【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第214話「魔王ルキエ、観光事業を立ち上げる(2) −伝説の魔獣の恐怖−」
第214話「魔王ルキエ、観光事業を立ち上げる(2) −伝説の魔獣の恐怖−」
「……温泉に安全に入るための方法はわかったのじゃ」
「……『三角コーン』なら十分、安全は確保できると思います」
『
俺たちは玉座の間で、観光施設についての話をしていた。
「陛下、トールどの」
同席しているケルヴさんは、俺とルキエを見て、首をかしげた。
「おふたりはどうして、視線を合わせようとしないのですか?」
「「気のせい (じゃ) (です)」」
……『
俺たちは、目を合わせづらくなっちゃったんだ。
「さて、問題はどうやって観光地に人を呼ぶかじゃな」
「想定される観光客が魔王領の者だけなら、温泉だけでも十分だと思われます。ですが、帝国の者も呼ぶとなると……温泉以外も必要になるでしょう」
「人間の中には、魔王領を警戒している者もおります。そんな者でも来たがるような魅力が必要でしょう。その場所にしかないような、限定的な魅力が」
「魔王陛下と宰相閣下に申し上げます」
俺は床に膝をついて、告げる。
「人を呼ぶための魅力について、勇者世界を参考に考えてみました」
「やはり……すでに考えていらしたのですね」
「はい、宰相閣下。勇者世界の資料を調べたところ、あちらの世界には『ご当地キャラ』というものがあるそうです」
「『ご当地キャラ』、ですか?」
「その場所に行かなければ会えない相手です。勇者世界では、それらに出会うために、長い旅をする者もいたそうです」
先々代の魔王が残した資料には、そんなことが書かれていた。
勇者世界には各地の特徴を生かした『ご当地キャラ』というものがいたらしい。
その『ご当地キャラ』に会うために、空を飛び、海を渡る人間もいたそうだ。
「ですがトールどの。『ご当地キャラ』とは、どのようなものなのですか?」
「おそらくは、勇者にとっての強敵でしょうね」
資料には『ご当地キャラ』のシルエットだけが載っていた。
角のある者や、羽のある者、
全体的に頭が大きいのが特徴だ。
人間に似ているけれど……おそらくは、魔獣だろう。
『ご当地キャラ』の中には、片刃の剣などの武器を手にしている者もいた。
つまり『ご当地キャラ』は聖剣・魔剣を使いこなす魔獣ということになる。
勇者世界の人間にとっては、おそるべき
そんな『ご当地キャラ』の元に人が集まるのは当然だ。
勇者世界の者は、みんな、戦闘民族なんだから。
彼らは『ご当地キャラ』を倒して名を挙げるために、長い旅をしていたんだろう。
──と、いうことを、ルキエとケルヴさんに説明すると、
「待て、トールよ。それはおかしいぞ」
ルキエは不思議そうな顔で、首をかしげた。
「『ご当地キャラ』が勇者でも倒せない魔獣だとするなら、その
「……あ」
ルキエの言う通りだ。
勇者でも手こずる『ご当地キャラ』がいる場所を『観光地』と呼ぶのはおかしい。
しかも、『ご当地キャラ』が存在しているということは、勇者は奴らを倒せなかったということだ。倒せば『ご当地キャラ』はいなくなってしまうんだから。
おかしいな。
資料には『観光地で、ご当地キャラに会おう!』と書いてあるんだけど。
「トールは『勇者は戦闘民族』という固定観念にとらわれすぎではないのか?」
ルキエはそう言って、笑った。
「いかに勇者とはいえども、観光地で魔獣と戦うわけがないではないか?」
「確かに……そうかもしれません」
「じゃろ? そもそも、温泉地はくつろぐための場所じゃ。そんな場所に強敵がいては、おちつかぬ。おそらく『ご当地キャラ』とは、戦うための相手ではないのじゃろう」
「では『ご当地キャラ』とは……?」
「それは常識的に考えればわかることじゃよ」
優しい笑みを浮かべて、ルキエは告げる。
「『ご当地キャラ』とは、伝説の魔獣に化けた人間……あるいは、魔獣に似せたゴーレムなのじゃ!」
「なるほど!!」
「さすが魔王陛下です!!」
俺とケルヴさんは、ぽん、と手を叩いた。
ルキエの言う通りだ。観光地で、魔獣と戦うわけがない。
でも、作り物なら話が通る。
伝説の魔獣と戦うためには、その姿形を知り、戦い方を研究する必要がある。
そのために、魔獣に似せたものを用意したのだろう。
それが『ご当地キャラ』なら、人が集まるのもわかる。
勇者世界の者たちは、よろこんで魔獣 (レプリカ)を見に来るはずだ。
そっか。『ご当地キャラ』とは魔獣に似せた作り物だったのか……。
「勇者世界の人たちは観光地で、伝説の魔獣のレプリカを見ながら、攻略法を考えていたんですね……」
「その後は
俺とケルヴさんがうなずく。
でも、ケルヴさんは困った顔で、
「ですが……それをこの世界で実現するのは難しいかと」
「どうしてですか。
「この地には『ご当地キャラ』になりそうな魔獣はいないのです」
魔族と亜人たちは、勇者と人間に追われて、北の地にやってきた。
魔獣を倒し、土地を切り開き、魔王領を作った。
「ですが、歴代の魔王陛下が手こずるような魔獣は、存在しなかったのです」
「……なるほど」
そりゃそうだ。魔王なんだから。
強力な闇の魔術を操る魔王に勝てる魔獣がいるわけがない。
「だったら、人間の領土で有名な魔獣を『ご当地キャラ』にしましょうか?」
「いや、それも難しかろう」
ルキエは
「人間領にいた強力な魔獣たちは、そのほとんどが勇者たちによって倒されておったはずじゃ。『ご当地キャラ』になりそうな魔獣は、残っておらぬのではないか?」
「『魔獣ガルガロッサ』を『ご当地キャラ』にするのはどうですか?」
「『ハード・クリーチャー』はよくないと思うぞ?」
「そうですか?」
「帝国の連中は『ハード・クリーチャー』を召喚しておる。それをご当地キャラにしたら、彼らを
「……それはありそうですね」
帝国の連中は、プライドが高いからな。
しかも、彼らは『ハード・クリーチャー』と戦って敗れている。
そんなものを『ご当地キャラ』にしたら『嫌味か!?』『オレたちをバカにしてるのか!?』って思われるかもしれない。少なくとも、客寄せにはならないだろう。
……うーむ。
『ご当地キャラ』を決めるのって難しいな。
勇者世界ではどうしてるんだろう?
魅力的な『ご当地キャラ』なら、観光の
魔王領が豊かになっていくためにも、帝国との交流を深めるためにも、役に立つはずだ。
それが勇者世界の風習なら、帝国の人たちも喜ぶだろう。
「でも……良さそうな魔獣がいませんね」
「『ご当地キャラ』にできそうな魔獣となると、条件が厳しいのじゃ……」
俺とルキエは顔を見合わせて、考え込む。
「帝国と魔王領の両方で、有名な魔獣がいればいいんですけどね」
「古いもの……例えば、勇者召喚が行われる前に存在していたものはどうじゃ?」
「勇者でも倒せなかった魔獣ですか?」
「うむ。あるいは、勇者に見つからなかった魔獣じゃな」
「そんなものがいるんでしょうか……?」
「歴史に詳しい者なら、知っておるやもしれぬな」
「魔王領で歴史に詳しい人というと──」
「歴史を語り継いできた家の者……つまりは、
じ────っ。
俺とルキエは、ケルヴさんを見た。
「わ、私ですか? 確かに私の一族は、代々、魔王領の歴史を語り継いでいるのですが……それより昔の出来事となりますと……」
じ──────っ。
「わ、わかりました。思い出してみましょう……」
ケルヴさんは額を押さえて、考え込む様子だった。
玉座の間を歩き回り、時々、柱に近づいて──我に返ったように、離れて。
『アイス・ピラー』の魔術で氷の柱を生み出し、それに額をくっつけて。
しばらくして、なにかに気づいたように、顔を上げて──
「思い出しました。この世界には……確か『アビスルインダババ』という魔獣の物語があったはずです」
──ケルヴさんは、そんなことを教えてくれた。
「勇者時代以前から伝わるものです。『魔獣アビスルインダババ』は
「ほほぅ」
「『魔獣アビスルインダババ』ですか……」
「弱い魔獣だったのか、あるいは、勇者がわざわざ討伐するほどの相手ではなかったのかはわかりません。ただ、大陸の各地で語り継がれた魔獣ですから、帝国にも言い伝えが残っているのかもしれませんね」
「思い出しました。俺も似たような魔獣のことを、本で読んだことがあります」
帝国の役所にいたころ、俺は書庫で歴史書を読んでいた。
そこに『後ろから追いかけてくる魔獣』の伝説があったんだ。
名前は『アビスルインダババ』か、それに近いものだったと思う。
暗い道を歩いていると、草むらから現れて、すごい勢いで追いかけてくるそうだ。対処法を誤るとさらわれたり、攻撃を受けたりするらしい。
「なんとも不気味な魔獣じゃな……」
「出会ったら、その場で3回まわって手を叩くそうです。そうすると魔獣は立ち去るらしいですよ?」
「帝国ではそうなのですか? 当家に伝わっているのは『後ずさりながら、3回「はにゃん、ぱにゃにゃん」と唱える』という対処法なのですが」
俺とケルヴさんは顔を見合わせた。
「土地によって生態が違うんでしょうか?」
「あり得ます。同じ種類の魔獣でも、山に住む者と、砂漠を
ケルヴさんの言う通りだ。
例えば魔獣『マウンテンウルフ』は寒さに強く、
だけど、同じ狼型の魔獣の『サンドウルフ』は暑さに強い。皮膚は薄いけれど、その分、動きが速い。
同じ狼系の魔獣でも、住む場所によって違っている。
伝説の魔獣『アビスルインダババ』も同じようなものかもしれない。
「『魔獣アビスルインダババ』の記録が、帝国にもあるなら、使えるかもしれぬな」
ルキエは、満足そうにうなずいた。
「ならば『ご当地キャラ』にちょうどよい。トールとケルヴが知る伝説を
「…………」
「…………むむ」
「どうしたのじゃ。トールにケルヴ。難しい顔をして」
ルキエは首を不思議そうに、
「『アビスルインダババ』に似せたゴーレムを作って欲しいのじゃが、難しいか?」
「ゴーレムを作るのはできます。問題ありません」
それは
俺も魔王領に来てからたくさん、マジックアイテムを作っている。素材もある。
たぶん、良いものができるだろう。
「問題は『魔獣アビスルインダババ』がどんな姿をしているのか、わからないことなんです」
「……あ」
ルキエが目を見開いた。
わかってくれたみたいだ。
『魔獣アビスルインダババ』の
帝国の伝説では、背後から語りかけてくるだけだ。やっぱり、どんな姿なのかはわからない。
魔王領の方でも『
姿形がわからなければ、『ご当地キャラ』にできないんだ。
「まずは、皆の話を聞いてみようと思います」
俺は言った。
「魔王領のみんなから話を聞けば、『アビスルインダババ』の姿形がわかるかもしれません。色々な人の話を聞いて、一番多かった意見を元にゴーレムを作りましょう」
「なるほど。それなら実物に似たものが作れるじゃろう」
「いいアイディアだと思います。トールどの」
ルキエとケルヴさんはうなずいた。
こうして俺は『魔獣アビスルインダババ』について
────────────────────
・1人目。衛兵のミノタウロスさん (人間換算年齢24歳。独身)
「祖父から、聞いたこと、あります」
「『アビスルインダババ』とは、赤くてヒラヒラしたものだと」
「その奇妙な動きを見ていると、我を忘れてしまう、と」
「出会ったら冷静さを保ちなさいと、祖父から、聞いている、です」
──なるほど。『アビスルインダババ』は、赤くてヒラヒラしている、と。
────────────────────
・2人目。ドワーフの
「はい。
「ただ……どういう姿のものかは、聞いたことがありません」
「とにかく巨大で、雑な生き物だと聞いています。手先が器用なドワーフは、そういう生き物が苦手ですから」
「あ、はい。お役に立てれば光栄です」
──『アビスルインダババ』は、巨大で雑な生き物、と。
────────────────────
・3人目。留学生の皇女さん(16歳。独身)
「『アビスルインダババ』は、離宮で読んだ絵本に出てきました」
「え? 姿形? もちろん知っています」
「なんというか、ブワーッとしていて、もじゃもじゃで、ズドドドドーン、と歩く生き物でした。なのにシュババッと移動するのです」
「え? 『完全に理解しました』ですか。さすが
──『アビスルインダババ』は陸と空を制して、八本脚で毛が生えていて、重低音と共に動き回る、と。
────────────────────
なるほど、わかった。
うん。これだけ証言が
つまり『魔獣アビスルインダババ』の正体は。
正体は………………。
…………うん。たぶん、あれだな。
──数日後。玉座の間にて──
「『魔獣アビスルインダババ』は名前だけの、実体のない魔獣です」
俺はルキエとケルヴさんに向けて、告げた。
「『魔獣アビスルインダババ』というのは、みんなが怖がるものの
「「……なるほど」」
ルキエとケルヴさんは、納得したようにうなずいた。
『アビスルインダババ』の姿かたちがはっきりしない理由も、それで説明がつく。
ケルヴさんのご先祖は、人間と敵対していた。
たぶん、彼らにとって人間は、よくわからない価値観を押しつける存在だったんだろう。そういうものと出会うことは、ケルヴさんのご先祖にとって恐怖だったのかもしれない。
そこから、『魔獣アビスルインダババ』の伝説が生まれたんだ。
人間にとって怖いのは、夜道で攻撃されることだ。
亜人と比べて、人間は夜目が利かない。感覚も鈍い。脚もそれほど速くない。
夜道では、常に恐怖を感じていたはずだ。
だから『夜道には気をつけるように』という注意をうながすために、『夜道を追いかけてくる魔獣』の伝説が生まれたんだろうな。
ミノタウロスさん、ドワーフさんの証言も同じだ。
それぞれの種族にとっての『警戒すべき相手』が『アビスルインダババ』になっている。
リアナ皇女が教えてくれた『アビスルインダババ』は……あれは絵本を書いた人のセンスによるものだろう。
というわけで、『魔獣アビスルインダババ』の正体は──
「たぶん、太古の言葉で『アビスルインダババ』というのは、怖いものを表す単語だったんじゃないでしょうか。それが変化して、魔獣の伝説になったんだと思います」
「……そういうことじゃったのか」
「……トールどのは……歴史上の定説をくつがえしてしまったのですね」
「仮説ですけどね。真実を知るためには、もっと調査が必要です」
先は長い。
『アビスルインダババ』の真実を突き止めるためには、もっと多くの人から話を聞かなければいけない。
調査には、長い時間がかかるだろう。
長命の生き物──ドラゴンや『ご先祖さま』の協力も必要かもしれない。
俺が生きている間に終わるかどうかも、わからない。
それでも、やる価値はある。
勇者時代よりも古い歴史を知るためだ。錬金術師として、やりがいがある。
がんばろう。
いつか、『アビスルインダババ』の正体について、堂々と発表できるように──
「こら、トール……トール! 聞こえておるのか!?」
「──はっ!」
気づくと、ルキエが俺の肩をつかんでゆさぶってた。
いけないいけない。考え込んでたみたいだ。
「大丈夫ですルキエさま。俺は必ず、太古の言葉──『アビスルインダババ』の正体を突き止めてみせます!」
「待て待て待て!」
「どうしましたか?」
「余たちは、『ご当地キャラ』の話をしていたのではないのか?」
「……あ」
忘れてた。
観光地のための『ご当地キャラ』を探していたんだっけ。
「申し訳ありません。考古学の探究をしてる気分になってました」
「まぁ、そうじゃろうと思っておったが」
ルキエは苦笑いして、
「じゃが『アビスルインダババ』が恐怖の象徴だとすると……『ご当地キャラ』にするのは難しいじゃろうな」
「決まった形がないのですからね」
ルキエの言葉を、ケルヴさんが引き継いだ。
「人によってイメージする『魔獣アビスルインダババ』が違うのであれば、ゴーレムにも着ぐるみにもできません。『ご当地キャラ』にするのは無理なのでは……」
「大丈夫です。対策を考えました」
「対策をじゃと!?」
「そんなものがあるのですか!?」
「簡単です。『魔獣アビスルインダババ』が恐怖の象徴なら、その人がイメージする『怖いもの』に変形するゴーレムを作ればいいんです」
幸い、俺の手元には自在に変形する『抱きまくら』がある。
さらに『
このふたつを組み合わせれば、人の『恐怖』に反応して姿を変える『抱きまくら』が作れるはずだ。
「まずは、『魔獣アビスルインダババの館』というものを作ります。入り口には『この先にはおそるべき魔獣アビスルインダババがいます』と書いておきます。それを見た者は、自分が知る魔獣の姿をイメージするはずです。そのイメージに反応するように『精神感応素材』をセットしておけば……」
「『抱きまくら』が、イメージ通りの姿に変形するというわけじゃな?」
「そうすれば、入場者は自分が恐れる『魔獣アビスルインダババ』を見ることになります。お客は恐怖を感じたあと、温泉で気分を
「なるほどなのじゃ」
ルキエは腕組みをした。
「余は、悪くないと思う。ケルヴはどうじゃ?」
「私としては……実際に見てみないことには、なんとも言えません」
ケルヴさんはルキエと俺に一礼して、
「それが実際に人を呼び込めるほどのものなのかどうか、正直、想像がつかないのです。私には、あまり想像力がないもので……」
「わかりました。では、試作品を作ってみます」
確かに、言葉だけじゃわからないよな。
実際に作って、試してみないと。
「お客に不満を抱かせてしまったら、観光地の名が
「妙案だと思います」
ケルヴさんがうなずいた。
「それを見て、
「よろしくお願いします。宰相閣下」
「問題ありません。私も、トールどのの技術は信頼しております。しっかりチェックして許可を……むむ、許可を……私が許可を出すということは……?」
ケルヴさんの表情がひきつる。
彼は、ゆっくりとルキエの方を見て、
「陛下……今回の事業は、私が許可を出すのでしたね?」
「そうじゃな」
「となると、トールどのが『アビスルインダババの館』を作られたら、最初にそれを体験するのは……こ、この私で……」
「いや、余が体験しても構わぬぞ」
「魔王陛下が?」
「うむ。トールが作った試作品のマジックアイテムは、何度も体験しておるからな」
「…………いいえ。そういうわけにはいきません」
ケルヴさんは、ぐっ、と拳を握りしめて、
「それでは私が、宰相の役目から逃げたことになります。今回の観光事業は宰相府の
そう言ってケルヴさんは、ぽん、と、胸を叩き──
俺は『魔獣アビスルインダババ体験セット』の開発を始めた。
そして、数日後。
完成した『魔獣アビスルインダババの館』に入ったケルヴさんは──
ばたん!
すたすたすたっ。
ざぼん。
館に入って数分後、ケルヴさんは『魔獣アビスルインダババの館』を飛び出して、大浴場へ。
そのまま熱いお湯に浸かって、ため息をついた。
それから、ケルヴさんは、
「……生きてるって素晴らしい」
そんなことをつぶやいたのだった。
ちなみに、館の中で何を見たのかは、教えてもらえなかった。
ただ、宰相府の公式記録には、
「……
──そんな一言が、書き残されていたのだった。
その後、ケルヴさんの意見を取り入れて、『魔獣アビスルインダババの館』は、少しだけ、ゆるやかなものになった。
具体的には、魔獣に変形する『抱きまくら』を丸っこく、柔らかく調整した。
ついでに、叩いたり抱きしめたりしてもいいように、素材を整えた。
そうして、魔王領の人たちに、改めて体験してもらったところ──
────────────────────
・1人目。衛兵のミノタウロスさん (独身)
「『魔獣アビスルインダババ』と出会っても、自分が落ち着いていられることに、おどろきました。自分の恐怖を克服できたような、気がします。自信が持てるようになりました。感動、です」
────────────────────
・2人目。ドワーフの厨房係さん(人妻)
「『魔獣アビスルインダババ』を抱きしめたら、亡くなった
────────────────────
・3人目。留学生の皇女さん(独身)
「おどろきでドキドキです! ワーッとして、もじゃもじゃズドドドドーンなのに、かわいいなんて。将来、私が率いる
────────────────────
──ゆるい感じになった『魔獣アビスルインダババ』には、
そして、数日後、担当者を集めて観光地についての会議が行われた。
その席で『魔獣アビスルインダババ』は正式に、温泉地の『ご当地キャラ』となることが決まり──
まずは『ノーザの町』に、観光地への招待状が送られることになったのだった。
────────────────────
書籍版『創造錬金術師は自由を謳歌する』5巻は、本日発売です!
勇者世界からやってきた少女、カレン・カツラギ。
彼女の胸には、メイベルと同じペンダントが。
そして、トールとカレンの出会いがもたらすものとは……?
本日発売です! 『創造錬金術師』第5巻を、よろしくお願いします!!
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