121話

 腕が隙間なく抑えられているので、なんとか少し動かせる両手を持ち上げて、恐る恐るリューズナードの腰元を掴んでみる。すると、彼の腕の力が増し、さらに強く抱き締められた。


 抱き締められる。締め付けられる。それはもう、万力のように、ギチギチと。


「……あ、あの、リューズナードさん……痛い、です……っ」


「! 悪い……」


 骨や内臓の限界を感じて声をかけると、彼はハッとした顔ですぐに解放してくれた。そこまで強く力を込めていた自覚がなかったらしい。


 頬も耳も赤く染め、バツが悪そうに目を逸らす様子が、なんだか可愛く見えた。


「……帰るぞ。もうここに用はない」


「は、はい……」


 さっさと歩き出した彼の背中を追う。広くて大きな背中は、何度見ても頼もしくて安心する。また少し、心臓が早く脈を打った。


 そうして、半壊した修練場の扉を抜けたところで、前方から三人の兵士たちが向かって来るのが見えた。リューズナードが刀に手をかけ、臨戦態勢を取る。しかし、兵士たちは一定の距離を保った位置で歩みを止めた。魔法を使う素振りもない。


「リューズナード・ハイジック。今すぐ、謁見の間へ来い。ミランダ様がお待ちだ」


「!」


 背筋に寒気と緊張が走る。


 遅かった。リューズナードの契約違反は、すでにミランダへと伝わってしまっていたのだ。素通りすることは許されない。


「知るか、俺は帰る。あの女の顔なんて見たくない」


「……いいえ、参りましょう」


 鬱陶しそうに答えるリューズナードを、ロレッタは静かに引き留めた。


「経緯はどうあれ、あなたはお姉様と交わした契約を破ったのです。このまま帰ったのでは、村がどうなるか分かりません。ですから……きちんと話をして、決着をつけに参りましょう」


「! …………分かった」


 リューズナードが臨戦態勢を解いたのを見届けると、兵士たちは王宮へ向けて歩き出した。二人も後をついて行く。


 自分一人では成し遂げられなかった、ミランダとの交渉。けれどもう、ロレッタは一人ではない。彼が隣に居てくれる今なら、違う結果へとたどり着けるだろうか。

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