124話

「……殺す!」


 ついにそう吐き捨てたミランダが、手元の魔力を矢じりの形に変えて放射した。以前、脅しに使っていたものと見た目こそ同じだったが、威力は段違いだ。目を剥くような弾速のそれが、リューズナードの脳天を目掛けて直進していく。


 リューズナードがロレッタを横へ突き飛ばして射線から外させ、自身も反対側へ跳ねて躱す。矢じりは壁に激突するかに思われたが、寸前のところで急激に減速し、リューズナードを追尾するように進路を変更した。


「!」


 襲い来る気配を悟って再び躱すも、何度でも進路を変える矢じりを振り切れない。リューズナードが眉を顰めている。


 右手をかざしたまま、ミランダが自身の左足で強く床を踏み鳴らした。すると、たちまち謁見の間の床が青い水で埋め尽くされる。ロレッタの膝までが一気に沈んだ。武具の創造や、単発の遠距離攻撃といった小細工ではない。周辺一帯の環境ごと操作してみせる、王族由来の魔力量の成せる業。


 靴も衣服も水を吸い込んで重くなり、リューズナードの機動力が低下する。それでも懸命に矢じりの追尾を躱していたが、ミランダが左手で新たに放ってきた衝撃波は避けきれず、肩を、腰を、足を掠めた。青い水面に、血が滲んでは流されていく。


 このままでは、いつか致命傷を食らいかねない。そう判断したらしいリューズナードが、自身の正面にミランダの姿を捉え、真っ直ぐ突っ込んで行った。多少の傷は構わないという覚悟で、バシャバシャと音を立てながら床を蹴る。


 射線に自身も入った為か、ミランダが矢じりの放射をやめた。衝撃波を何発か撃ち込んで、それだけでは敵を止められないと悟ると、素早く魔力を練り直し、手元に青い薙刀を生成する。同時に、ヒールの高いパンプスを鬱陶しそうに脱ぎ捨てた。


 勢いを付けて切り込んだ白刃と、それをしっかり受け止めた薙刀が、ガキン! と派手な音を響かせる。純粋な力勝負であればリューズナードが圧勝しただろうけれど、足元が悪いせいで体重を乗せ切れていない。一方、ミランダは自身の足元にだけは水を張っておらず、全身を存分に活用できている。結果、互角の競り合いが発生した。


「……少し、お前を見縊っていた。王族なんて、どこも偉そうにふんぞり返っているだけの飾りだと思っていたが……」


炎の国ルベライトの王族のお話かしら。あんな腑抜けた男共と、同列に扱わないでいただける? ……私は、使えるものはなんでも使う。兵士でも、妹でも、自分自身でもね!」


 ミランダの咆哮に合わせるように、床を覆う水が青く輝き出す。そして間もなく、あちらこちらから先端の尖った水柱が生えてきて、一斉にリューズナードへと襲い掛かった。


「っ!」

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