63話

「それから二人も一緒に暮らすようになったんだけど、しばらくして、埋め立て場に勝手に住み着いてたのがバレちゃって、立ち退き命令が出た。しかもそこは国の管轄だったから、わざわざ騎士団の連中が派遣されてきてさ。力づくで追い出されそうになった時に、リューが『自分が戦力としていくらでも働くから、こいつらに住む場所を与えてやってほしい』って言い出したんだ」


「……!」


「最初はもちろん、相手になんてされなかったよ? でもあいつ、その場でナイフ片手に騎士団の奴らをどんどん伸していって、無理やり認めさせちゃったんだよね。その結果、リューは騎士団の下っ端として戦場へ駆り出されるようになって、俺たちは街の隅っこに住処を用意された。皆でまとめて物置きに押し込まれたような感じだったけど、壁と屋根があるだけ、それまでよりもマシだったかな。……これが、今から十年くらい前の話」


 リューズナードが戦争に参加していた経緯について、疑問に感じたことはあった。国の為という理由で彼が動くことなど、あり得るのだろうか、と。


 しかし、国ではなく、家族や仲間たちの為に自ら志願したのなら、納得できる。現在の彼の姿を見ているからこそ、他の何よりも腑に落ちる理由だと思った。


「リューが戦ってる間、俺たちは国から与えられた雑用みたいな仕事をしながら、交代でエルフリーデちゃんの世話もしてたの。それで、たまに帰って来るあいつが、見る度ボロボロになってて、皆心配してた。でも、本人は『これでいい』って言って、エルフリーデちゃんの顔だけ見てまたすぐ出て行くから、止めるに止められなかったんだよね。そんな生活が何年か続いたんだけど……今から七年くらい前にさ、炎の国ルベライトで流行り病が蔓延したことがあるの、知ってる?」


「あ……はい、お話だけは伺ったことがあります。感染率も致死率も、凄まじいものだったとか……」


「そう、それ。まるで猛毒でも撒かれたみたいだ、って言って、国中、大騒ぎだったよ。まあ、炎の国ルベライトは大陸の中でもトップクラスで医療技術の発展した国だから、そのうち対処方法が確立されて、治癒魔法で完治させられるようになって、結局、一ヶ月くらいで鎮静化したんだけどね」


 菌もウイルスも焼き殺し、どんな傷でもたちまち焼き塞ぐ、炎属性の治癒魔法。その魔法と先進的な医療技術を組み合わせることにより、炎の国ルベライトは医療大国として不動の地位を築いている。そんな国で原因不明の伝染病が広まった話はなかなかに衝撃的であり、ロレッタも教養の一環として教わった記憶があった。


「でも、その騒動が収束する直前に、エルフリーデちゃんが感染しちゃったの」


「え……」

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