【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第156話「魔王領・『ノーザの町』合同調査チーム、暗躍する(4)」
第156話「魔王領・『ノーザの町』合同調査チーム、暗躍する(4)」
──トールたちが小屋を発見して数分後、中では──
『ヴゥォォォォオオオ!?』
『グゥアアアアアアォォ!?』
『キャインキャイ────ン!』
小屋のドアを押し破り、『ダークウルフ』たちが室内に飛び込んできた。
「な、なんだ!?」
「どうして『ダークウルフ』が小屋の中に!?」
中にいた男たちが武器を手に取る。
『ダークウルフ』は番犬として、外に繋いでおいたはずだ。
それが屋内に入り込んで来るなどありえない。
「外に出ろ! すぐに
「お前たちの役目は外の警備だろうが!」
男たちは『ダークウルフ』を
目の前に突き出される剣や槍を、魔獣たちは見ていない。
魔獣たちは戸口に顔を向け、怯えたように震えている。
やがて──
『『『ヴゥオオオ────ッ! キャインキャイン!!』』』
5匹の『ダークウルフ』が暴走をはじめた。
戸口と反対側の壁に近づいたと思ったら、なにかの気配を感じたように急停止。震えながら、また別の方向へと走り出す。
方向を見失って、家具に体当たりする者もいる。
どうしていいのかわからなくなり、部屋の中央でうずくまって吠え続ける者も。
その姿を前にした男たちは、自分たちが見ているものが信じられなかった。
『ダークウルフ』は森の殺し屋と呼ばれている。
自分よりも大きな魔獣にも襲いかかる、凶暴な魔獣だ。
だから男たちの
最強の番犬として。
なのに、その『ダークウルフ』が、怯えきっている。
「こ、こら! 落ち着け!!」
「
「走り回るな! ここには貴重なものが──」
それに、『ダークウルフ』は外に繋いでおいたはずだ。
首輪をつけて、縄を木に結びつけていた。その縄が切られている。
『ダークウルフ』は家の中に飛び込んできたのはそのためだ。
だとすれば、外には縄を切った者がいるはず。
なのにどうして、『ダークウルフ』はそいつを襲わなかったのか──
『『『バウバウギャウギャウキャインキャインッ!』』』
「ぐはっ!」
『ダークウルフ』の体当たりを受けた者が床に転がり、悲鳴を上げる。
それを見た別の男は、壁に掛かっていた網を手に取る。
『ダークウルフ』を制圧するためのものだ。細い金属で作られていて、四方には重りがついている。
彼らの
暴走した『ダークウルフ』は、彼らだけで止めなければいけない。
そう考えて、男たちは網を広げる。タイミングを合わせて、『ダークウルフ』にかぶせようとしたとき──
「『風と闇の名のもとに吹き荒れよ!』──『
ぶぉ。
戸口から吹き込んできた暴風が、男たちを吹き飛ばした。
「ぐはっ!?」
「し、侵入者が……魔術を?」
「
男たちが立ち上がろうとする。
だが、再び発生した暴風が、男たちを吹き飛ばした。
「は、速い!?」
「なんでこんな連続詠唱を!?」
「もしや……伝説の『
『
主に不意打ちに使われるもので──こんな連続して使うことはできないはず。
「『かぜとや──れよ』『かぜとや──れよ』『かぜとや──れよ』!!」
なのに、詠唱と暴風は止まらない。
小屋の中に冷えた風が吹き荒れ、男たちを釘付けにする。
ぶぅおおおおおおおっ!
「「「うああああああああっ!?」」」
『『『────ヴォアアアア!? キャインキャイン……』』』
冷えた風は魔獣の体温を奪い、その動きを鈍くしていく。
室内は吹き荒れる暴風で満たされて、立ち上がることもできない。
さらに、今度は別の魔術が襲う。
「『光の届かぬこの場へご加護を』──『
窓から飛び込んできたのは、光の球体──ただの灯りだ。
男たちも高い戦闘能力の持ち主だ。『灯り』の魔術くらいで驚きはしない。
飛び込んできたのが、ひとつか、ふたつだったら。
「『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』『ひか──かご』!!」
「「「うっああああああああああ」」」
20個を超える光の群れが、男たちの視界を漂白した。
『ダークウルフ』も襲いかかる暴風と、大量の光の群れにパニックを起こしている。
完全に
数匹は、硬直して泡を吹き出している。
男たちが小屋の位置に視線を向けると──開いたドアの向こうに──真っ赤な、三角形のものが見えた。
さっきまではなかったものだ。
「敵はドアの向こうから攻撃してきている!」
「飛び出すな! 待ち伏せされているぞ!!」
男たちは声をあげる。
敵の狙いはおそらく、『例の箱』だ。
敵が中に入ってこないのは、こちらの反撃を恐れているからだろう。
男たちは考える。
それまで時間を稼げばいい。問題ない。
敵は『例の箱』を傷つけるのを恐れて、攻撃魔術を使ってこないのだから……。
そう思って、彼らは小屋の入り口をじっと見つめていた。
だから彼らは、窓からの侵入者に気がつかなかった。
「失礼いたしますわ」
「お覚悟して欲しいのです」
背後から忍び寄ってきた者が、男性の腕をねじり上げた。
そのまま男たちを床に倒し、両腕を縛り、目隠しをする。
数秒間の出来事だった。
「──な、なんだと!?」
「お静かに。今、楽にして差し上げます」
侵入者は男性のひとりに、真っ黒なコートをかぶせた。
そのまま魔力を注ぐような動作をした直後──
「音が……消えた!?」
男は必死に耳を澄ますが、なにも聞こえない。
聞こえるのは自分の声と呼吸音、心臓の鼓動だけだ。
『ダークウルフ』の足音や、においさえも消え去っている。
「…………オレは……死んだのか?」
視界は目隠しで塞がれている。手足は縛られて、動かせない。
なにも見えない。聞こえない。動くこともできない。
今まさに、剣を突き立てられようとしているとしても、わからない。
どうすることも出来ずに死んでいくだけだ。
湧き上がってくるのは、恐怖。
戦士であるはずの彼らの身体が、異常な事態に震え出す。
やがて、喉の奥から悲鳴がせりあがってきて──
「こ、こんなのは嫌だ。やめてくれ……たすけてくれえええええっ!!」
──男たちは床の上で、のたうちまわるだけだった。
──トール視点──
「お疲れさまでした。エルテさん、ドロシーさん、ミサナさん」
「お怪我はございませんか?」
「何事もなく済んで、よかったです」
「「「………………」」」
あれ? なんでエルテさんもドロシーさんもミサナさんも、納得いかないような顔してるの?
ここは『イーアラの町』の南東にある、小屋の中だ。
部屋の隅にはドロシーさんとミサナさんが縛り上げた男たちが転がってる。
彼らは目隠しされた上に、裏返しにした『ノイズキャンセリング・コート』を被せられている。この状態だとまわりの音は一切聞こえない。
俺たちがなにを話していても、こいつらに知られる心配はない。
だから、落ち着いて話もできる。
ちなみに『ダークウルフ』たちは、網を被せて
怯えた魔獣たちは動きが止まってたから、網をかけるのは簡単だった。その上から『チェーンロック』をかけて、『
もちろん、その横には『三角コーン』も並べてある。
ほぼ密着状態の『三角コーン』の
無力化は成功だ。
「トールさまによる封じ込め作戦が大成功でしたね!」
「これが……カナンさまのお力なのですね」
メイベルとソフィーは感動した様子だった。
ふたりともがんばってくれたからね。
特にソフィーは、『ノイズキャンセリング・コート』で気配を消してるとはいえ、『三角コーン』をちゃんと小屋のまわりに配置してくれたんだからな。
こんなのは、皇女さまのすることじゃないんだけど。
「……メイベルと帝国の皇女さまは感動していらっしゃいます」
「……魔王領ではこれが普通なのでしょうか」
「……安全に敵を制圧できたのはよいです」
でも、エルテさんとドロシーさんとミサナさんは、首をかしげてる。
ちゃんと作戦前に説明したんだけどな。
『三角コーン』と『ノイズキャンセリング・コート』で魔獣を封じ込めるって。
まず、俺たちは『ノイズキャンセリング・コート』で気配を消してから、小屋を囲む位置に『三角コーン』を設置した。
その後で、あいつらを繋いでる縄を切ったんだ。
『三角コーン』には『ダークウルフ』の体毛を入れてあるから、
それで周囲を取り囲めば、怯えた『ダークウルフ』は小屋に逃げ込む。
魔獣が飛び込んでくれば、小屋の中は大混乱になるはずだ。
あとは『ICレコーダー』で大量の魔術を撃ち込んで、相手の注意を引いたところでエルテさんとドロシーさん、ミサナさんに中の人間を拘束してもらう。
それが今回の作戦だ。うまくいってよかった。
「で、こいつらが保管していたものが、これか」
俺は小屋を見回した。
部屋の中央には、黒光りする箱があった。
高さは1メートルに届かないくらい。直方体で、大きな扉がついている。扉には、開くためのハンドルと、ダイヤルのようなものがついている。
扉はぴったりと閉じていて、ほとんど隙間がない。
この世界では見たことがない造りをしている。異世界のもので間違いないだろう。
「これが……『例の箱』かな?」
「はい。おそらく、間違いないかと」
「これが異世界のマジックアイテムなのですね……」
俺とソフィーとメイベルは箱を見つめながら、つぶやいた。
異世界から魔獣と共に召喚されたもの。
混乱のどさくさに紛れて持ち去られて、帝国がずっと探しているもの。
中身不明の謎のアイテム──『例の箱』を、俺たちはついに見つけたのだった。
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【お知らせです】
いつも「創造錬金術師」をお読みいただき、ありがとうございます!
書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」2巻が発売になりました!
2巻ではリアナ皇女とソフィア皇女、それに羽妖精たちも登場します。
(「近況ノート」で、キャラクターデザインを公開しています)
もちろん、今回も書き下ろしをエピソードを追加済みです。
書籍版だけの新アイテムとして、謎の魔剣も登場します。
また、「創造錬金術師は自由を謳歌する」は、コミカライズ版も連載中です。
ただいま第2話−4まで公開中されています。
「ヤングエースUP」で読めますので、ぜひ、アクセスしてみてください。
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