25話

 サラが涙を拭い、小さく息を吐く。


「……取り乱して、ごめんなさい。それから、話してくれてありがとう。聞けて良かったわ。リューに聞いても、きっと気を遣って話さなかっただろうから」


「お優しい方、なのですね」


「そうね。少し言葉が足りないところはあるけれど、悪い子じゃないのよ。……だから、あの子と結婚することを、『姓を剥奪された』なんて言い方するのは、やめてあげてくれる? 王族の生活に未練があるのは仕方がないとしても、さすがにあの子が可哀そうだわ」


「! そ、そうですね、配慮が足りませんでした。以後、気を付けます……」


 元の暮らしに未練があるわけではないし、リューズナードとの婚姻によって姓が変わったことも事実だ。しかし、それらは彼が望んで行ったことではない。自分だけが被害者かのような捉え方をしてしまっていたことに、ロレッタはようやく気が付いた。


 自身の浅慮を猛省するロレッタを見て、サラが優しい笑みを浮かべる。


「あなたも、悪い子じゃなさそうね。……私も後で、リューと話しをしてみるわ。たくさん迷惑をかけてしまったから、ちゃんと謝らないと。でも、さっきの話だと、ひとまずロレッタちゃんがこの村で生活すること以外に、大きな変化は要求されていないのよね? 元々、私たちは静かに暮らしていたいだけで、魔法国家へ攻撃する意思なんてないし、リューが戦争へ駆り出されるようなこともなさそうだし」


「……はい、その通りです」


 言われてみると確かに、ミランダはリューズナードを戦力として欲しがっているような口振りだったが、用意されていた契約書には徴兵に関する項目がなかった。あの場の状況であれば、無理やりにでも兵役を義務付けることだってできたはずなのに。恐らく彼女なりの考えの下でその判断をしたのだろうけれど、それをロレッタに推し測ることはできない。ここでもまた、知識や知恵の不足が枷となっている。


「それなら、今ここで、これ以上話し合うのは、やめましょうか。何もできることはないのだから、私たちはこれまで通りの生活を守るだけ。子供たちにも改めて注意して、私も怪我なんてしないように気を付けます」


 軽い口調で言ってはいるが、やはり責任は感じているように見える。しかし、本人がこれ以上は話さないと言っているのだから、追及しないほうが良いのだろう。ロレッタは口を噤み、代わりに別の気掛かりについて尋ねてみることにした。


「あの、差し支えなければ、で良いのですが、その足の怪我はどうされたのですか?」


 ネイキスが一人で外へ出たのはルワガの花を採集する為で、その行動の理由は怪我をした母親を元気付ける為だった。怪我自体はそれほど重症ではないようだが、それならば尚更、元気をなくした原因は一体どこにあったのだろうか。


 サラの表情が曇る。

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