48話
遠ざかる背中を眺めておろおろしていると、盛り上がる輪の中から男性が一人、こっそり抜けて声をかけてきた。
「ロレッタちゃん、ロレッタちゃん!」
「あ……ウェルナーさん」
人好きのする笑顔で穏やかに話す彼は、嵐があった際に水門を閉めに来ていた内の一人だ。年の頃はリューズナードと同じか、少し上くらいに見える。どのみち、ロレッタからすれば年上の存在には違いない。この村に来てから結婚し、子供も授かって幸せに暮らしていると聞く。
「へへへ、ありがとうね」
「……ええと?」
「リューの奴、誰よりも働くくせに自分は全然贅沢したがらないから、どうにかできないかな、って皆で手焼いてたの。せめて家ではゆっくり寛ぐくらいしてほしかったんだけど、何言ってもあいつ『要らない』の一点張りだったんだ。でも、君のお陰でようやく手出しができるようになった。俺、リューとは結構付き合い長いけど、あいつが折れるところなんて初めて見たよ。だから、ありがとう」
ウェルナーが心底嬉しそうに笑った。住人たちも、やたらと押しが強い気はしていたが、他でもないリューズナードの為でもあるからだったのか、と納得する。
「そうだったのですか……。けれど、リューズナードさんのご機嫌を損ねてしまったのでは……?」
「ん? 怒ってはいないでしょ。どうしていいのか分かんないだけだよ。あいつ、人に寄り掛かるのも、肩の力抜くのも、下手くそだから。でも、『自分の為』って理由だと頑なに頷かなかったあいつが、『ロレッタちゃんの為』って理由ならちゃんと考えようとしてたの、すげえ良い兆候だと思うんだ。面倒な男だけど、愛想尽かさないでやってね」
「は、はい……」
どう返すべきなのか判断できず、ロレッタは曖昧に頷いた。
解釈を間違えてはいけない。今回はたまたま「ロレッタの為」だっただけであって、本質的には「自分以外の誰かの為」だから、リューズナードは折れたのだ。対象が別の人物だったとしても、同じやり取りは起きていたはず。もしかしたら、思うほど嫌われているわけではないのでは……なんて、都合の良い喜び方をするべきではない。
はしたない自分を戒めつつ、ロレッタはウェルナーへ別の質問を投げかけた。
「ウェルナーさんは、リューズナードさんのことをよくご存知なのですね。それほど、古くからのお知り合いなのですか?」
「あれ、話したことなかったっけ? 俺、
「まあ、そうだったのですか」
住人たちとはたくさん言葉を交わしてきたつもりだったが、この話は初耳だった。まだまだ知らないことが溢れているのだなと痛感する。と言うより、ロレッタはリューズナードのことをほとんど何も知らない。
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