第13章 番外編
「……こいつのプロポーズ、重っ……ビビるわ……。やり方知らないにも程があるだろ……」
人だかりの後方からリューズナードの公開プロポーズを眺めていたウェルナーは、率直な感想が漏れていたことに気付き、慌てて自分の口を塞いだ。設定上、彼はすでに結婚していたのだから、やり方を知らないわけがない。
この設定が偽りのものであったことに、果たして自分以外の何人が勘付いたのだろう。個人的な所感では、ほとんどの人間が純粋に信じていそうな気がした。ともあれ、本人が公に説明しないでいるのなら、勝手に広めてしまうのも避けたほうが良さそうである。幸い周囲は盛り上がっている渦中なので、こんな独り言など聞き取れはしなかったはずだ。
そう思って小さく息を吐いた、その時。
「ううん……まあ、ロレッタちゃんが嬉しそうだから、良いんじゃないかしら……」
「!?」
隣から、先ほどの独り言への返事と取れる言葉が聞こえて、思わず肩が跳ね上がる。振り向けば、自分と同じくやや引き攣った笑顔で輪の中心を眺めるサラが居た。いつも横にくっ付いている子供たちは、今は輪の最前列で主役の二人を囃し立てているようだ。
小声で恐る恐る、発言の真意を尋ねてみる。
「えーっと…………サラさん、もしかして二人の事情、知ってる感じ……?」
「……その様子だと、あなたも知っているみたいね。私は、ロレッタちゃんに聞いたの。わざわざ自分から話しに来て、申し訳ありません、と謝られたわ。何も悪くなんてないのにね」
「そっかぁ……。俺は、リューの奴が魔法を使える人と結婚なんて絶対嘘だろ、って思ってさ。尋問して吐かせちゃった。ロレッタちゃんには悪いことしたわ」
「そうだったの」
なるほどね、とウェルナーは納得する。ロレッタの性格を考えれば、あり得そうなことだ。それぞれサラを思い遣った結果、リューズナードは「喋らない」という行動を選び、ロレッタは「正直に打ち明ける」という行動を選んだのか。やりたいことは同じなのに、考え方がまるで違っていて面白い。ロレッタが一人で国へ帰ろうとしていた背景にも、似たようなすれ違いがあったのでは……と、今になって思う。
「一応言っておくけど、責任を感じる必要はないと思うよ。ネイキスは被害者だ。もちろん、勝手に村の外へ出たのは、良くないことなんだけど。誘拐やら契約やらは、
「ふふふ、ありがとう。さっきリューが言っていた『
「そうだね。村を盾に脅されたことを喋らなかったあいつが、今回は正直に打ち明けてくれたんだから、なんか良い感じに収まったんじゃない? 今となっては、結婚自体も嘘じゃなくなったっぽいし。後ろめたいこと、もうなくなったのかな」
「そうだと良いわね。まあ、リューがロレッタちゃんを好きなのは、誰が見ても明らかだったもの。こうなるのも時間の問題だったのではないかしら」
「ほんと、それ!」
思わず食い気味に返してしまった。そう思っていたのが自分だけじゃないと分かり、心底安心する。
元々とても分かりやすい年下の友人が、いつの頃からか、ロレッタに対して他の仲間たちに対するものとは違う反応を見せるようになっていた。気付いていないのなんて、きっと本人だけだ。
「頼みごとされたら断れないし、手握られて真っ赤になるし、外でロレッタちゃん見かけると目で追ってるし。完全に、恋した男の反応してたもんな、あいつ。微笑ましすぎて笑っちゃったよ。なのに、ロレッタちゃんが『私は嫌われている』なんて言い出すから、何故か俺が焦ってリューのこと引っ叩いちゃった。何やらかしたのかと……」
「そうそう。ロレッタちゃんが
「そうなの!? 居なくなると淋しいとか、めちゃくちゃ好きじゃん……。魔法も王族も大嫌いなあいつに、そんなこと思わせるロレッタちゃん、すげー……」
「ふふふ。きっかけはどうあれ、良い出会いだったのではないかしら」
「……うん、俺もそう思う。
「落ちていたの?」
「落ちてたね、あれは」
全身ボロボロになりながら、妹を庇うようにして行き倒れていたリューズナード。祖国では笑顔なんて一度も見せたことのなかった彼が、今、たった一人の女性を大切そうに抱き締めて、微かに笑っている。あの笑い方は、きっと自分や仲間たちでは引き出せないものだった。
「ここへ来てくれたのがロレッタちゃんで、本当に良かった」
飽きることなく賑やかに盛り上がる皆を見て、ウェルナーもまた、嬉しそうに笑った。
第13章 番外編 終
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