93話

「私は元々、王宮の中で、限られた上流階級の方々としか接触しない生活を送っておりました。その接触者の方々からも、常に下から、敬うように扱われてきたのです。……リューズナードさんのように、その、荒い口調でお話される方とは、お会いしたことがありません」


「……まあ、そうだろうな」


「はい。その為、ご機嫌を損ねている時と、そうでない時の区別が、なかなか付けられないのです……」


「…………そうか」


 ロレッタの培ってきた常識を、リューズナードは驚いた様子で聞いていた。そして、難しい顔で考えながら、ゆっくり答える。


「……俺は、平民の中でも特に、育ちの悪い部類なんだ。荒い口調……だったつもりはないが、下手したてに出ると舐められる、という意識は、確かにある。今さら変えられはしないが、怯えさせていたのなら……悪かった」


「……!」


 自分の視野の狭さに、嫌気が差してくる。


 生まれや育ちが違っていれば、身に付いた常識や考え方が違っているのなんて、当たり前だ。そして、自分と彼との生き方の違いを、ロレッタは知っていたはずなのに。彼の立場で考える、ということが全くできていなかった。想像したところで完全には分からないのかもしれないけれど、想像すること自体を放棄していたのだ。


(人の気持ちに寄り添うこともできないで、何が王族だと言うの……!)


 深々と頭を下げる。


「私のほうこそ、手前勝手にあなたのお気持ちを決め付けて、確認することを怠っておりました。大変失礼な行いであったと猛省しております。申し訳ありませんでした」


「??? 今度はなんの話だ。俺に分かるように言ってくれ」


「……リューズナードさんは、私のことを嫌っている為、常にご機嫌が悪いものだとばかり……」


「……嫌い?」


「私は魔法の使える人間で、ネイキス君を攫ってあなたを脅した姉の血縁者です。村の皆様にも、あなたにも、恨まれていて当然だと理解しております」


 自分の軽い頭を下げて済む問題ではないが、今のロレッタには、それしかできない。


 やや間が空いてから、小さく「頭を上げろ」という声が降ってくる。おずおずと視線を上げると、彼は呆れたように溜め息を吐いた。


「……俺に分かるように言え、と言ったはずだ」


「え……」


「血縁者だから、なんなんだ。お前と、お前の姉は、別の人間だろう。お前が魔法で誰かを傷付けようとしているところを、俺は見たことがない。もしも姉と同じ人種であったなら、とっくに斬り捨てていたところだ。……魔法国家の人間も、お前の姉も、心底嫌いだが…………お前のことは、別に、嫌ってはいない……」


「…………」

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