26話
「……雷が、鳴ったから」
「雷?」
ロレッタが聞き返すと、サラは暗い表情のまま、ゆっくりと自身の右足を撫でた。
「最近、この辺りでは天気の悪い日が増えていてね。一週間くらい前に、近くで落雷があったのよ。村に落ちたわけではないのだけど、大きな音に驚いて、手にしていた農具を落としてしまったの。それを足にぶつけて、この有様よ」
「……雷が、苦手なのですか?」
「……私たち親子は、二年前まで
そして、産まれた子供が二人とも魔法の使えない体質だと分かった途端に、とうとう暴力を振るわれるようになったの。役立たずだと罵られて、魔法で体を焼かれて。年老いた手から放たれる雷属性の黄色い魔力の光と、激しい雷撃の音が、毎日怖くて仕方がなかったわ。自分だけならまだしも、いつか子供たちにまで手を上げられるんじゃないかと思ったら耐えられなくなって、死に物狂いで逃げ出して……そうして、この村にたどり着いたの。
当時の傷はもう癒えているけれど、近くで聞こえた雷の音と、足に走った痛みで、あの頃のことを思い出してしまって、ずいぶん暗い顔をしていたみたい。子供たちにまで心配をかけるなんて、情けないわね」
そう言って力なく笑う彼女にかける言葉を、ロレッタは持っていなかった。励ましも、同情も、共感も、全てがどこか違う気がした。
例えば腕力で押さえ付けられたのなら、まだ抵抗の余地があったかもしれない。しかし、魔法という超常現象を振りかざされたのでは、同じ力を使えない人間に抵抗することなど、できはしない。幼い頃から恐怖を植え付けられ、結婚してようやく人並みの幸せを掴んだと思った矢先に、その仕打ち。どれだけ深く傷付いたことだろう。
「……ねえ、ロレッタちゃん。私にあなたを責める気持ちはないのだけど、もしもあなたが自分の無知を悔いているのなら、知ってくれると嬉しい。世界には魔法の使えない人間もいて、でも、その人間だって、同じ世界で精一杯生きているのだということを。……あなたはいつか、国に戻る日が来るのかもしれない。けれど、国を統治する王族の中に一人でも、私たちの気持ちを理解できる人がいてくれたら、それだけでも私たちは救われるわ」
いつの間にか溢れていた涙を拭いながら、ロレッタは何度も頷いた。
「はい、必ず……私が、皆様の御心を、国へ届けることをお約束します……! ですので、どうか……私に、魔法を使わない生活を、教えてください……っ!」
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