61話

「信じていただけますか?」


「…………うん、まあ、そうだね。さっきも言ったけど、ロレッタちゃんのことは信用してるんだよ、俺。こんな嘘を、平気でつけるような子だとは思ってない。他でもない君が言うんだから、全部本当なんだろうね」


「ありがとうございます」


 どうやら納得してもらえたようで、ロレッタもホッと息を吐く。世の中のことを何も知らずにのうのうと生きていた自分への罪悪感は忘れてはならないし、この村の住人たちに恨まれて当然であるとも理解している。それでも、こんな未熟で半端な自分を「信用している」と言ってくれるウェルナーに、胸がじんわり温かくなった。


「それじゃあ、さ。それが全部本当だったとして、リューのことを聞きに来たのは、なんで? さっきの話だと、君の仕事はあくまで『この村に居ること』で、あいつの機嫌を取ることじゃないだろ? 放っておいても良いんじゃない?」


「それは……」


 この村へ来たのはミランダの意思によるものだったが、今ここへ、リューズナードのことを聞きに来たのは、ロレッタ本人の意思に他ならない。その理由を、上手く説明できるだろうか。


 ロレッタは自分の心に浮かぶ気持ちを掬い上げ、そのまま素直に吐き出した。


「……心配、なのです」


「心配? 君より屈強で、戦い慣れもしてるあいつが、心配なの?」


「はい。確かにリューズナードさんは、とてもお強い剣士なのでしょう。私より遥かに力も体力もありますし、お体も丈夫です。けれど、そうではなくて……彼を見ていると、時折ひどく、不安になるのです。普段は村の皆様と助け合いながら生活をしているのに、本当に危ない時には、全てお一人で解決しようとする。おこがましいとは存じますが、いつかそのまま、お一人で倒れてしまうのではないかと思うと、とても……心配です」


 避難所で雷の音を聴いた時、始めはただ、天気が崩れているだけかと思った。しかし、遠く微かに響いてくるそれが、空ではなく森から聴こえているのだと認識すると、一気に眠気が吹き飛んだ。


 村の近くで、雷魔法を使っている人間がいる。そして、状況は分からないが、それならばきっと、現場には彼もいるのだろう。人の気配に敏感で、魔力の光は敵襲の合図だ、と言っていた彼が。


 戦っているのだとしたら、彼はまた、一人きりなのだろうか。応援を呼ぶどころか、一緒にいる仲間を遠ざけてまで、一人きりで奮闘しようとするのだろうか。そう考えたら、体が勝手に動き出していた。


 結局、彼は無傷ではあったが、やはり一人だった。不安になったのだと伝えても、全く響いていなさそうな様子が悲しかった。そして、せめて自分を使ってほしいと願い出たら、今度は彼のほうが悲しそうな顔をした。


 最初の頃と比べればマシというだけで、リューズナードとの交流は未だにほとんど嚙み合っていない。そう、改めて突き付けられた気分だった。ウェルナーの言う通り、放っておくことだってできる。しかし、何故だかロレッタは、無性にそれをしたくないのだ。


「知ることで、何かが変わる可能性があるのなら、私は、知りたいと思いました。……それが理由では、不足でしょうか?」

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