81話
その日の分の仕事を終え、分けてもらった食材を抱えながら、ロレッタは帰路へ着いた。昨日までと比べて、まだ空が明るい。食事と入浴をサラたちの家で済ませる必要がなくなり、早めの時刻に戻れるようになった為である。
広くなった家屋に着き、まずは早々に入浴準備を整えた。浴槽を設置した際に水も張ってくれていたので、火を起こせばすぐに使用することができる。他の作業はともかく、入浴だけは家主と鉢合わせる前に、確実に済ませておきたい。
手早く入浴を済ませ、次は二人分の食事の用意に取り掛かる。ロレッタは元々、料理が得意だったわけではない。サラの手伝いをする中で少しずつ教わり、この村の郷土料理に近いメニューを自然と覚えていったのだ。自分が、料理や学習を好む人間であったことに、ここへ来て初めて気が付いた。いくらでも新たな発見ができるこの生活が、心から好きだなと思う。
祖国では魔力を特定の設備に注げば簡単に火を起こせたものの、ここでは一回毎に薪をくべて直接火を焚かなければならない為、風呂も料理も、気軽に「温め直す」ということができない。リューズナードが帰宅する頃には、どうしても食事が冷めてしまうのが申し訳なくて、住人たちにも相談してみたが、こればかりはどうにもならないらしい。誰に聞いても最後には、「リューはなんでも食べられるから平気」と締め括られ、苦笑いするしかなかった。
自分の食事を終えて、最後は掃除に取り掛かる。ここまでが寝る前の日課だ。水に浸した厚めの布切れを、新品の床板へ押し付けた。
火を起こすにも時間がかかるし、その上で入浴にも料理にも時間はかかるので、外はすっかり闇色に包まれている。途中で明かりを灯しつつ、ロレッタは黙々と作業を進めた。ただ、手を動かしてはいるが、頭では全く別のことを考えている。
(婚姻と契約を破棄する為には、何をする必要があるのかしら……)
今後の自分の行動方針を決めるべく、思考を巡らせた。
ミランダが一方的に突き付けたそれらは、どちらも書類上のサインを以って締結されたものだった。と言うことは、あの書類を処分してしまえば良いのだろうか。しかし、子供を攫い、脅迫までして取り付けた契約なのだから、書類はきっとミランダが厳重に保管している。説得か、力ずくか。どちらにしても姉との対面は避けられない。
また、ミランダとリューズナードの間で交わされた契約についてはそれで解決できるかもしれないが、婚姻については、書類を破棄するだけでは駄目だ。ロレッタがこの村へ来て一ヶ月近くが経過している今、婚姻届けは国で正式に受理されているだろうし、他国への通達も終わっているはず。様々な手続きを踏まなければ、白紙に戻すことはできないだろう。……つまり。
(何をするにしても、まずは
村を出て、
となると、次に考えるべきは、どうやって
ぐるぐる悩んでいた時、なんの前触れもなく突然、玄関の扉が開く音がした。
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