139話
「……名前、か。例えば、お前だったらどんな名前をつける?」
「え、私ですか?」
「お前が言い出したんだろう」
催促するような目を向けられ、慌てて考え込む。新参者が務めて良い仕事ではない気もするが、言い出した手前、意見の一つくらいは出しておくべきなのだろう。採用されるとも限らないのだし。
この村に相応しい名前。魔法が使えず迫害されてきた人々が、安息を求めて築いたこの場所を象徴する呼称。魔法国家ほどの規模はなく、しかしどの国にも負けない魅力に溢れた、唯一無二の集落の、名前。
「……それでは、
ロレッタの口から、自然とそれは零れた。
「
「あるがままの美しさと、これから何にでもなれる可能性を備えた、皆様に見合う呼称かと思います」
生まれ付き強大な魔力を宿していた自分が言うのは、傲慢かもしれない。けれど、そんなものがなくとも十二分に美しく、強かに生きるこの村の住人たちを見ていたら、自ずとこの言葉が浮かんできたのだ。
「……うん、良いんじゃないか。俺は好きだ」
「!」
リューズナードが穏やかに呟く。すると、その呟きを皮切りにして他の住人たちからも、良いじゃん! 素敵! 賛成! と次々に賛同の声が上がり出した。
「じ、じゃむす、とん?」
「ジャム、じゃなくて、ジェムだよ。ジェー!」
「じぇー?」
ネイキスとユリィの、そんな微笑ましい会話まで聞こえる。なんだか、このまま採用されてしまいそうな勢いだ。本当に良いのか確認したかったが、住人たちはすでに盛り上がり始めていて、声が届きそうにない。
「決まりだな」
「あ、あの、よろしいのですか? もう少しきちんと話し合われたほうが……」
「誰も反対していないんだ、問題ないだろ。……それじゃあ、」
リューズナードが優しく微笑む。他の住人たちへ向けるものとは異なる甘さが含まれていて、ロレッタの心臓を強く叩いた。
「ロレッタ。
彼らの大切な居場所に迎え入れてもらえて、これからは、ここが自分の居場所にもなる。その感動を噛み締めながら、ロレッタも笑った。
「はい、よろしくお願い致します!」
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