第178話「翻訳(も、できる)アイテムを作る」

「トールさまトールさま」

「どうしたの、メイベル」

「『迷いの森』での素材採取は、私にやらせていただけませんか?」


 エルフの長老さんが用意してくれた家で、作業を始めようとしたとき──


 メイベルは、ふと、そんなことを言い出した。


「それはメイベルが『精神感応素材』を取りに行くってこと?」

「はい。『ワンニャン・仲良しトークペンダント』が完成してからの話になると思いますけど……でも、私が素材採取を担当すれば、トールさまは『謎アイテム』が発動する前に、お城に戻れますよね?」


 メイベルの言う通りだ。


 スマホに似た『謎アイテム』のカウントは、残り8日弱。

 森の調査を始めた場合、時間までに城に戻れるかどうかわからない。


 もちろん、スキルで『謎アイテム』から無理矢理に情報を引き出す方法もある。

 でも、失敗したら壊してしまうかもしれない。

 そうしたら情報が得られなくなる。


『謎アイテム』の中にあるのが勇者世界や『ハード・クリーチャー』の情報だとしたら、それを失うのは致命的だ。

 だから今は手を出さずに、あれが情報を表示するのを待った方がいい。

 できればルキエや、ケルヴさんの見ている前で。


 そんなわけだから……メイベルが『迷いの森』に行ってくれるのは、願ってもないことなんだけど……。


「私はエルフです。森の中は慣れています。探索もスムーズに行えるかもしれません。それに、私はトールさまのお役に立ちたいんです」


 決意は固そうだった。

 メイベルがそこまで考えてくれてるなら、任せよう。


「危ないと思ったら、帰って来るって約束できる?」

「は、はい。約束します」


 メイベルは勢いよくうなずいた。


「わかった。素材採取は、メイベルに任せるよ」

「ありがとうございます!」

「でも、それは『ご先祖さま』と話をしてみて、安全に『迷いの森』を通れることが確認できてからだね。危ないようなら、今回の探索は無し、ということで」


『精神感応素材』のサンプルは手に入った。

 これがあれば、勇者世界の武器を作るための実験ができる。

 素材を取りに行くのは、一度城に戻って準備を整えてからでもいいんだ。


 別に、急がないと無くなるわけじゃないからね。

 あれは『迷いの森』の、誰にもたどりつけない場所にあるんだから。


「とりあえず『ご先祖さま』から詳しい話を聞いてからだね」

「よかったです」


 メイベルは、すごくいい顔で、笑ってみせた。


「私がトールさまのお役に立てる機会を、逃すわけにはいかないですから」

「ありがとう。メイベル」


 俺が言うと、メイベルはうれしそうに目を閉じた。

 それから俺は……なんとなく手を伸ばして、その頭を撫でた。

 絹みたいな銀色の髪の感触を、十分、確かめて、


「それじゃ、錬金術れんきんじゅつをはじめるよ」

「はい。トールさま」


 俺は『ワンニャン・仲良しトークペンダント』の製作をはじめることにした。


翻訳ほんやくに使う属性だけど……風は必要だろうな」


 声は空気の中を伝わるものだ。

 それを解読するには、風属性が必要になる。


 次に、魔力を取り込む部品も必要だ。

 魔力に個人の情報が含まれていることは『抱きまくら』で実証済みだからね。


 勇者世界の『抱きまくら』は魔力を使って、本人の姿かたちと動き、生命力を表現してる。

 同じように、今回は『言葉』で本人を表現するようにすればいい。


 あとは……『光属性』も追加した方がいいな。

 光の魔力を利用すれば、ペンダントに翻訳した文字を浮かび上がらせることができる。

『通販カタログ』に載ってる『ワンニャン・仲良しトークペンダント』も、そういうシステムになっているようだからね。


 あっちは文字の後ろに犬や猫の足跡みたいなマークが表示されるようだけど……これは省く方向で。


 正体がわからない文字や紋章を表示させると、魔術が発動するかもしれない。

 相手は勇者世界だ。危険は避けるべきだろう。


 ……よし。

 作り方はわかってきた。

 これならなんとかなりそうだ。


「問題は『マジカル☆ブレイブ・ブリーダー第3期シリーズ』と『変身シーンの音楽』という言葉だけど……これが謎なんだよな」

「そうですね……」


『マジカル☆ブレイブ・ブリーダー』は勇者世界の魔獣使いだろう。

『第3期シリーズ』……つまり、世襲制せしゅうせいか。

 だとすると、この『ワンニャン・仲良しトークペンダント』は、第3世代ということになる。

 そうやって世代と、改良を重ねてきたんだろう。


 となると『変身シーン』にも、意味があるはずだ。

 誰が変身するんだ?

 使用者か? それとも、翻訳元の『ご先祖さま』か?

 どのような姿に変身する?


「なかなか難しいな……」

「あの、トールさま」


 メイベルはなにかに気づいたように、


「もしかしたら使用者が、動物そっくりの姿に変身するのではないでしょうか?」

「動物そっくりの姿に?」

「はい。相手の立場に立って対話をするべきだという思いが、このアイテムには隠されているような気がします。それを『変身』と呼んでいるのかもしれません」

「となると、音楽は?」


 ……いや、待てよ。

 動物に変身するのなら、音楽が必要な理由もわかるな。


「動物に変身するのが恥ずかしい人もいるから、気分を盛り上げるのに音楽が必要ってことか?」

「あり得ますね……」

「なるほど。より相手に近い姿になってわかり合う。そのための変身、か」


 納得できる話だ。


 ただ言葉を読み取って翻訳しただけじゃ、通じ合ったことにはならない。

 相手と似た姿かたちになることで、本質的にわかりあう。

 それが『ワンニャン・仲良しトークペンダント』の秘密なのだろう。


「さすがメイベルだ。説得力があるな」

「は、はい。ただ、確信はありませんけど……」

「いやいや、合ってると思うよ。この『ワンニャン・仲良しトークペンダント』は、相手とコミュニケーションを取るためのものだからね。相手との繋がりを強めるやり方は正しいはずだ」


 ──これで、完成形かんせいけいは見えた。


 音楽は……残念ながら、俺にはその手のセンスはない。

 これは、魔王城に戻ってから、オプションで付けることにしよう。

 音楽が気分を盛り上げるためのものなら、覚悟を決めて変身する人には必要はないはず。

 まずは音楽なしで試してみよう。


 素材と魔石を用意して──っと。


「それじゃ始めるよ。メイベル」

「はい。トールさま!」


 そうして俺たちは錬金術の作業を始めた。

 用意したのは金属塊きんぞくかい。風の魔石と光の魔石。

 魔力を取り込むための、からっぽの魔石も必要だ。


『ご先祖さま』との結びつきを強めるために、狼タイプの『なりきりパジャマ』も用意しよう。


 これなら、獣耳と尻尾がついた状態と、フードをおろして狼の姿になった状態──つまり、2段階の変身が可能だ。翻訳ほんやくの精度も2段階に調整することができる。


 あとは……魔力的に繋がるためのオプションも作ろう。

 こっちは『ご先祖さま』に着けてもらえばいい。


『ワンニャン・仲良しトークペンダント』と対になるように設定すれば、装着者同士で魔力の繋がりが生まれる。そうすることで、翻訳の精度・速度も上がるだろう。


 最後にペンダントの形をイメージして、と。


「よし。それじゃ実行! 『創造錬金術』!」


 俺はスキルを起動して、『ワンニャン・仲良しトークペンダント』の作製をはじめた。

 そうして完成したアイテムは──


────────────────────


『ワンニャン・仲良しトークペンダント』

(レア度:★★★★★★★★★★★★★★★★☆)

(属性:風風・光・水)


 強い風属性により、声 (空気の振動)を正確に読み取る。

 光属性により、声の主の存在と意志を感知する。

 水属性により、それを言葉の『流れ』に変換する。


 勇者世界の『マジカル☆ブレイブ・ブリーダー』 (第3期シリーズ)が使用しているマジックアイテム。

 ペンダントが対象の声を読み取り、翻訳ほんやくする。

 翻訳された文字は、ペンダントの中央に文字として表示される。


 オプションとして『魔力リンク用ブレスレット』がある。

 これを対象の生き物に身に着けてもらい、その生き物と似た姿になることで『魔力リンク』が形成される。使用者と対象の生き物は、魔力で強く繋がることになる。


 変身した者は翻訳された言葉を『声』として聞くことができる。

 また、翻訳の精度も上昇する。


 装着者は『魔力リンク』により、対象の生き物の能力を使うことができる。

『魔力リンク』は、より相手の姿に近づくことで強化される。


 物理破壊耐性:★★★★★★

 人間・亜人・魔族以外へのユーザーサポートは、翻訳機能ほんやくきのうを使って行います。


────────────────────


「できた……」

「できましたね」


 これで完成だ。

 なぜか、相手の能力をコピーする機能が追加されてるけど、まぁ、これはしょうがない。きっと『魔力リンク』には、そういう効果があるんだろう。

 相手の言葉を理解するために、より相手に近い存在になる、ってことかな。


 このへんの機能は、使ってみればわかるだろう。


「それじゃ、『ご先祖さま』に話を聞く前に、ちょっと実験してみよう」


 俺は家の窓を開けた。

 さっきから、猫の声が聞こえていたからだ。


 外を見ると……うん。いるな。小さな猫が。

 エルフの村でも飼っているみたいだ。

 話を聞けるといいんだけど。


 まずは『ワンニャン・仲良しトークペンダント』に魔力を注いで、っと。

 実験だから『魔力リンク』は無くていいな。


「こんにちは。話をしてもいいですか?」

『にゃーん』


 答えてくれた。

 ペンダントに表示された文字は……。


『にんげん。村にいる。めずらし』

「うん。翻訳されてる」


 ただ、会話にはなっていない。

 普通の動物たちは、こっちの言葉がわからないからだ。


 それにこの猫は、人間のことを警戒してる。おびえた様子で身を引いてる。

 となると、親しく話をするためには……。


「メイベル。ちょっと話しかけてみてくれる?」


 俺はメイベルに『ワンニャン・仲良しトークペンダント』を渡した。

 メイベルはペンダントを着けてから、


「こんにちは。あなたはどこの猫さんですか?」

『にゃにゃ、にゃーん』


 猫はメイベルに近づいてくる。

 やっぱり、エルフにはなついているみたいだ。

 優しい声で鳴いてる。なにを言っているのかというと──


『あなたたち。村に入る前。荷物の整理をして、た』

「「おおー」」


 確かに俺たちはエルフの村に着く少し前に、荷物の整理をしてた。

 毛布や寝間着を片付けたりしていたんだ。

 この猫は、それを見ていたのか。


「俺たちがしていたことを言い当ててる。ということは、話が通じてるってことだよね」

「す、すごいです! もっと聞いてみますね」


 メイベルはしゃがんで、猫に顔を近づけて、


「他に気づいたことはありますか?」

『にゃにゃにゃん。にゃにゃーん』


 答えた。

 内容は、えっと……。


「『青い毛布。エルフ。あなた。抱きしめてた』……?」


 青い毛布……?

 それは旅の間、俺が使っていたものだ。

 その毛布をエルフが……つまり、メイベルが抱きしめてたってこと?


『にゃーにゃーん』

「えっと。『エルフ。青い毛布。くるまってた。幸せそう。ほほを押しつけて』」

「わ、わわわわわ──っ!」

『にゃにゃにゃにゃにゃ────っ!』


 メイベルがあわてて声をあげた。

 おどろいた猫は、森の方に逃げて行く。


 ……えっと。


「………………う、うぅ」


 いつの間にか、メイベルが俺に背中を向けてた。

 きれいなエルフ耳も、首筋も真っ赤だ。

 細い肩が小刻みに震えてる。


 ……そっとしておいた方がいいのかな。

 でも、これはマジックアイテムの実験でもあるから──


「猫が言ってたことは本当かな?」

「……うぅ」

「実験だから。正確に報告して欲しいな」

「…………はい……まちがい……ありません」


 メイベルは両手で顔をおおったまま、こっちを向いて……うなずいた。

 猫が言った通り、俺の毛布をいじってたらしい。


『ワンニャン・仲良しトークペンダント』の翻訳機能は完璧だった。


「……申し訳ありません、トールさま」

「……構わないよ。別に、毛布で遊ぶくらい」

「い、いえ、遊んでいたわけでは」

「そうなの?」

「はい。村に入る勇気を出すために……トールさまのぬくもりを感じさせていただこうかと……」

「そうなんだ……」

「……はい」

「…………勇気は出た?」

「出ました」

「…………そういうことなら、仕方ないね」

「…………はいぃ」


 なんだろう。この空気。

 メイベルは両手で顔をおおったまま。

 でも、指の隙間から、こっちを見てる。


 その視線が恥ずかしくて、俺は横を向く。

 なんだか顔が熱くなってくる。


 翻訳機能の実験をしただけなのに、なんでこんなことに。

 おそるべき効果だ。

 さすが勇者世界のマジックアイテムだよ……。



『わぅわぅ。わぅーん』



 そんなことを考えていたら、家の外から声がした。

『ご先祖さま』の声だ。

『ワンニャン・仲良しトークペンダント』に文字が表示されてる。えっと。



『まだかなー?』



「行こう、メイベル。『ご先祖さま』で追加の実験をしないと」

「は、はい。トールさま」

「それじゃ、メイベルはこれを着て」


 俺は狼型の『なりきりパジャマ』を手渡した。

『ワンニャン・仲良しトークペンダント』と同じ魔石を仕込むことで、魔力的に同調するようにしてある。これを着れば、より正確に『ご先祖さま』の言葉がわかるはずだ。


「わ、わかりました。少し待っていてください」


 そうして、メイベルは狼型の『なりきりパジャマ』を身に着けて──

 俺たちは、『ご先祖さま』の元に向かったのだった。






『わぅわぅわぅ』

「作業はお済みになったようですね。錬金術師さま」


 家の外では、『ご先祖さま』とエルテさんが待っていた。


「おや、メイベルどのは『なりきりパジャマ』を着ていらっしゃいますね。これは……?」

「かわいいですよね」

「そ、そうですね。かわいいです」


 さすがエルテさんだ。見る目があるな。


「これは『ご先祖さま』の言葉を理解するために必要なことなんです」


 俺は説明をはじめた。


「この『ワンニャン・仲良しトークペンダント』は他の生き物の姿をまねることで、対象の言葉をより正確に訳すことができます。今回、話を聞くのは『ご先祖さま』──つまり、金色の狼さんですからね」

「だから、メイベルどのに獣耳と尻尾がついたパジャマを着せたのですか……」

「そうです」

「よくわかりませんが、錬金術師どのが必要だとおっしゃるなら」


 エルテさんは、ちらちらとメイベルの方を見てるな。

 なんだか、うらやましそうな顔をしてるけど……。


「エルテさんも、獣耳と尻尾を着けてみたいんですか?」

「ち、違います! そんなことは……」

「そうなんですか?」

「わたしに変身願望はありませんっ! 確かに以前『部分隠し用ヘアーピース』を使って、人間に化けたことはあります。違う自分になるのは……楽しいですが……」


 そういえば『部分隠し用ヘアーピース』を使ったとき、エルテさんは楽しそうだったな。

 いつもは真面目なエルテさんの、口元がゆるんでたし。


「エルテさんの分も作りましょうか?」

「……誘惑するのはやめてください」

「狼型と、宰相ケルヴさんも着たことがあるトカゲ型、どちらがいいですか?」

「りょうほ……いえ! だから誘惑しないでください!」


 怒られた。

 まぁいいか。時間がある時に作って、エルテさんの職場に届けることにしよう。


 今は『ご先祖さま』の話を聞かないと。


「お待たせしました。『ご先祖さま』。翻訳の準備ができました」

「よ、よろしくお願いします」


 俺とメイベルは『ご先祖さま』の方を見た。

 金色狼の『ご先祖さま』はきれいな目で、じっと俺たちを見つめている。


「ちゃんと話をするために、ご先祖さまの足にブレスレットを着けてもいいですか?」

『わーぅ』


 そう言って『ご先祖さま』は前足を差し出した。

 これは翻訳しなくてもわかる。構わない、ってことだね。


 それじゃ、もこもこの前脚に『魔力リンク用オプション』を着けて、と。


「改めてうかがいます。『ご先祖さま』は『迷いの森』の抜け方をご存じですか?」

『わぅん!』


『ご先祖さま』がうなずく。

 その声を『ワンニャン・仲良しトークペンダント』で読み取──


『わぅ! わんわん。わぅわぅわぅわ。わぅん』

「って、早いです。もうちょっとゆっくり……」

『わぅぅわぅ! わぅぉんっ!』


『ご先祖さま』は勢いよく話し続ける。

 ペンダントに文字は表示されてるけど、一瞬で次の言葉に置き換わってしまう。

 文字を読むのが間に合わない。


「『知っているよ。あの森はいくつものトラップがあって、強欲な者や危険な者を通さないようになっているんだよ。やー、よく聞いてくれた。話したくてしょうがなかったんだー』だそうです」


 獣耳をピコピコさせながら、メイベルが教えてくれる。


「『ご先祖さま』の言葉が、獣耳を通して伝わってきます。優しい女性の声です。私たちと話ができるのが、楽しくて仕方ないみたいですね」

「なるほど……」


 これで『変身シーン』の意味が理解できた。

 相手が早口でしゃべった場合、ペンダントに表示される文字だけでは限界がある。


 だから翻訳ほんやくされた言葉を、耳で聞き取る必要があったんだ。

 そのために、相手と似た姿になって『魔力リンク』を高めなければいけない、ってことかな。


 待てよ……?

 この方法なら『ハード・クリーチャー』とも話ができるんじゃないか? こないだ作った『魔獣ガルガロッサなりきりパジャマ』もあるし。

 うまくすれば、あいつらの正体や目的もわかるかもしれない。


 さすが勇者世界のアイテムだ。奥が深いな。


「教えてください。『ご先祖さま』。『迷いの森』にあるトラップと、その抜け方について。それと──」


 俺は少し考えてから、


「もし、知っていたら、森の奥にある素材の正体も教えて欲しいんですけど……」


 ──もうひとつ、聞きたかったことを尋ねた。


 俺の言葉を聞いた『ご先祖さま』は、はっきりとうなずいて、


『わぅぉぉぉーん。わぅんっ』

「『トラップと、その抜け方を教えるよ』だそうです。それと……」


 メイベルは聞いた言葉が信じられないように、目を見開いて、


「……森の奥にある素材は『かつて存在した、古きドラゴンの骨』だっておっしゃっています」


 そんなことを、教えてくれた。


「……『古きドラゴンの骨』?」

「ドラゴンのむくろが、森の奥にあるということでしょうか?」

「確かに『精神感応素材』を鑑定したら『■■■』の骨、って出てからね。そっか、ドラゴンの骨だったのか……って、どうしたのメイベル。不思議そうな顔をして」

「は、はい」


 メイベルは『なりきりパジャマ』の裾を押さえて、もじもじしてる。


 さらにメイベルは不思議そうな表情になって、


「さっきから、妙に嗅覚きゅうかくがするどくなっているような気がするのです」

「嗅覚が?」

「はい。しかも、耳もよくなっています。それに……なんとなくうずうずして……どこまでも走れそうな気も……」

「そうなの?」

「これは『ご先祖さま』と魔力でリンクしているからでしょうか? もしも、これが『ご先祖さま』の能力、あるいは体力で……私がそれを借りているのだとすると……この『ワンニャン・仲良しトークペンダント』は翻訳アイテムではなく、『変身アイテム』に近いのでは……」

「『翻訳アイテム』ではなかったのですか!?」


 不意に、エルテさんが声を上げた。


「魔力のリンクとはどういうことですか? メイベルどのが『なりきりパジャマ』で姿を変えて、『ご先祖さま』の……つまり、野生の生き物に近い運動能力を得るのなら、確かにそれは『変身アイテム』です。しかも、恐ろしく強力な……」

「いえいえこれは、『翻訳アイテム』ですよ?」

「そ、そうなのですか?」

「そうなんです」

「し、しかし、仮にこれに『健康増進ペンダント』を着けたらどうなるのですか!? 『ご先祖さま』の身体能力に、とてつもない力が追加されてしまいます。『変身・身体強化アイテム』と言えるのでは……」

「『健康増進ペンダント』は着けていません。なので『翻訳アイテム』です」

「で、ですが……」

「作った本人が言うんだから、間違いありません」

「姿が変わって能力を得るなら、変身……」

「変身してるのはパジャマのせいです。ペンダント自体は翻訳アイテムです」

「…………うぅ」

翻訳ほんやくアイテム、です」

「…………わかりました」


 エルテさんはうなずいて、じっと俺を見て、


「……あとで詳しく話を聞かせていただきますね。錬金術師さま」

「はい」


 俺はうなずいた。


 エルテさんは納得してないようだけど、でも、仕方がないんだ。

 勇者世界の『マジカル☆ブレイブ・ブリーダー』は変身するんだから。

 わざわざ変身するということは、能力もそのままのはずがない。きっとすごい身体能力や、戦闘スキルが追加されるんだろう。


 そして、このアイテムは、オリジナルの『ワンニャン・仲良しトークペンダント』のコピーだ。それを使ってるんだから、ちょっとくらい野生の運動能力が手に入っても仕方ないと思うんだ。


「話の腰を折ってすいません。『ご先祖さま』」


 改めて俺は、『ご先祖さま』と向き合う。


「『迷いの森』の抜け方と……どうして森の奥に『ドラゴンの骨』があるのか……採取しても大丈夫かどうかを、教えてください」

『わぅわぅ』


 そうして金色狼の『ご先祖さま』は、ふたたび話をはじめたのだった。







──────────────────



【お知らせです】


 書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する 3巻」は2月10日発売です。

 ただいま表紙が、各ネット書店さまで公開中です。

 今回はアグニスとトールと、建物の窓からこっそり顔を出しているソフィア皇女が目印です。今回も書き下ろしエピソードを追加していますので、ご期待ください!


 さらに、コミカライズ1巻の予約もはじまりました。

 3月10日発売です!


 書籍版、コミック版あわせて、よろしくお願いします!

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