50話
門を潜り、村の外へ出たロレッタは、その場でピタリと足を止めた。リューズナードはどこへ歩いて行ったのだろう。目的地が分からない。
適当に進んで発見できる保証などないし、最悪、自分が迷子になる可能性だって十分にある。どうしたものかと考えていると、どこからか、ガッ、ガッ、ドオン! という重低音が響いてきた。明らかに自然発生する類の音ではない。確実に人がいる。
音のするほうへ恐る恐る向かってみたところ、その先にはリューズナードが一人で立っていた。両手には愛用している刀――ではなく、斧を持っている。重たそうな鉄製の斧を思い切りよく振りかぶった彼は、そのまま刃先を正面の大木の幹へ叩き付けた。ドオン! と大きな音が響き、大木の胴体が根元から切り離されてゆっくり倒れていく。
声をかけていいのかどうか判断に困り、距離を置いたまま眺めていると、突然、リューズナードが斧を持ったままぐるりと振り返った。刀を扱う時と同じような動作で機敏に斧を構え、刃先を真っ直ぐロレッタのほうへ向ける。もちろん届きはしないが、ロレッタの身を竦ませるには十分な迫力だった。
「……お前か。黙って背後に立つな」
「も、申し訳ありません……」
それなりの距離があったにも関わらず、どうやら彼は背後の気配を感じ取って得物を構えたらしい。危機管理能力も、反射速度も、並外れている。
「何をされていたのですか?」
「見れば分かるだろう。木を切っていた。……改築はともかく、家の補修をするなら資材が要る」
「なるほど……」
資材の加工は村の中でもできるが、原材料の調達は外でなければ満足にできない。他の住人たちが協力して行うのも不可能ではないだろうけれど、結局、リューズナードがやってしまうのが最も安全かつ効率的だ。しかし、外に出ないとできない作業を全て一人で行うというのは、彼の負担が大き過ぎるのではないだろうか。
手伝いたい気持ちは大いにあるものの、力仕事や体力仕事には自信がない。鍬の重量にすら負けるロレッタの腕力では、その倍近くの重量がある斧を真横に振り抜いたり、重い丸太を運搬したりするのは難しい。魔法を使えば可能になるかもしれないが、村の付近で乱用すると住人たちを怖がらせてしまう。無力な自分に落胆した。
「お前は、ここで何してる」
「あ……そうでした。私はリューズナードさんを探していたのです。マティ君たちから、あなたに渡したい物がある、と伝言を預かっています」
「渡したい物?」
「はい。昨日いっぱい遊んでくれたお礼、だそうです。遅い時間では直接渡せなくなってしまうので、可能であれば、明るいうちに一度、戻ってあげてはいただけませんか?」
「…………」
用件を伝えると、リューズナードはロレッタのほうを見たまま、難しい顔で黙り込んだ。なんだか最近、こんなことが多い気がする。
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