4話

「さて、と。そろそろ本題に入りましょうか。リューズナード・ハイジック、あなた、水の国アクアマリンへいらっしゃい。近衛兵として使ってあげる」


「断る」


「少しは考えなさいよ」


 近衛兵は、王族を守護する直属の戦力だ。他国との戦争が始まれば、雑兵を率いて最前線へ派遣されることもある。そんな重要な役職を、他国の出身者に割り当てるケースなど、この国ではほとんどない。


 ミランダにとって、彼はそれほど価値のある人材なのだろうか。


「考えるまでもないな。俺が魔法国家に加担するなんて、未来永劫あり得ない。どこの国にも、そう言っている」


「あなたが頷けば、あなたの大事な村の住人たちも王都へ迎えてあげるわよ? 今よりもずっと豊かな暮らしをさせてあげられるわ」


「必要ない。俺たちは自立した生活を送っている。魔法なんてなくても、な」


 リューズナードと呼ばれた青年が最後の一言を強調すると、ミランダは不快そうに眉を顰めた。


 人間は生まれつき、体内に魔力を生成・制御する器官を備えている。操れる魔力の総量には個人差があり、王族の血を引く者は遺伝的に魔力の総量が高い。その王族が治める国を魔法国家と呼ぶ。水魔法を操る王族が統べる国・水の国アクアマリンが属する大陸には、他にも複数の魔法国家があり、数十年に渡って領土を巡る戦争を繰り返してきた。


 教養の一環として教え込まれた知識を脳の奥から引っ張り出し、何とか話を理解しようと試みるロレッタ。それらによれば、各地の魔法国家は全て、魔力や魔法を制御できることを前提とした発展を遂げてきたはずだ。現代においては機械や乗り物、ライフラインなど、生活を支える多くの要素が魔力を原動力に作動している。国民全員が魔力を持っているのだから、当然の理のように思う。


 しかし、姉に真っ向から反発している彼は今、「魔法なんてなくても生活できている」と言わなかったか。魔法なしでどうやって生きているのだろう? どうして使わないのだろう? 考えるほど疑問符が増えていく。


「ふん。ヒビトの考えは理解に苦しむわね。まあ、ここであなたが頷かないのは想定内だわ」


「むしろ、こんな手段に出た時点で、俺が味方になる可能性は完全に消え失せている、ということくらい分からなかったか?」


「普通に交渉を迫ったところで、あなたは承諾しなかったでしょう? だったら、どんな手段を取っても同じことよ。比較して、より手っ取り早く、成功率が上がりそうな手段を選んだだけ」


「上手くいかなくて残念だったな。もういいだろう。さっさとネイキスを返せ」


「いいわよ。何の取柄もない子供の相手をしていられるほど、王族は暇ではないもの。……ただし、条件がある」


 ミランダが妖しく微笑んだ。


「あなた、私の妹のロレッタと結婚しなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る