65話

「国を出た後も、しばらくリューは、どこ見てるんだか分からないような状態で呆然としてたの。だから、俺たちと同じ境遇の人たちを受け入れられる場所を作る、っていう目的を与えて、とにかく体を動かしたんだ。で、村の形ができたら今度は、そこで皆を守る、っていう役割を与えた。


 ……戦うことを存在意義だと捉えてほしかったわけじゃないんだけど、自分がここに居ても良いと思える明確な理由がないと、あいつまた、立っていられなくなりそうだったから。


 なんとか生活できるようになって、噂を聞いたのかいろんな国から同じ境遇の人たちが逃げて来るようになって、たくさんの人たちと触れ合う中で、少しずつ落ち着いていったんだ。七年もかけてようやく、今のあいつになった、ってわけ」


「…………そう、だったのですね……」


 あれほど強い人なのに、どうして死に急ぐような守り方を選ぶのだろうかと疑問だった。


 答えはとても単純で、ずっとそうして生きてきたからだ。きっともう、自分でも変えられなくなっている。立ち止まってしまえば、また動けなくなると分かっているから。


 彼だって、決して好きで戦っているわけではない。けれど、戦うことしかしてこなかったせいで、それ以外に自分の存在価値を見出せなくなったのだろう。助けられることを、奪われることだと認識するくらいに、歪んでしまった。自分自身の守り方を、忘れてしまった。だから、祖国を離れた今でもずっと、一人で戦い続けようとしているのだ。


「……ありがとうございます。つらいお話をさせてしまって、申し訳ありませんでした」


「ううん、気にしないで。……すごい魔法が使える王族なのに、非人おれたちの為に泣いてくれる君だから、話したんだよ」


 いつから溢れていたのかも分からない涙が収まるまで、ウェルナーが優しく背中を撫でてくれていた。




 昼時は過ぎたが、夕方と呼ぶにはまだ早い時刻。泣き腫らした赤い目を擦りながら、ロレッタはウェルナーの元を後にした。俺が喋ったこと、リューには内緒ね。口元に人差し指を添えつつ頼まれた約束事には、何度も頷いた。


 気持ちの整理がしたくて避難所へ戻ると、とても珍しいことに、リューズナードも戻っていた。壁に背を預けて胡坐をかき、両腕を前方へ投げ出して目を閉じている。昨夜はずっと外にいたようなので、仮眠を取りに来たのだろうか。


 近付いても、特に反応がない。普段は人の気配に敏い彼であっても、さすがに眠っている時は、その限りではないのだろう。思えば、眠っている姿を見るのは初めてだ。同じ家に住んでいるのに、改めて異様な関係だなと実感する。なるべく音を立てないよう気を付けながら、彼の右隣に腰を下ろした。

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