第8章 話し合い
79話
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数日後、昼過ぎ。
「どうよ?」
「わあ……!」
「…………」
サラたちと共に昼食を食べ終え、午後の仕事へ取り掛かろうとしていたロレッタは、住人の男性に呼ばれてリューズナードの自宅を訪れていた。そこには得意げな顔のウェルナーと、なんとも言えない顔のリューズナード、そして資材や道具の片付けをしていると思われる住人たちの姿がある。
自宅の改築が終わった。そう告げられてやって来たロレッタの姿を確認すると、ウェルナーが嬉しそうにロレッタとリューズナードを家屋の中へ招き入れてくれた。建築と内装は外にいた面々が、家具や設備はウェルナーがそれぞれ担当したらしい。
外観を見ただけでも想像できたことだが、間取りが明らかに広くなっている。以前は土間と居間のみで完結していたのに、現在は広がった居間の先に寝室のようなスペースが設けられており、箪笥や棚といった収納家具も設置されていた。隅に置いてある背の低い土台のような物は、刀を置く為のスタンドだろうか。
土間の端には台所がある。かまどや流し台などの設備は以前と変わっていないものの、隣に食器棚が併設されていて、調理器具と二人分の食器も並べられていた。食料を保存しておける櫃、たっぷりと水の入る水瓶、焼き物用の七輪まで用意されている。自炊には困りそうにない。
そして、台所と反対側には仕切りで囲われた区画があり、薪を入れて火を焚ける土台の上に鉄鍋と木桶を乗せた、内風呂が取り付けられていた。サラの家で何度も使わせてもらっている為、使い方も整備方法も頭に入っている。これから冷える季節が来ても、湯冷めの心配がなくなりそうだ。
中心に囲炉裏が鎮座する居間も、しっかりとした床板がはめ込まれているので、踏みしめても音がほとんど鳴らない。それだけでもだいぶ感動してしまう。年季の入っていた窓や窓枠も一新されている。壁も綺麗だ。
これまでよりも格段に生活感が出た家屋を、ロレッタは目を輝かせながら見て回った。
「……おい、広げて風呂を付けるだけじゃなかったのか。ここまでやれ、とは言っていないぞ」
「あ? 俺たちの仕事にケチつけんの? 壁中にお前の名前彫って、蛍光色で塗装するぞ」
「やめろ、訳の分からない仕返しをするな。……俺はこれほど整った環境じゃなくても、十分に生活できる。資材も労働力も、ここまで割く必要はなかっただろう」
「ロレッタちゃんの為でもある、って言っただろ? いい加減、人と一緒に生活してる自覚を持て。で、貰える物は大人しく貰っておけば良いんだよ」
「…………」
心を弾ませていたロレッタだったが、リューズナードとウェルナーのそんな会話が聞こえて、パタリと足を止めた。
整った環境、と家主は言うが、王宮育ちのロレッタの視点では、これはまだまだ質素かつ不便の部類に入る。しかし、凄惨な環境で育った彼の視点では、これは贅沢の部類に入るのかもしれない。自宅なのに落ち着かない、心が休まらない場所になってしまったのだとしたら、ロレッタも本位ではない。
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