4話
「さて、と。そろそろ本題に入りましょうか。リューズナード・ハイジック、あなた、
「断る」
「少しは考えなさいよ」
近衛兵は、王族を守護する直属の戦力だ。他国との戦争が始まれば、雑兵を率いて最前線へ派遣されることもある。そんな重要な役職を、他国の出身者に割り当てるケースなど、この国ではほとんどない。
ミランダにとって、彼はそれほど価値のある人材なのだろうか。
「考えるまでもないな。俺が魔法国家に加担するなんて、未来永劫あり得ない。どこの国にも、そう言っている」
「あなたが頷けば、あなたの大事な村の住人たちも王都へ迎えてあげるわよ? 今よりもずっと豊かな暮らしをさせてあげられるわ」
「必要ない。俺たちは自立した生活を送っている。魔法なんてなくても、な」
リューズナードと呼ばれた青年が最後の一言を強調すると、ミランダは不快そうに眉を顰めた。
人間は生まれつき、体内に魔力を生成・制御する器官を備えている。操れる魔力の総量には個人差があり、王族の血を引く者は遺伝的に魔力の総量が高い。その王族が治める国を魔法国家と呼ぶ。水魔法を操る王族が統べる国・
教養の一環として教え込まれた知識を脳の奥から引っ張り出し、何とか話を理解しようと試みるロレッタ。それらによれば、各地の魔法国家は全て、魔力や魔法を制御できることを前提とした発展を遂げてきたはずだ。現代においては機械や乗り物、ライフラインなど、生活を支える多くの要素が魔力を原動力に作動している。国民全員が魔力を持っているのだから、当然の理のように思う。
しかし、姉に真っ向から反発している彼は今、「魔法なんてなくても生活できている」と言わなかったか。魔法なしでどうやって生きているのだろう? どうして使わないのだろう? 考えるほど疑問符が増えていく。
「ふん。ヒビトの考えは理解に苦しむわね。まあ、ここであなたが頷かないのは想定内だわ」
「むしろ、こんな手段に出た時点で、俺が味方になる可能性は完全に消え失せている、ということくらい分からなかったか?」
「普通に交渉を迫ったところで、あなたは承諾しなかったでしょう? だったら、どんな手段を取っても同じことよ。比較して、より手っ取り早く、成功率が上がりそうな手段を選んだだけ」
「上手くいかなくて残念だったな。もういいだろう。さっさとネイキスを返せ」
「いいわよ。何の取柄もない子供の相手をしていられるほど、王族は暇ではないもの。……ただし、条件がある」
ミランダが妖しく微笑んだ。
「あなた、私の妹のロレッタと結婚しなさい」
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