【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第24話「メイベルとアグニス、ないしょ話をする」
第24話「メイベルとアグニス、ないしょ話をする」
しばらくして、お風呂場が本格的に開く時間になったので、俺たちはそこで解散することにした。
俺はそのまま自室に戻り、ライゼンガ将軍は魔王ルキエのところに、今回の件について報告に行くことになったんだけど──
「……メ,メイベル! ちょっとお話……いいですか」
アグニスが、戻ろうとするメイベルを呼び止めた。
それから、ふたりっきりで話をしたい、と言ったのだった。
──────────────────
──メイベル視点──
メイベルとアグニスが向かったのは、城のバルコニーだった。
すでに陽は暮れかけて、山の
まわりに人の気配はない。
「こ、今回は、本当に……ありがとう。トールさまと一緒に、来てくれて。メイド服を、貸してくれて。おかげで落ち着いて、このペンダントの実験ができたので」
「はい、アグニスさま」
「メイド服は洗って返すので。それと、領地に戻ったら、ちゃんと、トールさまとメイベルのために、お礼の品を、用意するので。それから……それから!」
「あわてなくても大丈夫ですよ」
メイベルは夕陽の中で、優しい笑みを浮かべていた。
「私はいなくなったりしません。いつでもこの城に……トールさまのお側にいますので」
「……いいなぁ、メイベル」
「はい。私は、トールさまのお世話係になれたことを感謝しています」
そう言って目を閉じ、祈るかたちに手を組み合わせるメイベル。
「トールさまが魔王領に来られて、まだ数日なんて信じられないくらいに……私は、トールさまのお側にいることが、自然なことだと感じているのです」
「メイベル……」
「でも、陛下は『お世話係はひとりだけ』とおっしゃったわけではありませんよ? アグニスさまも同じお役目につきたいのなら、魔王陛下にお話されてみたらどうですか?」
「……わ、私は……まだ、無理だと思うの」
アグニスは真っ赤になって、首を横に振った。
「私は
「アグニスさま……ご立派です」
「そうじゃないと、トールさまやメイベルに迷惑をかけるかもしれないでしょ?」
夕方の風に髪をなびかせながら、アグニスは笑った。
「ちゃんとトールさまのサポートができるようになったら、そのときは……メイベルと同じお役目につくかもしれないの。その時はよろしくお願いします。
「わかりました。そのときはお世話係の先輩と後輩、ですね」
メイベルはアグニスの手を取って、うなずいた。
「楽しみにしていますね。アグニスさま」
「うん」
「すいません。アグニスさまがそこまで考えているとは知らずに、勝手なことを言ってしまって」
「あやまらなくてもいいの」
アグニスは目の前にいる幼なじみに、困ったような顔で、
「メイベルっていつもそう。自分じゃなくて、他の人のことを優先しちゃうくせがあるの」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。子どもの頃、アグニスがメイベルに火傷をさせちゃったときも、泣きじゃくって……震えながら、でも『なんでもないです』って言ってたじゃない」
「あれは失敗でした。ちゃんと、笑って言うべきでした」
「……もう。メイベルってば」
アグニスはメイベルの手を取った。
「でも、よかった。こうしてまた、メイベルと友だちになれて」
「私もです、アグニスさま」
メイベルは優しい笑みを浮かべて、アグニスの髪をなでる。
「けれど、他の人がいるときは、もう少し言葉遣いを考えた方がいいかもしれませんね。ライゼンガ将軍は許してくださいましたけれど、一応、身分と立場があるのですから」
「わかってる。だからふたり……ううん、トールさまも含めて、3人でいるときは、気にしないことにしたいので」
「わかりました。3人でいるときだけですよ?」
「わかったの。それから……これを」
アグニスは、メイド服のポケットから、黒い石を取り出した。
小さな石だった。小指の爪ほどもない。
その石を両手に載せて、アグニスは、
「これは、前にアグニスが領土で見つけた石です。これを、トールさまに渡して欲しいの」
「
「さっき、トール・リーガスさまは、錬金術の素材になりそうなものを欲しい、っておっしゃってたので。これは小さすぎて、使えないかもしれないけど」
アグニスは小さな黒い石を見つめながら、続ける。
「これは高温でも溶けない……不思議な石。だからお守りに持っていたの。これならトールさまが興味を持ってくださるかな……って」
「わかりました。でも、アグニスさまが直接渡された方がいいんじゃないですか?」
メイベルは首をかしげた。
「その方がトールさまも喜ばれると思いますよ?」
「そ、それは……」
アグニスの頬が真っ赤になった。
メイド服の胸を、真っ白な手の平で押さえる。
その肌が少しずつ赤くなっていくのを見て、メイベルは『健康増進ペンダント』が順調に効果を発揮しているのだと再確認。
彼女はうなずきながら、アグニスの言葉を待つ。
「い、今はやっぱり……顔を合わせるのが恥ずかしいかな。出会ってから今日までの間に、トールさまには……色々と見られてしまったので」
「それは……もしかして」
メイベルは、思わず熱くなった頬を押さえた。
「さっき、下着をつけずにジャンプしたときのことですか? でも、あれは一瞬のことですし、それほど気にする必要は……」
「…………」
「あれ? 違いました?」
「……そ、それは」
「教えてください、アグニスさま。トールさまにお仕えするときの参考にしますので」
「参考にするの!?」
「私もトールさまにはご恩がありますから。このメイベルは……す、少なくとも、さっきのアグニスくらいのことは……その、トールさまが望まれるなら、して差し上げても……」
「……わ、わわわ」
「……ア、アグニスさまは、他にどのようなことをされたのですか?」
「…………えっと」
「照れていらっしゃいます。『健康増進ペンダント』も光ってます。ということは、さっきのジャンプと同じようなものだと考えられますね」
「メ、メイベル?
「で、でもでも……私には、トールさまのお世話係なのです。アグニスさまの
「ま、待ってメイベル。待って」
あわあわするメイベルとアグニス。
メイベルは覚悟を決めたようにうなずいて、アグニスは真っ赤になった顔を押さえてる。
それからふと、メイベルは「はっ」と顔を上げて、
「そういえばトールさまとアグニスさまは、昨日、お風呂場で出会ったのですよね? ということは、あの場所でなにかあったのでしょうか。もしかしたら湯沸かし場のサラマンダーなら、なにか知ってる可能性が──」
「降参! メイベル、
こうしてアグニスは、昨日湯沸かし場でサラマンダーたちと一緒に、服を着ないで『火の魔力』を操る練習をしていたことを話して──
ついでに、それにトールがどう反応したのかも語ってしまい──
最終的にメイベルとアグニスは「このことは、トール以外には内緒にする」という約束を交わしたのだけれど──
メイベルがトールに仕えるための新たなイベントを思いついてしまったのは、また、別の話なのだった。
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