49話

 目の前の彼に聞けば、リューズナードのことをいくらか教えてもらえるかもしれない。そう考えて口を開こうとした矢先に、下から聞こえた幼い声がロレッタたちの会話を遮った。


「あれえ? ねえねえ、パパ」


「おお、どうした? 皆で遊んでたんじゃないの?」


 ウェルナーの足元に、ネイキスと変わらないくらいの歳の男の子が、ちょこんと立っている。ウェルナーの息子であるマティだ。


「リュー、行っちゃった?」


「ん? ああ、行っちゃったなあ。何か用事でもあったのか?」


「昨日いっぱい遊んでくれたから、お礼にコレ、皆で作ったんだ!」


 マティの手には、草花で作られた可愛らしい輪飾りが握られていた。緑の茎を編み込んで輪っか状にしてあり、隙間から様々な色の花が顔を出している。ところどころで編み目が解れているものの、しっかり形になっていて綺麗だ。


「渡したかったのに……。ねえ、リューいつ戻って来る?」


「いつ、だろうな……? この時間に出て行ったなら、日暮れまで戻らないかもな」


「ええ~! それじゃあ、僕たちはお家に帰っていなくちゃいけないじゃない! 渡せないよ!」


「俺に言われてもなあ……。明日じゃ駄目?」


「だめ! 今日!」


「ええ……」


 ぐずるマティをウェルナーが困った顔で見詰めている。


 どこの国でも、小型通信機のような物は流通されているが、この村では製造する技術や設備が揃わない。外との貿易も難しいので、取り寄せることもできないだろう。近代的な文明に対する知識や見識はあっても、再現できる環境が整わない為に妥協せざるを得ない、ということが、ここでは多々ある。ライフラインなどはその最たるものだが、連絡手段もその一つだ。


 少しでも力になれれば、とロレッタは二人に声をかけた。


「ウェルナーさん、マティ君。よろしければ、私がリューズナードさんに声をかけてきましょうか?」


「え! ロレッタお姉ちゃん、いいの!?」


「はい、もちろんです」


「大丈夫? 外は危ないよ?」


「大丈夫です。私は身を守る手段がありますから」


「う~ん、それを言われるとなあ……。いやでも、魔法が使えたって、危ないものは危ないんだから気を付けてね。何かあったら、魔法を空に打ち上げるとかすれば、リューが気付いて、すっ飛んで来ると思うよ」


「は、はい……そうですね」


 以前、意図せずそれに近いことをしてしまい、「次は斬り掛かる」と告げられたことを思い出す。鋭く光る刀身の輝きが脳裏を過り、その手段だけは取らないようにしようと胸に刻んで、ロレッタは村の外へ向かった。

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