43話

 それまでそっぽを向いていたリューズナードが、ふとロレッタへ視線を戻した。


「そう言えば、訊きたいことがある」


「はい、なんでしょう?」


「その……この家の掃除をしたのは、お前か?」


「え」


「……俺は基本、暗い時間帯にしか家に戻らないから、よく見えていなかったんだが…………さっき、辺りを見回して、やたらと綺麗になっているな、と、思って……」


 言いづらそうに口を開くものだから、何事かと身構えてしまったが、そんなことか。思わず拍子抜けしてしまう。


 一度やり始めて以降、ロレッタはこの家の掃除を習慣化して行っていた。私物の詰まった水瓶の中身は、さすがに勝手に触るのは気が引けたのでそのままだが、目に見える範囲は清潔に保てるよう心掛けている。


「置いていただいている身ですので、少しでもお役に立てることがあれば、と思ったのですが……お邪魔でしたか?」


「……いや、………………助、かる」


 たっぷりと間を空けてから出された許可に、ロレッタは目を輝かせた。


「! それでは、これからもぜひ続けさせてください。……あの、お食事のご用意は、余計でしたか?」


「……金を払えばいつでも好きなものが食える王都と違って、ここでの食料は貴重だ。限られたものを、わざわざ俺に割く必要はない。食える時に自分で食って、栄養を摂れ。足りていないから、熱なんて出すんだろう」


「あ……はい、仰る通りですね……。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません……」


 そう言えば、昨夜はリューズナードのほうが長時間、嵐の中で動き回っていたはずなのに、目の前の彼に調子を崩しているような素振りは一切ない。サラが、リューは丈夫だ、と言っていたが、過信でも冗談でもなく本当に丈夫だったのだな、と納得してしまう。


 しゅん……と肩を落として反省していると、リューズナードが居心地悪そうに身じろぎした。


「…………美味そうではあった、から……出されたら、次は食う」


「……! 本当ですか?」


「こんな嘘をついて何になる。……ひとまず、体調は問題なさそうだな」


 今度こそ、身を乗り出しそうな勢いで喜んだロレッタを躱し、リューズナードが立ち上がって玄関のほうへ歩き出す。

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