エピローグ②
「……それ、そんなに気に入ったのか?」
「はい……。頂いた時、心の底から嬉しかったのです。それなのに、大切にできなくて、申し訳ありません……」
「俺に謝る必要はないが……。王宮には、もっと立派な生け花やら造花やらが、いくらでもあったはずだろう。連絡手段ができたんだ、言えば好きなだけ送ってもらえるんじゃないか?」
「いいえ、私は、こちらが良かったのです……」
「…………」
彼が黙ってしまった。困らせている。逆の立場なら、自分だってこんなことを言われても対応に困る。どうにもならないことでぐずるなんて、小さな子供じゃあるまいし。
帰って早々、呆れられたかもしれない。そもそも、疲れているだろう彼に、こんな面倒な問答をさせるべきではないのだ。悲しみよりも申し訳なさが勝ってきた、その時。
それこそ小さな子供でもあやすかのように、ぽんぽんと頭を撫で付けられた。
「あ、あの……?」
「悪い。お前がそんな態度を取るなんて、珍しいと思って。他の奴らに同じことをしているのも、俺は見た記憶がない」
「申し訳ありません、はしたない真似を……」
「いいや。不思議と、気分が良い」
「え……」
「何も話さないでいるより、ずっと良い」
そう言えば、この花束をくれたのも、ロレッタの口を噤んでしまいがちな態度を嫌がってのことだった気がする。よほど不快な思いをさせていたのだろうか。また申し訳なさが募る。ただ、彼の声は言葉の通り上機嫌そうだ。
「生憎、こんな環境だからな。王宮のような贅沢な暮らしなんてさせてやれないが、そんな物で良いなら、また用意する」
「! ……本当ですか……?」
「……俺が作るのでは、粗末な出来にしかならないが」
「いいえ! お手数をおかけして申し訳ありませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
嬉しい言質が取れた。喜びのままに見上げれば、リューズナードが少したじろぐ。住人たちの圧に押し負けている姿はたまに見かけるが、ロレッタ相手にこんな反応をするのは珍しい。まだまだ互いに、知らない顔がたくさんある。
これから、時間をかけて一つずつ、知っていけたら良いなと思う。
「それで、どれが良かったんだ?」
「……ええと……どれ、と言うのは……?」
「俺には、お前の喜ぶ物が分からない。だから教えてほしい。好きな花が入っていたから、気に入ったんだろう? どれだ?」
「いえ、特に、そういうわけでは……。どれも、綺麗だとは思いますけれど……」
「??? それなら、何がそんなに良かったんだ」
「……リューズナードさんが作ってくださった物だから、嬉しかったのです」
「誰が作っても同じだろう。分かるように言ってくれ」
「こ、これ以上分かりやすく、ですか……!?」
通じ合うまでの道のりは、果てしなく遠いようである。
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