64話

「リューも騎士団の任務とか放り出して戻って来てさ、皆で手分けして国中の病院回って、彼女を診てもらえないか頼んだんだ。けど、駄目だった」


「……ひと一人を受け入れられないほど、医療機関が逼迫していたのですか?」


「いや、全然? どこも通常営業してたよ。暇すぎて受付けが居眠りしてるような所もあったな。……それでも、駄目なんだってさ。俺たちが、非人だから」


「!」


「人じゃないものなんて受け入れられない。どこに行ってもそう言われて、摘まみ出されたんだ」


「そんな……ただ魔法が使えないというだけで、どうしてそこまで……」


「どうして、って……」


 ウェルナーが、悲痛な表情を浮かべた。


「そんなの、俺たちが一番知りたいよ」


「っ…………」


「……ごめん、話戻すね。炎の国ルベライトには、民間でもレベルの高い治癒魔法を習得してる人が結構いるんだけど、その最高峰は王子だ。王族の魔力って、どこも凄いでしょ? あの国の王子の治癒魔法は、死者すら蘇らせる。そんな力があれば、女の子一人を助けるくらい簡単なはずだからさ。リューが王宮へ乗り込んで、直談判しに行ったの。


 でも、やっぱり相手にされなかった上に、任務を拒否したことを責められて、騎士団使って殺されかけたんだって。まあ、あいつも騎士団の連中に仲間意識とか持ってたわけじゃないから、反撃してなんとか切り抜けたらしいんだけど。戻って来た時には、エルフリーデちゃんが、もう……」


「…………」


「想像できないかもしれないけどさ、静かに横たわってるエルフリーデちゃんを見たリューが、泣きながら『もう殺してくれ』って、言ったんだ。妹の為に、っていう一心で耐え続けてきたいろんなものが、全部一気に折れちまったんだろうな。


 ……以前から俺たちも、国を出ることを考えてはいたんだ。ただ、行く宛てがないし、エルフリーデちゃんの体調のこともあったから、なかなか踏み切れずにいたんだよね。


 でも、崩れ落ちるリューを見て、ああもう駄目だな、って思った。人間扱いされない、病気になっても見殺しにされる、役に立たないと躊躇なく切り捨てられる。こんな国に居たところで、まともに生きていくことなんてできないから、どうせ駄目なら捨ててやろう、って。動けなくなってるリューを皆で無理やり引きずって、国を出てきたんだよ」


「…………」


 魔法国家の人間が、自国の騎士団を壊滅させて逃亡した。ロレッタがミランダから聞かされていたのは、それだけだ。騎士団へ加入した経緯も、細かいニュアンスが違う気がする。外の国には、さすがに詳細な内部情報までは伝わっていないのだろう。


 姉の話だけを鵜呑みにすると、彼はまるで国へ仇なす反逆者かのように映る。しかし、彼の行いが反逆に当たるのならば、国家とは一体なんなのだろうか。

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