123話

「行くぞ」


「はい……」


 青い光が消失したのを見届けてから中に入れば、そこには玉座の前で仁王立ちし、右手をロレッタたちへ向けるミランダの姿があった。彼女の美しい瞳には、並々ならない嫌悪と憎しみが宿っている。まるで、初めて会った時のリューズナードのように。


「……やってくれたわね、リューズナード・ハイジック……!」


 ロレッタでさえ聞いたことがないような、強い怒気を含んだ声音。一人であれば決して立ち向かう勇気など持てなかっただろう。一方、隣の彼には、やはり全く怯む様子がない。前回と同じく、勝手に部屋の中央まで歩いて行った。


「さっさと用件を言え。ないなら帰る」


「ふざけないでよ! 他の国が、どこも戦闘態勢を整えているこの時に、兵士の一部を使い物にならなくしてくれて……っ! ……目的は何? 何しに来たのよ、あんた!? 答えなさいよ!!」


 再び手に青い魔力を滞留させながら、ミランダが怒鳴る。契約の取り付け自体は横暴で一方的だったものの、一応、彼女はその契約を今日まで守っていた。それなのに、いきなり殴り込まれて、暴れられて、混乱するのも無理はないのかもしれない。ロレッタだって困惑したくらいなのだから。


「盗られたものを、取り返しに来ただけだ。それ以外で、俺がこんな所へ来る理由なんてない」


「なんの話よ!?」


「こいつの話だ」


 リューズナードが目線の動きでロレッタを指し示した。ミランダの表情が更に険しくなる。


「何を言っているの……? あんたにとってロレッタそれは、無理やり押し付けられた厄介者のはずでしょう? わざわざ引き取ってやったのに、何が不満なのよ!?」


「寄越してきたのはお前のほうだろ。受け取った以上、もう俺のものだ。勝手に触るな」


「はあ……!?」


 ロレッタを、自主性のない役立たずだと思っていたミランダには、想像できなかったのだろう。王宮での閉じ籠り生活にも異を唱えないような妹が、突然放り込まれた見知らぬ僻地で、現地の人々と真っ当な関係性を築けるなんて。そしてそれが、魔法国家へ反逆する意思を持たない男に、武器を取らせる理由になるなんて。


 余計に増した混乱が怒りへとすり替わったのか、手元の光が強まっていく。


「意味が分からない……でも、あんたのやったことは、紛れもない契約違反だわ! お望み通り、あんな村、沈めてやる! こっちだって兵士を潰されているのだから、文句なんてないわよね!?」


 リューズナードが、スッと目を細めた。


「……俺の用は済んでいる。本来であれば、もう戦う必要はなかったんだがな。お前が今の言葉を撤回しないなら、俺はここで、お前を斬らなければならなくなる」


「勝手なことばかり抜かさないでくれる!?」


「先に勝手を押し付けてきたのも、お前のほうだ。責められる筋合いはない」


「非人ごときが、王族に勝てると思っているの?」


「……勝つのは無理かもな。だが、安心しろ。どんな手段を使ってでも、道連れにしてやる」


 刀を鞘から引き抜き、その先端を真っすぐミランダへと向ける。ミランダの右手も、真っ直ぐリューズナードへと向けられていた。自分勝手な二人の言い合いに、ロレッタが口を挟む余地などない。

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