62話

 真っ直ぐ見詰めて尋ねると、ウェルナーはとても穏やかに笑った。


「……うん、いいね。その理由なら安心だわ」


「!」


「リューを見て、『なんでも任せられる』とか言うような奴だったら、話す気なかったんだけどね。君が俺たちと同じように、あいつを真摯に心配してくれる人で良かった」


 すくっと立ち上がり、一度工房を出て行ったウェルナーが、やがて水を入れたカップを一つだけ持って戻って来た。


「少し、昔話に付き合ってよ。人のことを勝手にあれこれ話すのはよくないけど、俺の昔話を、俺が君にする分には、何も問題ないからね。はい」


 唐突に差し出されたカップを、不思議に思いながら受け取る。


「あ、ありがとうございます……?」


「いえいえ。この先、王女様には少々、刺激の強い話になる可能性がございますので、お気を確かに」


「! ……承知致しました」


 緊張で思わず身構えると、ウェルナーが優しく頭を撫でてくれた。




「……どこの国でも、非人差別っていうのは、やっぱりあってさ。もちろん、俺もその対象だったのね。魔法が使えないとまともな職に就けないし、まともな職に就けないと住む場所も探せないし、下手に外をうろついてると知らない奴らに絡まれるし。もう街の中では生きていけないな、って思って、同じ境遇の奴らと一緒に、国の端にある廃棄物の埋め立て場みたいな所で、こっそり暮らしてたんだ」


「っ…………」


「おっと、ここで躓いてたら本題まで辿りつけないぜ? まだ入り口だ。……それである日、その埋め立て場の近くで、ぶっ倒れてるリューを見つけて、皆で保護したの。あいつ、魔法が使えない、役に立たない、って理由で育児放棄されてて、何年も虐待され続けた挙句、妹さんと一緒に家を追い出されたんだって」


「……妹さん、ですか?」


「そう。リューと五、六個くらい歳の離れた妹さん。エルフリーデちゃん、っていうんだけど。魔法が使えないのに加えて、生まれ付き体が弱かったらしくて、追い出されるまでは両親から、追い出された後は街の連中から、ずっとリューが守ってたの。で、どうにかエルフリーデちゃんを休ませられる場所を見つけられないかと彷徨って、さすがに限界がきて気絶したっぽいね」


 すでに、これほど軽い口調で語られるべき内容ではなかったが、ロレッタの為にあえて軽くしてくれているのかもしれない。震える両手を抑え込み、懸命に耳を傾ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る