第6話「勇者の世界のアイテムを作る」

「……あった」


 さっき見つけた『健康グッズ』の中に、冷え性の人のための回復アイテムがあった。

 四角い桶のような形をしていた。

 両足を入れるスペースがあって、前の方に光る文字が表示されている。


「名前は『温水足湯桶フットバス』か」


 説明文には、こんなふうに書かれている。



──────────────────



『力強い水流と振動が、あなたの足を温めます。

 全身の血流をよくして、足の冷えを解消! 全身ポカポカ!

 さらに足のツボを刺激して、気の流れを良くする効果 (個人差があります)も!

 使ったその日から、冷え性とは無縁な快適生活をあなたに!』



──────────────────



「さすが勇者がいた世界の本だ。説得力があるな」

「あの……トールさま。一体なにを?」

「せっかくこのような倉庫と素材をいただいたので、このアイテムを作ることにしました」


 俺はメイベルに、本のページを見せた。


「これは……足を入れるおけ……ですか?」

「作るのを手伝ってくれますか?」

「は、はい。もちろんです。なんでもおっしゃってください」


 桶は掃除道具のところにあった。

 金属製の大きなものだ。これなら足を揃えて入れられる。


「じゃあ、これを洗ってきてもらえますか?」

「は、はい」


 メイベルは桶を手に倉庫を出て行く。


 この『通販カタログ』によると、『温水足湯桶フットバス』とは桶の中でお湯を振動させるものらしい。

 となると、必要なのは火の魔石と風の魔石だ。

 確か倉庫のこのへんに、魔石のついた盾があったな。


 探したらすぐに見つかった。

 調べてみると──



『炎の盾』


 敵の攻撃に合わせて、炎を噴き出す盾。

(内部の魔術機構まじゅつきこうが完全にこわれているため、作動不可能)




『風の盾』


 敵の矢を吹き飛ばす暴風を起こす。

(内部の魔術機構が完全にこわれているため、作動不可能)




 こわれているならちょうどいい。

 魔石だけもらおう。


「『創造錬金術オーバー・アルケミー』起動──」


『創造錬金術』スキルを起動した。

 このスキルは、物質を変化させることができる。

 スキルを起動した状態で盾にふれると──



 ぐにゃり。



 盾がやわらかくなった。

 金属なのに、ふにふにしている。

 この『創造錬金術』は、俺が素材と見なしたものは、自由に変化させられるみたいだ。

 火の魔石のまわりをぐにぐにと変形させて、魔石を引っ張ると──外れた。

 同じようにして、風の魔石も回収する。

 盾は、『温水足湯桶フットバス』の素材にしよう。


「お待たせいたしました……って、えええええええっ!?」

「どうしましたか、メイベルさん」

「そ、それ……倉庫にあった盾ですよね?」

「大事なものでしたか?」

「いえ……でも、なんで、やわらかくなってるんですか?」

「どうぞ」


 俺が差し出すと、メイベルはやわらかくなった盾に手を伸ばした。



 ふにふに、ふにふに。



 やわらかい感触を楽しむように、丸めた盾を突っついてる。


「な、なんでしょう、この感覚。小さいころに泥遊びをしたときのような……」

「桶はきれいになりましたか?」

「は、はい」

「ピカピカですね。ありがとうございます」


 必要なのはこの桶と、やわらか盾、火の魔石と風の魔石だ。

 これを素材にして、異世界のアイテムをコピーしよう。


「『創造錬金術』を起動。勇者世界の健康グッズ『温水足湯桶フットバス』を作成する」


 空中に『フットバス』の形が浮かび上がった。

 桶と、やわらか盾をはめ込むと──桶のかたちが『フットバス』のような四角形に変わっていく。


『創造錬金術』が教えてくれる。

 次は火の魔石と、風の魔石をはめ込めばいいらしい。

 それが動力になり、お湯と、振動を生み出してくれる。


 イメージのまま、俺は魔石を桶に埋め込んでいく。

 さらに集中。

 魔石から魔力があふれ出して、水に溶けていくところをイメージする。


 たぶん、勇者の世界の『温水足湯桶フットバス』と、まったく同じものは作れない。

 文明のレベルが違いすぎる。

 だけど、似た効果を生み出すものは作れそうだ。


 勇者世界のアイテムの原理はわからない。

 だからこっちの世界では、魔力と魔石を利用する。


 力強い水流と振動が、メイベルの足を温めて、全身の血流を良くして、冷えを解消してくれるように。さらに足のツボ──意味はわからないけど──を刺激して、快適にすごせるように──



『イメージを確認。アイテム生成可能』



 目を開けると、『通販カタログ』に載っているのとそっくりな『温水足湯桶フットバス』が見えた。

 成功だ。


「『創造錬金術オーバー・アルケミー』──完了」


 宣言すると、四角くなった桶が、ほのかな光を放った。

 表面に触れて、調べてみると、



──────────────────



温水足湯桶フットバス』 (属性:火・水・風) (レア度:★★☆)


 火の魔石によって、内部の水を温めることができる。

 風の魔石によって、水流と泡を作り出すことができる。


 魔石は消耗品のため、定期的に交換が必要 (年に1度。新品に交換してください)。

 洗うときは真水で。洗剤は使用不可。

 物理破壊耐性:★★★ (魔法の武器でないと破壊できない)。

 耐用年数:25年。



──────────────────



 なるほど。俺が作ったものだから、詳しい情報もわかるのか。


「……あの、トールさま」

「はい。メイベルさん」

「もう完成したのですか?」

「そうですね。できたようです」

「作るとおっしゃってから、10分も経ってませんけど」

「材料が揃っていてよかったです」

「あの……帝国の錬金術師って、皆さんこんな感じなのですか?」

「錬金術師の知り合いはいないのでわかりません」


 父親は「調子に乗るな。お前くらいの錬金術師はどこにでもいる!」って言ってたけど。

 錬金術師の工房には入れなかったから、よくわからないんだ。


「結構、たくさんいるんじゃないかな?」

「たくさん……トールさまと同じ力を持つ錬金術師が、たくさん」

「そもそも俺が作ったのは、勇者の世界にあったもののコピー品です。驚くことないですよ」

「勇者のアイテムのコピーを。こんな、短時間に……」

「メイベルさん、顔が青いですよ?」

「い、いえ。大丈夫です」


 メイベルさんは、メイド服の胸を押さえて、


「これを、私が使ってもいいのですか?」

「いえ。あげます」

「私に!? コピーとはいえ、勇者の世界のアイテムを!?」

「とりあえず水場に案内してください。使い方を教えます」


 そんなわけで、俺とメイベルは、城の水場に向かうことにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る