24話

 ミランダとリューズナードが、なんの話をしていたのか、まるで分からなかった。そして、分からないのだから、自分が知る必要はないことなのだと決め付けた。無知で世間知らずの自覚はあったものの、それに罪の意識を抱いたことがなかったのだ。


 知っていたら、ミランダの横暴を止められた可能性はある。もっと穏便な別の手段を提案することが、できたかもしれない。国王たる父が病床に伏せている今、それができたのは自分だけだったのに。


 姉の行いが罪なのだとしたら、止めずに見過ごした自分も立派な共犯者だ。ネイキスとサラの涙の原因も、リューズナードの人生の一部が狂ってしまった原因も、その一端は自分にあることを深く刻まなければならない。


「……頭を、上げて」


 静かな声でサラが言った。恐る恐る従うと、彼女は泣いているような、微かに笑っているような、不思議な表情でロレッタを見ていた。


「王族が頭を下げているところなんて、初めて見たわ。それも、こんな……魔法も使えないような非人相手に」


「そのようなことを、仰らないで下さい! 魔法の有無など関係ありません。私も、あなたも、対等な一人の人間です!」


 反射的に叫んでしまったその言葉に、今度こそサラの瞳から涙が零れた。


「人間……そう、だったのね…………私たち、ちゃんと人間なのね……」


「っ……! はい、もちろんです……!」


 一体どれだけの傷を受ければ、そんな言葉が出るようになるのか。想像するだけで身の引き裂かれるような思いがする。


 膨大な魔力を宿して生まれたロレッタに、本当の意味でこの村の人々の心に寄り添うことは、できないのかもしれない。けれど、せめて、自分がこの村の人々の平穏を願っていることだけは、伝わってほしいと思った。

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