125話

 危険を察して、リューズナードが回避行動を取ろうとしたが――。


 ――バシャン!


 全ての青い柱が、彼の背を貫く寸前、床の水ごと一気に弾けて消失した。


 ロレッタが自分の魔力を注ぎ込み、ミランダの魔法を相殺したのだ。


「!?」


 ミランダが驚いて目を見開く。足元に水の抵抗を感じなくなったリューズナードは、体重を乗せて半歩踏み込み、重心を前へ移動させながら、思いきり刀を振り抜いた。力負けしたミランダの体がふっ飛ばされ、玉座の横を通過して転がる。


 咄嗟に受け身を取って着地したミランダが、すぐさまリューズナードへ向けて衝撃波を打ち込んだ。軽快な足取りでそれらを躱すと、彼は部屋の中央まで後退して来た。


「ロレッタ、お前……!」


 ミランダの鋭い視線が突き刺さる。


 人を撃つのは、怖い。けれど、かつて姉が言っていた通り、魔力を放出し続けるだけならばロレッタにもできる。そして、ロレッタがこの力で守りたいと思うものは、もう姉ではなくなっていた。


 いかるミランダを、真っ直ぐに見詰め返す。


「……私は、私にできないことをいくつも成し遂げてきたお姉様を、尊敬しております。現在の水の国アクアマリンの発展は、お姉様の尽力によるところが大きいことも理解しております。……ですが、貴女がリューズナードさんや、あの村の皆様の敵になるのなら……私にとっても、貴女は敵です。全ての民を平等に愛せない方に、これ以上従うつもりはありません……!」


 ロレッタは、この国が好きだ。


 直接触れ合う機会はそれほど多くはなかったけれど、豊かな水資源と自由な魔法に支えられ、人々の笑顔が溢れているこの国が大好きだ。


 そして同じくらい、いつでも優しく、温かく、時に圧倒されるほど賑やかな笑顔が溢れているあの村も、大好きなのだ。


 どちらも大切にしたい。それがロレッタの中に芽生えた気持ちだった。だからこそ、それらにはっきり優劣をつけて差別する姉には、もはや黙って従う理由がない。


 リューズナードが、小さく笑った。


「……味方が居る戦いなんて、初めてだ」


「え……?」


「魔法の対処は任せて良いか。……俺は恐らく、一人では王族に勝てない。だが、お前が居てくれたら、俺は誰にも負けない」


「! ……はい! 一緒に戦って、一緒に村へ帰りましょう!」


「ああ!」


 生まれた国も、与えられた身分も、備わった能力も、育った環境も、培った考え方も、何もかもが違う。本来ならば、絶対に出会うことのなかった相手。


 そんな相手と今、心を通わせ、共に並び立っている。偶然と謀略によって繋がれた奇妙な縁が、確かな絆に変わってロレッタを奮い立たせてくれる。心臓がドクドクと音を立て、体に熱い血が巡る。


(この人が一緒に居てくれるから、大丈夫……!)


 確固たる自信を胸に、ロレッタは青い魔力を滞留させた。

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