第12章 契約破棄

122話

 兵士たちは王宮の正門前で立ち止まり、二人に道を譲った。そもそもロレッタが居るので、先導は必要ない。勝手に行け、ということだろう。


 王宮内で何人もの警備兵とすれ違ったが、誰も襲い掛かってはこなかった。ただ、皆一様に憐れむような視線を向けてくる。この先で何が待ち受けているのか、想像するのも恐ろしい。


 すれ違う警備兵を一瞥したリューズナードが、ふと、ロレッタへ視線を向けた。ロレッタと言うより、ロレッタの着ている装束を見ている。


「……お前、本当に戦場へ出るつもりだったのか?」


 どうやら、兵士たちと揃いの装束を纏っていることが気に入らなかったらしい。眉間に皺を寄せる彼に、ロレッタはミランダとの交渉内容を語って聞かせた。


 話し終える頃には、眉間の皺が一段と深くなっていた。


「碌でもないことしか言わないな、お前の姉は。今更だが、本当に血縁者か?」


「は、はい。間違いなく私の姉です……」


 似ているところはほとんどないが、同じ両親の下に生まれ、同じ家で育てられた、正真正銘の姉妹である。二人の血縁を疑う声は、王宮へ来る客人たちからも、出来の悪いロレッタを見下す意味で囁かれたことがあった。けれど、リューズナードが口にする言葉はそれらと違う響きを持っていて、暗い気持ちにはならない。


「お前を戦わせたくなどないが、どうしてもその意思があるのなら、俺を殺すのではなく、俺と一緒に戦ってくれ。村の奴らの為に」


「……! よろしいのですか……?」


「勝手に出て行かれるよりはマシだ。……俺の手が届くところに居ろ」


「……はい……っ」


 頑なに一人で戦おうとしていた彼が、隣に立つことを許してくれた。居場所を奪おうとしているわけではないのだと、ようやく伝わったのだろうか。


 そんな話を挟みつつ、とうとうたどり着いてしまった、謁見の間。荘厳な扉が、いつもと変わらずそこにそびえ立っている。周りに兵士の姿は一つもない。


 緊張するロレッタを他所に、リューズナードが何食わぬ様子で扉を開こうと手を伸ばした。が、直前でその手がピタリと止まる。みるみる険しい顔になったかと思うと、突如、ロレッタの腕を引いて廊下の端へ追いやった。


「下がれ。後ろに居ろ」


「え、あの……?」


 ロレッタを庇うように前へ立ち、険しい表情を貼り付けたまま、彼は自身の右手で作った拳を扉に叩き付けた。


 ――ガッ!


 すると、


 ――ドゴォ!!!!


 内側から強大な青い光が一直線に放射され、荘厳な扉を消し飛ばした。バラバラになった扉の残骸が、遠くの床に散らばっている。一般の兵士に許される行いではない。


 間違いなく、ミランダが怒り狂っている。

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