80話
二人の元へ歩み寄り、恐る恐る尋ねた。
「申し訳ありません、リューズナードさん。お気に召さないようでしたら、私から改めて、皆様にご相談させていただきますが……」
するとリューズナードが、いつかも見たような、なんとも形容し難い表情になる。
「……元々、俺の要望で始めたことじゃないんだ。お前の要望が叶ったのなら、それで良いんじゃないか」
「ですが……」
諦めたような言い方に、罪悪感が募る。どうしたものかとオロオロしていると、ウェルナーが深く溜め息吐いた。
「面倒な奴だな、お前。素直に『喜んでくれて嬉しい!』って、言えねえの?」
「……そんなこと、言っていないだろ」
「だから、言えねえのか、って訊いてんの。……大丈夫だよ、ロレッタちゃん。住んでればそのうち慣れるから。家なんて、そんなもんでしょ。それじゃあ、職人チームは撤収するわ。あー、疲れた」
「あ、はい。皆様、ありがとうございました」
各自で荷物や資材の余りを抱えて去って行く面々を、玄関先まで出て頭を下げながら見送るロレッタ。やがて全員の姿が見えなくなったところで、リューズナードも家から出てきた。未だ表情は晴れていない。
「あ、あの……」
「なんだ」
「……いいえ、なんでも……申し訳ありません」
「……家の話なら、構わないと言っているだろう。いちいち謝ってくるな」
「は、はい、申し訳……あ」
「…………」
盛大に眉間に皺を寄せると、リューズナードはロレッタの横を通り過ぎて村のほうへ歩いて行ってしまった。
今さら彼を、怖いだけの人間だと思っているわけではない。ただ、荒い口調と険しい表情を同時に向けられると、機嫌を損ねてしまったのかと不安になってしまう。そしてあの様子が、本当に「機嫌の悪い状態」なのだとしたら、彼はロレッタの前ではほとんどずっと不機嫌でいる、ということになる。
嫌われているな、と、言動の端々から改めて感じて、おこがましくも悲しい気持ちが滲んでくる。しかし、これはきちんと受け止めなければならないものだ。姉と共犯である自分は、彼と彼の大切な人々に、それだけのことをしたのだから。
一刻も早く彼を解放する為にも、婚姻と契約を破棄する手段を見つける。数日前の決意を思い出し、自分の手を強く握り締めた。
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