。


 魔獣召喚の実行犯を操っていたとされる魔術大臣は失脚した。

 魔術大臣に近かった者たちも、そのほとんどが降格された。

 リカルドが力を借りるには、ちょうどよかったのだ。


「表示されていた数字がゼロになり、初めてこのアイテムは別の反応を見せた」


 リカルドは魔術師マルクを見て、うなずいた。


「数字は勇者世界のものだった。だから、あの世界の言語に詳しいお前を呼んだのだ」

「恐れ入ります。殿下」

「これからも、このリカルドに力を貸してくれ」

「もちろんです。それで、確認なのですが……」


 魔術マルクは、探るような視線で、


「カウントがゼロになったあと、文章が表示されたのでしたね」

「ああ。これとは違う文章だったな」

「文章の内容は『あなたは貴重な魔術の伝承者でんしょうしゃに選ばれました。もしも伝承でんしょうを望むなら、「同意」の文字に触れてください。詳しい情報をお伝えします』というものでした」

「お前が訳してくれたのだったな。だからこのリカルドは『同意する』の文字に触れたのだ」

「声で『同意する』と言っても反応がなかったですからね」

「貴重な魔術ならば見逃せない。となれば、『同意する』に触れるしかなかろう」


 そう言ってリカルドは胸を張った。


「『同意』に触れたら、文章が変わった。それはお前も見ていたな?」

「はい。突然『種族と年齢、魔力の有無』について聞かれたのでした。文字の横には空欄くうらんがあり、そこに触れると、勇者世界の文字がリストとなって表示されました」

「このリカルドは、『人間』『20代』『魔力あり』を選んだ」

「……お止めしたのでございますが」

「帝国の皇子がマジックアイテムを恐れてどうする」

「ですが、それで終わりではありませんでした」

「『あなたは魔獣と戦う者ですか?』という質問が出たのだったな」

「殿下は迷わず『はい』を選ばれました」

「すると『魔獣の敵であるあなたに、強力な魔術をお教えします。この魔術を使えば、あなたの強さは倍加するでしょう。家族やお友だちと共に使えば、さらに数倍の強さをもれなくプレゼントします』という文章が表示されたのだ」


 それを読んだ瞬間、リカルドは後に引けなくなった。


 強さが倍になり、家族や友だちとその魔術を使えば、さらに数倍の強さが得られるらしい。

 しかも、それは勇者世界の魔術だ。この機会を逃すわけにはいかない。


 だからリカルドは迷わず、アイテムの下の方に表示されていた『次へ』を押した。


 だが、魔術の情報は現れなかった。

 代わりに登場したのは『必ずお読みください』という文字だったのだ。


「ここには、魔術に関する注意事項が書かれていると思われます」


 魔術師マルクは難しい顔で、


「勇者であっても、使うときは注意しなければいけない……それだけ強力な魔術の情報が、このアイテムには収められているのでございましょう」

「それは素晴らしい。素晴らしいぞ、マルクよ」

「……殿下」

「どうした?」

「わたくしはこのアイテムが、おそろしくてなりません」

「今さらなにを言う!」


 リカルドは声を荒げた。


「このリカルドとお前は、強い信頼関係で結ばれているのだ。ここで引くなどありえないだろう!?」

「で、殿下?」

「それに、リカルドたちはもう、後戻りはできないのだ」

「それは承知しております」


 緊張した声でマルクは答える。


「ここまで来てしまったからには、後戻りはできません。それは理解しております」

「ああ。このアイテムには『次へ』という文字はあっても、前に戻るための文字はないからな」

「以前に表示されていた文章を確認することは、もう、できません」

「そうだ。このアイテムは、後戻りができないようになっているのだ」


 後戻りはもう、できない。


『あなたは貴重な魔術の伝承者でんしょうしゃに選ばれました』という文章も。

 種族と年齢と魔力の有無について聞かれた文章も。

『魔術をお教えしましょう』という文章も──もう、表示することはできない。


 このアイテムを皇帝や皇太子に渡した場合、彼らが見ることができるのは、今、表示されているものだけだ。


「……それでは陛下やディアス兄には、このアイテムの価値がわかるまい」


 となると、リカルド自身がこのアイテムについて説明しなければいけない。

 だが、そのためには『リカルドが異世界のアイテムを勝手にいじったこと』も伝える必要がある。


 そうなれば、リカルドにはばつが下されるだろう。

 危険なアイテムを勝手に調べて、後戻りできなくなったのだから当然だ。

 それを避けるには、罰を無効にできるほどの功績を挙げておかなければならない。


 本当ならリカルドは、このアイテムを父皇帝に提出するべきだった。

 そうしなかったのは『例の箱』を入手したときの敗北感を覚えていたからだ。


『例の箱』を皇太子に渡したリカルドには、功績だけが与えられた。

 箱の中身についても、知ることはできなかった。

 リカルドはただ、ソフィアに箱を与えられ、皇太子の元に運んだだけだ。


 このアイテムを渡したら、おそらく、同じことが起きるだろう。

 リカルドは、アイテムが宿す魔術を知ることもなく、功績だけを与えられる。

 それはリカルドにとって、耐えがたい屈辱くつじょくだったのだ。


「道はふたつだ。このリカルドがすべての情報を独占するか、情報を引き出したあとで、すべてを父上に伝えるか」


 情報を誰にも渡さなければ、リカルドは強力な魔術をひとりじめできる。


 情報を引き出したあとで、父皇帝にアイテムのことを伝える方法もある。

 その時は「陛下に危険が及ばないように、このリカルドが身をていして実験を行いました」と言い訳することもできるだろう。

 中途半端でやめるのが一番まずい……そう考えて、リカルドは決断を下した。


「もはや後戻りはできぬ。触れるぞ。『必ずお読みください』に!」



 たんっ。



 リカルドの指が『必ずお読みください』の文字を叩いた。

 すると、次に表示されたのは──


「な、なんだこれは!?」

「こ、この文章は、なんと……」



「「長い!」」



 表示されたのは、恐ろしいほど細かくて、長い文章だった。

 指で触れると上下に移動させられるようだが……それにしても長い。

 まるで、嫌がらせのようだ。


「書かれているのは魔術の詠唱や、術式ではないのか?」

「……違うようです」


 魔術師マルクは首を横に振った。


「『詠唱と術式は最後に表示される』『この魔術はとても効果が大きいもの』『我々は責任を取れない』『どうか、注意して使って欲しい』……そのようなことが書かれています。しかも、似たような文章が繰り返されていますね……」

「意味がわからないな。なんなのだ。これは」

「一番最後に『同意する』の文字があります。これに触れると、次の情報が得られるのでございましょう」

「この文章をすべて翻訳ほんやくするのにどのくらいかかる?」

「10日……いえ、1ヵ月いただければ」

「駄目だ。それでは時間がかかりすぎる……」


 リカルドが修練場に来てから、10日以上が過ぎている。

 そろそろ、他の皇子皇女が訪ねて来るかもしれない。そうなれば、このアイテムのことを知られる可能性がある。


 それを防ぐためには──


「……このまま『同意する』を押すしかあるまい」

「殿下!?」

「今は事態を先に進めることが重要だ!」

「無茶です殿下! 後戻りはできないのですよ!!」

「だから進むしかないのだろう!?」

「前の文章に戻すことはできないと言っているのです!」

「……ああ、そうだな」

「やはり、どなたかに相談されるべきでは……」

「本当なら家族や、詳しい者に相談できれば、一番いいのだろうが……」


 家族──リカルドにとって父皇帝は恐れ敬う者であり、兄弟姉妹はライバルだ。

 詳しい者──帝国に、異世界のマジックアイテムを解析できるほどの錬金術師れんきんじゅつしはいない。


 一瞬、リカルドの脳裏に『不要姫』ソフィアの顔が浮かんだ。

 彼女の力は未知数だ。

 もしかしたら、このアイテムのこともわかるかもしれない。

 あるいは、この『必ずお読みください』の文章を、大喜びで翻訳してくれる知り合いがいるか可能性も──


(いや、駄目だ。あの者に膝を屈するなどできるものか!)


「もはや『同意する』以外の選択はない。ないのだよ。マルク」

「……殿下」

「報酬は約束する! このリカルドに従え、我が忠臣よ!」

「しょ、承知いたしました」

「では『同意する』に触れるぞ」



 ぽちり。



 リカルドは『必ずお読みください』に同意した。

 だが、次に表示されたのも、長く、細かい文章だった。


 ざっと目を通したマルクは、首を横に振る。これも魔術の情報ではないようだ。


 だからリカルドは、そのまま『同意する』に触れた。


「一度読み飛ばすのも、二度読み飛ばすのも同じだからな……」


 その後も様々な文章が出てきたが、リカルドがそれを読むことはなかった。

 彼が望むのは魔術の情報だけだ。


 それが現れるまで、リカルドはマルクに助けられながら、ひたすら先へと進んでいく──




────────────────────



 ここにトールがいたら、リカルドに告げただろう。



『これはおそるべき「カースド・スマホ」です』──と。



 このアイテムにはトラップが仕込まれている。

 それはこの世界の人間と、その心理を考えたトラップかもしれない、と。


 勇者世界の言葉を知る者は、ここに書かれている『魔術』という言葉を無視できない。

 勇者と関わった者の子孫なら、尚更なおさらだ。彼らと同じように、強さを求めてしまう。

 このアイテムを闇雲やみくもにいじり回して、やがては……後に引けなくなる。


 トールだったら表示された文章をすべて、大喜びで翻訳しただろう。

 そうして、気づいたかもしれない。


 まるでこの文章は、罪悪感を消すための言い訳をしているみたいだ、と。

 これだけ注意と説明をしたのだから、それでも実行するなら自己責任だと、そう言っているようだ、と。


 そうして、なにが起こってもいいように、対策を施しただろう。


 だが、この場にトールはいない。

 プライドの高いリカルドが、ソフィアに相談することもない。


 だから、リカルドは次々と文章を読み飛ばしながら、先へと進んで行き──


────────────────────



「たどりついたぞ! 魔術の情報だ!」


 さらに数回の手続きの後、板状のマジックアイテムに、新たな文章が表示された。



『──強力な魔術についてお伝えします』



「……おぉ」

「やりましたね。殿下」

「ああ、お前のおかげだ。報酬ほうしゅうを期待するがよい。魔術師マルクよ」


 リカルドは、マジックアイテムに映し出されたものを見つめていた。

 真っ暗な背景に、白い文字が浮かんでいる。

 一緒に表示されているのは、人のような姿をしたものだ。しかも、動いている。



『この動画の動きを真似して、声の通りに復唱ふくしょうしてください』



「……動画? 真似? 復唱だと?」


 マジックアイテムの表面で、小さな人間が動いている。

 声を発している。

 リカルドには意味がわからない。魔術師マルクも、首を横に振っている。

 この世界にはない詠唱えいしょうだ。

 しかも、勇者世界の言葉でもないらしい。


 リカルドが見つめていると、数分ですべての動きが止まる。

 真っ暗になった表面に『繰り返す』という文字が浮かんでいる。

 それに触れると、また、最初から同じものが映し出される。


「動きを真似して、声の通りに復唱すればいいのか。何度も見られるようになっているのは親切だが……」

「……殿下、これは得体の知れない魔術です」

「分析にはどのくらいかかる?」

「わかりません。帝都の魔術師たちに相談しなければ」

「いや、それでは情報が拡散かくさんしてしまう。それに──」


 この情報がいつまで表示されているかわからない。

 不意に消えてしまう可能性もある。


「……ここまで苦労したのに? そんなこと、許せるものか」


 このアイテムは、後戻りはできない。

 次の表示が出てしまったら、二度と魔術の情報が現れない可能性もある。

 ならば、今のうちに──


「……殿下」

「……もう一度。いや、覚えられまで見続けるとしよう」


 繰り返し、繰り返し。

 リカルドとマルクは、『動画』を見続ける。


 彼らは、気づかなかった。

 ──いつの間にか、流れてくる言葉を復唱していることにも。

 ──復唱を続けるうちに、身体が『動画』と同じ動きをしていることにも。


 やがて、動画の最後に一瞬だけ、上の方に小さな文字が表示される。



軍勢ぐんぜいわざ 詠唱と発動術式』──と。



 けれど、もう、リカルドとマルクにはわからない。

 彼らは勇者世界からもたらされた魔術を、実行してしまっていた。


 魔術の名前は『軍勢ぐんぜいわざ』。

 それは──勇者という・・・・・システム・・・・の一部になることで人を超える、禁断の術式だった。







 ──数時間後──




「リカルド兄さん。いらっしゃいますか? 第二皇女のダフネです」

 

 修練所の前で、馬車が停まった。

 降りてきたのは紫色の髪の少女。身に着けているのは、簡素なドレス。

 腰には細身の剣レイピアを装備している。


 第二皇女ダフネは、宿舎にいるはずの兄に呼びかける。


 リカルド皇子は『例の箱』を入手した報酬として、修練場を独占する権利を得た。

 その後、ここで修練を始めて、すでに10日以上が過ぎている。

 そろそろ明け渡してもらわなければいけない。


(リカルド兄さんは『例の箱』を手に入れたことで、調子に乗っているのでしょうか?)


 ダフネはリカルドが大きな功績を立てたことが悔しくてたまらない。

 その後、彼が修練場を借り切ったのも気に入らない。


(あれほどの功績を立てながら、さらに上を目指すなんて。リカルド兄さんは本当に、皇太子の地位を狙っているの?)


 長兄のディアスは優秀だ。

 堅実に職務をこなしていて、父皇帝の信頼も厚い。彼が廃嫡はいちゃくされる可能性は低いだろう。

 それでもリカルドは、皇太子の地位をを諦められないのだろうか。


(上を目指すのは、勇者の後継者の本能かもしれないけれど)


 最強を目指す──それは、最も上位の存在を目指すことでもある

 帝国ではそれが推奨されている。

 だからこそ、皇子皇女は手段を選ぶことなく、功績を上げようとするのだろう。


「……返事がないわね。兄さんったら、いないのかしら」


 ダフネは首をかしげる。

 彼女がここに来たのは公務だ。

 皇太子からの命令を伝えないままに、帰るわけにはいかないのだが──


「リカルド兄さん? いらっしゃらないのですか?」




「いるよ。いるとも。どうしたのだ。ダフネ」




 気配が、感じられなかった。

 いつの間にか宿舎の扉が開き──リカルドと、ローブを着た魔術師が現れていた。


「──リカルド……兄さん?」

「そうだ。そうだとも。なにか用だろうか?」


 リカルドは穏やかな表情で笑っている。

 おかしい。

 彼はダフネに対して、こんな無警戒な笑顔を見せる人間だっただろうか。


 それに、隣にいる魔術師はなんだろう。

 フードを被っているせいで表情は見えないが、やけにリカルドに近い。

 兄は部下を道具としか思っていない。こんなに近づけることはなかったはずだ。


「リカルド・ドルガリア兄さんに、皇太子ディアス兄さまからの命令を伝えます」


 不審な気持ちを抑えて、ダフネは告げる。


「元剣聖のカロンさまとディアス兄さまが、この地で狩りをされることになったの。その後、おふたりは再度手合わせをされるそう。リカルド兄さんは修練場を明け渡すようにと」

「…………」

「聞いてらっしゃいます?」

「明け渡す必要は……ない。まったくないぞ。ダフネよ」

「なにを言っているのですか? 兄さん」

「なぜならこのリカルドも、狩りと手合わせに参加するからだ」

「はい?」


 やはり……おかしい。

 ダフネの知るリカルドは、強者をあがめる者だった。

 だから戦えないソフィアを『不要姫』と見下す反面、大公カロンや皇太子を尊敬していた。

 そのふたりに対して、無礼なことを言うはずがない。


「どうしてしまったのですか、リカルド兄さん」

「問題はない。なにも問題はないぞ」


 リカルドはうなずいた。


「狩りならば、このリカルドが参加したところで問題はあるまい。そこでディアス兄や大公を越える成果を出せば、手合わせに加わっても許されるのではないか?」

「それをダフネに聞かれても」

「そうか。では、ダフネにわかるような話をしよう」


 リカルドはダフネを手招いた。

 その手首に、奇妙なリングがあることに、ダフネは気づいた。

 魔力で編まれた──鎖のようなものだ。

 よく見ると、隣にいる魔術師の腕にも、同じものがある。


 マジックアイテムだろうか?

 それとも、魔力で作り出したものか──


「ダフネは、もっと強くなりたくはないか?」

「それはもちろん……なりたいと思っていますが」

「では、お前も『軍勢』になるといい」


 リカルドは言った。

 それから彼は、ダフネを護衛している兵士たちの方を向いて、


「君たちも来るといい。『家族や知り合いを紹介』すると、もっと強くなれるからな。このリカルドは、勇者となるための魔術を見つけたのだ。お前たちにも、それを分け与えようではないか」


 そうしてリカルドは、ダフネと彼女の護衛たちを、宿舎へと招き入れたのだった。












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