3話

「……あなたは炎の国ルベライトの出身だと聞いているのだけれど、炎の国ルベライトは下民の躾も満足にできないのかしら。先ほどから、王族の前だというのに、言葉も態度も野蛮で嫌になるわ」


「俺はもう、あの国とは関係ない。それよりも、子供を攫って交渉へ持ち込もうとするほうが、よほど野蛮で下劣だと思うがな」


「それは仕方がないじゃない。私はあなたとお話がしたかっただけなのに、全く応じてくれないのだもの」


「応じる理由がないからな」


「だから、理由を作ってあげたのでしょう?」


 ミランダが片手を挙げて合図を出すと、兵士の一人が部屋の奥から幼い少年を連れてきた。後ろ手に拘束され、口元は厚い布地で固く縛られている。


「ネイキス!」


「ん゛ーーー!!!」


 ひどく焦った様子で少年の名を呼ぶ青年を見て、ミランダが妖艶に微笑んだ。


「自分の立場が分かったかしら? ……もう一度言うわよ、刀を下ろしなさい」


「………」


 青年が、大人しく刀を鞘へ戻した。ミランダはさらに続ける。


「頭が高い」


「っ………」


 またしても、青年が静かに膝を折った。すかさず兵士がやってきて、水魔法で生成した槍を青年の喉元へ突き付ける。


 生まれつき高い魔力を持つ王族や、魔法の扱いに長けた者ならば、この程度の武器など恐れるに足りない。自身の魔法で打ち消すことも難しくはないだろう。しかし、青年はそうしなかった。


「その程度で済ませてあげている私に感謝なさい。本来なら、“ヒビトの村”の住人が王族と言葉を交わすことなんて許されないのだから。もちろん、あなたも含めてね」


「やめろ、俺たちの居場所をその名で呼ぶな」


「あら、そう? 呼称がないと不便だったものだから。気に障ったのなら謝罪するわ。ごめんなさいね」


 謝る気持ちなど微塵も感じられない上辺だけの言葉に、青年が強い敵意を向ける。


 ロレッタは頭に大陸の勢力図を思い浮かべたが、その中に“ヒビトの村”という地名は見当たらなかった。姉の言葉の一体何が青年の逆鱗に触れたのか、分からない。こんな時、顕著に己の無知を思い知る。


 ここまでの話を聞いてなんとか汲み取れたのは、ミランダが青年との交渉を望んでいたこと、青年がそれを拒否し続けていたこと、そして痺れを切らしたミランダが青年の知り合いの少年を人質に取って呼び出したことくらいだ。

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