エピローグ①

 輪の中心に居たロレッタとリューズナードよりも、周りの住人たちのボルテージが上がり、その日はそのまま「二人の仲直り記念」と称した宴会が始まった。宴会と言っても、やれることは限られている為、内容は普段の炊き出しと変わらない。皆で賑やかに食べて、騒ぐだけだ。


 娯楽の少ない環境だからこそ、こうして誰かの小さな幸せを大袈裟に分かち合いながら生活している。この温かさが好きだ。心からそう思う。


 やがてどっぷり日が暮れ、子供たちが眠気を訴え始めたことにより、宴会は幕を閉じた。それぞれロレッタは片付けを手伝うと提案し、リューズナードはいつも通り周辺の見回りに行こうとしたが、どちらも住人たちに引き留められる。長旅で疲れているだろうし、怪我もしているのだから早く休め、と自宅への直帰を言い渡された。これだけ騒いだ後に言うことか、とリューズナードは抵抗していたものの、聞き入れてはもらえなかったようだ。


 輪の中から摘まみ出され、ようやく観念したらしい。リューズナードがロレッタを見て言う。


「……帰るか」


「! は、はい……」


 ロレッタの心臓がドキリと脈打つ。一緒に自宅へ帰るだなんて、初めてのことではないだろうか。スタスタ歩き出した彼の背中を、慌てて追いかける。住人たちが居る手前、手を繋ぐのは躊躇われたが、隣に並ぶとそれだけでなんだか心がポカポカした。




 特に会話もないまま、リューズナードの自宅に着いた。家主が先に中へ入り、ロレッタもすぐ後に続く。


 建付けの良くなった扉を閉めた時、リューズナードがくるりと振り向いた。


「……おかえり、ロレッタ」


 彼自身も、あまり口慣れしていなさそうな言葉。少したどたどしい発音のそれが、ロレッタの体に優しく溶け込んでいく。


 この家は、紛れもなくリューズナードの自宅である。成り行きでここに住むことになったロレッタとしては、「人様の家に置いてもらっている」という意識が強い。言ったことはないけれど、帰宅時の挨拶は「お邪魔します」が適当だと思っていた。


 しかし、この村の一員になった上で彼に迎え入れてもらえたのだから、もうその限りではない。これからは、ここがロレッタの自宅にもなるのだ。


「……ただいま、戻りました……」


 彼に劣らずたどたどしい発音になってしまったが、リューズナードは満足気な顔をしていた。


 それ以上、何を言えば良いのか分からずに視線を下げる。すると、土間の隅に彼が作ってくれた花束が置いてあるのが見えた。ロレッタが村を出る前に置いた状態そのままで残っている。


 持ち上げてみると、草花たちはほとんどが萎びてしまっていた。根から切り離され、養分を摂取できない状態で放置されていたのだから、仕方がない。分かってはいるが、悲しい気持ちになってしまう。せっかく、リューズナードがくれた物だったのに。

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