第56話「アイテムの弱点と補強について語る」
俺は『チェーンロック』の能力について説明することにした。
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『チェーンロック』
(属性:地地地地・水)(レア度:★★★★★★★★★★★☆)
強い地属性により、強度を限界近くまで上げている。
強い地属性で大地との親和性を高めたことで。地中深くと繋がる『陸地ロック』を可能としている。
水属性を付加された『補助チェーン』は、水のように地中に入り込んでいく。
『チェーンロック』の両端には魔力で起動する『ロック機構』がある。
両端を合わせて魔力を注ぐことで、閉じた輪のようにすることができる。
ロックしたものが再び魔力を注ぐことで、『ロック機構』は解除される。
『
チェーンに魔力を注いで『
それらは自動的に地中の岩や岩盤を探しだし、魔力的に繋がる。
強い地属性によって、岩や岩盤などの硬い層と一体化するため、とても動かしにくくなる。
引きはがすには、地下を掘り進んで、岩とチェーンの接続を断ち切るしかない。
弱点は地下に岩などの硬いものがない場合、固定する力が弱くなること。
チェーンをぶらぶらさせておくと、地中の岩や岩盤の方を向く性質があるので、それを見て置く場所を決めること。
物理破壊耐性:★★★★ (高度な魔術で強化された武器でしか破壊できない)
耐用年数:2年。
1年間のユーザーサポートつき。
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「「「……おお」」」
俺が説明すると、みんな感心したようなため息をついた。
「なるほど……こんな能力があったのか。道理でライゼンガやケルヴでも持ち上げられなかったわけじゃ」
ルキエはしきりにうなずいてる。
「これならアイテムの
「ありがとうございます。でも、これには弱点があるんです」
「弱点じゃと?」
「地面をまるごと吹っ飛ばせる勇者には通じないんです」
勇者って、気軽に地形を変えるからなぁ。
巨大なファイアボールで地面に大穴を空けたり、大岩を落として岩山を崩したり。
お前ら環境壊すの好きだろ、ってくらい、
そんな連中には、この『チェーンロック』は通じないんだ。
この『チェーンロック』は勇者世界のアイテムの
このアイテムでは『通販カタログ』にあるような『地球ロック』はできない。
……チェーンを、世界そのものと繋げるのって、一体どうやるんだろう。
わからない。
アイテムを作るたびに。勇者世界のすごさを思い知らされるばかりだ。
「弱点は他にもあります。例えば、ハイレベルな魔法の武器なら、鎖そのものを斬ることもできます。帝国の皇女が使った聖剣の一撃を食らえば、たぶん、鎖も、固定されたアイテムも吹き飛ぶでしょう」
俺はそう言って、ため息をついた。
「自分の力不足を実感します。俺はまだ、勇者世界の足元にも及ばないんですよ」
「いや、この『チェーンロック』も十分に強力じゃと思うが」
「いえ、まだまだです。『チェーンロック』は勇者でなくても解除できますから。数十人がかりで地面を掘り進んで、接続した岩を破壊するという手がありますからね……」
「いやいや、そこまでする奴もおらぬじゃろ!?」
そうかなぁ。
『地球ロック』ができない以上、完璧なセキュリティにはならないからね。
こちらでも解除手段と、その対策を考えるべきだと思ったんだけど。
「そこで、陛下や皆さんに相談があるんです」
「相談じゃと?」
「はい、『チェーンロック』に、新たに実装する機能について、意見を聞かせて欲しいんです」
俺はみんなの顔を見回した。
宰相ケルヴさんも、ライゼンガ将軍も、メイベルもアグニスも──ソレーユもルネも、おどろいたような顔で、俺の言葉を待っている。
俺が考えているのは『チェーンロック』のセキュリティ向上だ。
この不完全なアイテムを強化するためのアイデア。
それは──
「強引にロック解除されたらアイテムごと自爆するのと、炎が出るのと、チェーンでアイテムを締めて
「そこまでするのか、トール!?」
びっくりされた。
「あの……トールどの。この『チェーンロック』は、アイテムを奪われるのを防ぐためのものでしょう? 守るべきアイテムを壊してしまったら意味がないのでは?」
「ケルヴどのの言うとおりだ。それではもったいなさすぎるではないか」
宰相ケルヴさんとライゼンガ将軍は言った。
これは、ちゃんと説明した方がいいな。
「
「そうですね……アイテムを持っている者が、
「ということは、魔王領の人たちが、危険な状況にあるということですね?」
「そ、その通りですが……」
「……あ」
声がした。
メイベルが目を見開いて、何度もうなずいてる。
俺の言いたいことがわかったみたいだ。
少し遅れて、ルキエも「なるほど」と声をあげた。
ふたりとも、俺の言いたいことに気づいてくれたのか。
「トールよ。お主の『陸地ロック』とは、魔王領の者が逃げる時間を稼ぐためのものなのか?」
「その通りです。陛下」
「『陸地ロック』を強引に解除するためには、地面に向かって魔術を使い続けるか、数十人がかりで地面を掘り返すしかない。つまり、アイテムを奪うために、それだけの手間をかけなければいけないということじゃからな……」
「はい。その間に魔王領の人たちは逃げられる、ということです」
アイテムを誰かに奪われるということは、誰かから攻撃を受けるということを意味する。
その時に、『陸地ロック』をしておけば、アイテムを気にせずに逃げることができる。敵がアイテムに気を取られてくれれば、追跡もゆるくなる。
魔王領の人たちは、安全に逃げることができるはずだ。
「こんなふうに、地面に固定されてるアイテムがあれば気になりますよね?」
「確かにな。それで敵の注意を引く。強引に解除されたらアイテムごと破壊、か」
「そうです」
「しかし、それではせっかく作ったアイテムが失われてしまうであろう?」
「俺がアイテムを作るのは人が快適にのんびり暮らすためです。アイテムを守るために人が怪我したり死んだりしたら意味がないんです。この『チェーンロック』は、それを防ぐためのものでもあるんですよ」
俺は言った。
「アイテムなんかまた作ればいいですけど、人はそうはいかないですからね。だから、これは人を活かすためのセキュリティシステムなんです」
「……お主は……魔王領の民のことを考えてくれているのじゃな」
「当然です。俺は魔王陛下の錬金術師なんですから」
「……そうか」
ルキエはゆっくりと、深呼吸した。
それから、他のみんなに背中を向けて──
──「ないしょじゃ」という感じで、唇に指を当てて、仮面を外した。
「……ルキエ・エヴァーガルドの名において、お主に個人的な報酬を与える」
俺にだけ聞こえるように、小さな声で、そう言った。
「……魔王としてではなく、ただのルキエとして、お主に報酬をやりたくなった。人を活かすという話をしている──お主の顔を見たら……ああ、返事はいらぬ。考えておけ、というだけじゃ」
そう言ってルキエはまた『認識阻害』の仮面をつけた。
それから、楽しそうな声で、
「お主の作った『チェーンロック』は、魔王領で使わせてもらうこととする」
魔王の口調で、ルキエは言った。
「『陸地ロック』が解除された場合の対策じゃが……爆発と火炎は危険じゃと思う。アイテムをチェーンが締めて潰し、その後でチェーン本体が壊れるくらいがいいじゃろう。その機能が追加されたのちにテストを行う。正式採用はそれからじゃ」
「ありがとうございます。陛下!」
「ケルヴも、それでよいな?」
ルキエは宰相ケルヴさんの方を見た。
「……トールどのがここまで、魔王領のことを考えてくださっているのは思いませんでした。このケルヴは、トールどのを誤解していたようです。てっきり……思いつきで動くびっくりどっきり
なにか言いかけた宰相ケルヴさんは、急に咳き込んだ。
それから顔を上げ、まっすぐ、俺を見て、
「と、とにかく、自らが作られたアイテムを破壊しても民を守りたいという想いに感服いたしました。私も覚悟を決めましょう。トールどのの『チェーンロック』と、その他のアイテムの使用を許可いたします」
「ありがとうございます。宰相閣下」
俺は宰相ケルヴさんに、深々と頭を下げた。
「宰相閣下には本当に感謝しております。閣下の言葉がなければ、俺は『チェーンロック』を作ることを思いつきもしなかったですから」
「……ですよね。そうなんですよね……」
「おかげで俺は『地球ロック』のことを知りました。そして、俺の技術では、まだそれを実現できないことにも気づけたんです。正直……俺には少し、おごりのようなものがあったのかもしれません。勇者世界のアイテムを、自分は立派にコピーできるんだ……って、でも……」
俺は顔を上げて、宰相ケルヴさんの顔を見た。
「けれど、宰相閣下が与えてくれた課題が気づかせてくれました。俺はまだまだ、勇者の世界にはおよばないんだって。俺はもっともっと、研究を続けなければいけないんだってことを。だから、宰相閣下には感謝しているんです」
「…………そう、ですか……がんばって……ください……」
そう言って、宰相ケルヴさんは後ろを向いた。
いかん。ちょっと熱くなってしまった。
魔王領の宰相さんをじっとにらむような目になっちゃったからな。
失礼だったか。反省しよう。
「と、とにかく『UVカットパラソル』と『チェーンロック』は、魔王領の兵士たちに使わせることにします。これは魔王陛下と、宰相ケルヴによる正式な決定です」
背中を向けたまま、宰相ケルヴさんは宣言した。
やった。
これで魔王領の人たちに、俺のアイテムを使ってもらえる。
問題は簡易倉庫が頑丈すぎることだ。あれは高位の魔術じゃないと壊せないからね。『チェーンロック』だと、いざというときに壊せない可能性がある。
でも、超小型簡易倉庫は小さい分だけ防御力が弱いはず。
あとで壊せるかどうか実験してみよう。
「ところでトールよ。単純な疑問なのじゃが」
ふと、魔王ルキエが首をかしげた。
「この『チェーンロック』を、敵の兵士や勇者に使ったらどうなるのじゃ?」
「……え?」
「い、いや。これを使って誰かを
「……動けなくなりますね」
「仮に勇者が、強引に地面ごとはがして脱出したら……?」
「爆発に巻き込まれたり、チェーンに肉体の限界まで締め付けられたりしますね」
「そうなるじゃろうなぁ……」
俺とルキエは顔を見合わせた。
おかしいな。
アイテム持ち去り防止用のアイテムを作ったはずなのに、拘束用のアイテムになっちゃってる。
「……敵を拘束して、強引に脱出したら爆発する。あるいはチェーンが四肢を締め付ける。もしも首や胴体に巻き付いたら……」
ルキエは驚いた顔でつぶやいてる。
この『チェーンロック』は『陸地ロック』機能がついてるだけで、ただのチェーンだからね。
使い道は色々あるよね。
俺がちょっと考えただけで、帝国用のトラップがいくらでも思いつくもんな……。
「トールよ」
「はい。陛下」
「お主はしばらく余の監視下に置くこととする」
「なんでですか!?」
「余はこれよりケルヴと共に、帝国の動きを見るために国境近くを移動することとする。その旅に、お主も付き合え。メイベルもそれでよいな!?」
「は、はい。陛下」
メイベルが地面に膝をつき、答える。
そんな彼女を見ながら、ルキエは優しい口調で、
「最近お主もトールに毒されておるようじゃからな。しばらくは余がついていてやろう」
そんな、人をなにかの
「羽妖精たちには国境巡回の間、周囲の偵察を頼みたいのじゃが。お願いできるか?」
「わ、わかりましたの!」
「錬金術師さまと魔王陛下のために、お仕事をさせていただくのでございます!」
ソレーユとルネがうれしそうに、俺のまわりを飛び回っている。
「では『UVカットパラソル』と『チェーンロック』の実験は終了とする。両アイテムは、将軍や兵士の長に実装させるとしよう。手順については魔王領に戻ってからの議題じゃ。よいな、ケルヴよ」
「は、はい。もう覚悟は決めました」
「では、屋敷に戻ろう。夕食まで、一休みじゃ。
それは『お茶会がしたい』という、合図だった。
俺とメイベルは視線を交わして、一緒に屋敷へと向かう。
ソレーユとルネは俺の肩の上。ふたりとも、お茶会に参加したいみたいだ。
ルキエの仮面の問題もあるから、それは後で相談かな。
こうして『UVカットパラソル』の実験は無事に終わり──
俺はルキエと一緒に、帝国の軍事訓練を見に行くことになったのだった。
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