27話
それからロレッタは、半日かけて村の生活様式を教わった。この村では、生活に必要な物品の生産を各家庭で分担し、互いに分け与えながら日々を過ごしているらしい。
水田で穀類を育てる者もいれば、畑で野菜を栽培している者もいるし、衣類や布地の加工を行う者に、紙や炭、筆といった道具を製造している者、子供たちに勉強を教える者もいる。数日に一度、住民全員で炊き出しを催すこともあるそうだ。皆が顔見知りということもあり、生活の中に金銭のやり取りは発生しない。
サラたちの家では、家屋の正面にある畑で野菜の栽培に勤しんでいる。しかし、足を怪我してからというもの、思うように農作業ができなくなって困っていたらしい。その為、ロレッタはしばらくの間、サラたちの家の農作業を手伝わせてもらうことにした。
王宮育ちのロレッタは、もちろん農具を扱った経験など持ち合わせていない。鍬を振りかぶればバランスを崩して転倒し、鎌で草刈りをすれば自分の指まで切り付けそうになった。近くで作業している住人も、まだ幼いネイキスたちでさえも心配で声をかけてくる有様。しかし、ロレッタはめげずに作業へ打ち込んだ。
そうして日が沈むまで働き、そのまま夕飯も馳走になった。質素だが賑やかな食卓に、心がじんわりと温かくなる。また明日、と明るい別れの言葉を残して帰路についた。
慣れない全身運動による疲労は凄まじいもので、家に着く頃には腕も足も、まともに言うことを聞かなくなっていた。よくここまで歩いてこられたものだと、珍しく自分を褒めてやりたい気持ちにさえなる。明かりの一つもない部屋で、ロレッタはふらりと寝床へ倒れこみ、気絶するように眠りに落ちた。
目が覚めると、辺りは薄暗かった。まだ夜中なのかとも思ったが、どうやら天気が崩れているだけで、時間帯は朝のようだ。軽く背伸びをした途端、体のあちらこちらから悲鳴が上がって驚いた。しっかり筋肉痛になってしまっている。
なんとか体を起こして室内を見回すも、やはり家主の姿はない。使い方の分からない道具たちが、静かに鎮座しているだけだ。昨日と同じ要領で身支度を整えたロレッタは、いそいそとサラたちの家へ出掛けた。
朝から畑に水と肥料を撒き、雑草を刈り取っていると、あっという間に昼時になる。その日は、サラが用意してくれた大量の握り飯を囲いながら、近隣住民の皆と一緒に食事を摂った。作業の進捗から家庭の愚痴まで、住人たちの楽し気な会話は途切れることがない。知らない世界の物語を読み聞かせてもらっているような気持ちで相槌を打つ。
せっかくなので、ロレッタも気になることをいくつか質問してみた。まずは、明かりの点け方や流し台の使い方について。この二つはどこの家庭にも似た設備があるようで、聞いたそばから実物を持ってきて、使い方を実演してくれた。
それから、もう一つ。リューズナードの自宅には、風呂場が見当たらなかった。水資源の豊富な
「そう言えばアイツの家、風呂無かったな……。本人は『川や井戸で水を被れば十分』とか言っていたが……」
「そんな家で女の子が暮らせるわけがないじゃない!」
「結婚祝いってことで、アイツの家、改築しに行くか?」
「いいな、それ! 近いうちにやろうぜ!」
盛り上がる住人たちを見て、ロレッタは心の中でリューズナードに謝罪する。もしかしたら、余計なことを言ってしまったのかもしれない。彼の自宅は無事で済むのだろうか。
ひとまず、当面の間、ロレッタの食事や入浴はサラの家で面倒をみてもらえることになった。
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