2話
ミランダに珍しくも呼び出されたロレッタは、久しぶりに謁見の間へと足を踏み入れた。たった一つの玉座へ当たり前に腰かけるミランダを見届け、自分はせめて邪魔にならないようにと、部屋の隅に立って待機することを選択する。特に批難の声は飛んで来なかったので、間違ってはいなかったのだろう。
母親を早くに亡くし、数年前に国王たる父親が病床に臥せてからというもの、
一方、姉のような美貌も才覚も持ち合わせていないロレッタは、「第二王女」という半端な肩書きだけを持て余しながら、ひたすら王宮に閉じこもる生活を送っている。跡取りには長女がいれば良いし、政治で助力できるようなこともない。母親譲りの膨大な魔力も、今のところ主だった使い道は見当たらない。
華々しい社交界に顔を出すことも許されず、優秀な姉の影に隠れてひっそりと息をしている名ばかりの王女。それが、王宮でのロレッタという存在だった。
そんな自分が、どうしてこの場に呼び出されたのか。詳しい事情は何も知らない。珍しい客人が来るから立ち会うように、と。たったそれだけの言伝を家臣から聞かされただけだ。内心ではもちろん訝しんでいるものの、拒否する権利は与えられていない。いつになく上機嫌な様子の姉が、なんだか不気味に見えた。
しばらく待機していると、何やら廊下が騒がしくなった気がした。兵士が誰かを呼び止めようとしている声が聞こえる。
しかし結局、その兵士の声は相手に聞き入れられなかったようで、ロレッタは荘厳な扉が荒々しく蹴破られる瞬間を初めて目撃することになった。
扉の向こうには、腰元に一振りの刀を携えた青年が立っている。凛々しく整った顔立ちに見えたが、盛大に顔をしかめているせいで、だいぶ人相が悪い。
尚も取り押さえようとする兵士を意にも介さず、青年は部屋の中央まで勝手に進むと、地を這うような声で尋ねた。
「……ミランダ・ウィレムスとは、お前か?」
男性の、明らかに怒りを滲ませた声音に慣れていないロレッタは、ビクリと体を跳ねさせた。しかし、正面で受け止めたミランダは全く堪えていないようだ。
「ええ、そうよ」
「そうか」
短いやり取りの後、青年は携えていた刀を鞘から引き抜き、その切っ先を迷わずミランダへと向けた。
「うちの村の子供が世話になっているそうだな。その首を
ともすれば命の危機だと言うのに、ミランダの表情は変わらない。魔法という超常現象を操ることができる彼女にとって、刀など大した脅威ではないのかもしれないが、そうだとしてもすごい胆力だと思う。自分に向けられているわけでもないのに、ロレッタは身が竦んで動けなくなっている。
「刀を下ろしなさい、無礼者。誰に楯突いているのか、分かっているの?」
「お前だよ、ミランダ・ウィレムス」
青年の不遜な態度に、ミランダがわざとらしくため息を吐く。
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