92話
「こちらは……?」
「……お前の喜びそうな物が、分からなかった」
「……私に、ですか?」
贈り主がコクリと頷くので、恐る恐る両手で受け取った。草花たちの中には、やたらと飛び出している者もいれば、ほとんど埋もれて見えない者もいる。茎の長さがバラバラなのだろう。色彩のバランスも滅茶苦茶で、お世辞にも綺麗と言える見映えではない。
いつかのルワガを彷彿させるような、目の前の彼が作ったのだなと一目で分かる代物だった。
「あの、どうして、突然……」
「……他の奴らには気軽に話せることを、俺には一つも話さないから……俺のことが怖くて、言い出せないのかと、思って……」
「!」
ハッ、と顔を上げる。リューズナードはまた形容しづらい表情を浮かべていたが、それでも真っ直ぐロレッタを見ていた。
自分と同じように、彼も、話がしたい、と考えていてくれたのか。その上で、逃げ回っていた自分のほうが悪いのに、彼に謝らせてしまったのか。ロレッタは強い自己嫌悪で沈みそうになる。
ただ、沈むのは後でいい。今はこちらが意思を伝える番だ。
「……無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした。その……私とお話していると、リューズナードさんのご機嫌を損ねてしまっていることが多い気がして、つい、口を噤んでおりました」
「……? いつの話だ」
「え」
勇気を出して伝えたつもりだったが、あまりにも不思議そうな顔で返され、狼狽えてしまう。
「ええと……例えば、改築を終えたご自宅を見ていた時、『いちいち謝るな』と強い口調で仰っていたので、お気に障ってしまったのかと……」
直近での記憶を掘り起こして確認すると、リューズナードは少しだけ考えてから、やはり不思議そうな顔で答えた。
「あれは、すぐに謝ってくるのをやめてほしい、と頼んだだけだろ。怒ってはいない」
「え……!? た、頼んでいらしたのですか? ……大変失礼ですが、あの言い方で?」
「ああ」
さも当然のように首肯されて、言葉を失くす。ロレッタの中の常識では、あれはどう考えても人にものを頼む態度ではない。しかし、どうやら彼の中では勝手が違うようだ。
「もしかしますと、これまでも、同じように感じることがありましたか……?」
「……そうだな。責めてもいないのに謝ってこられると、何も言えなくなる。気に食わないのなら、その場で言い返せ。嵐の日には、言い返してきただろう」
「あ、あの時は、必死だったもので……。その節は、大変失礼な真似を……」
「いや。普段から、あれくらいでいい。そのほうが俺も話しやすい」
「いえ、常にあれほどの物言いをする胆力はありません……。それに、その……私はずっと、責められているものだと思っておりました」
「……は?」
リューズナードの眉間に皺が寄る。これまでであれば反射で謝罪の言葉を口にしていたかもしれないが、ロレッタは緊張しながらも自分の気持ちを話し続けた。
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