60話
更に深い思考の海へ沈みそうになって、しかしそこで、はたと気付く。違う。そもそも自分は、この質問で迷ってはいけなかった。だって、結婚しているのだから。即答できなければおかしい。
いつの間にか下がってしまっていた視線を戻すと、ウェルナーが優しく笑ってこちらを見ていた。
「君は嘘をついたり、隠し事をしたりするのに向いてないね。とっても素直な良い子だ。……結婚の話、やっぱり嘘だろ?」
「……!」
やっぱり、ということは、以前から何か思うところがあったのだろう。リューズナードには大々的に説明する気はなさそうだったので、ロレッタもサラ以外の住人には話していない。言い当てられたのは初めてだった。
「……あの、どうしてそう思うのですか」
「ん? あいつが他所の国の女性と知り合いだった、っていうのがもう嘘っぽいし、それに結婚を考えるにしても、わざわざ魔法が使える人を選んで連れて来るとは、どうしても思えなくてさ。ロレッタちゃんのことは好きだし、人間性も信用してるよ? でも、結婚の話だけは最初から、一ミリも信じてなかったよ、俺は」
「…………」
「リューにも直接、聞いたことがあるんだ。口は割らなかったけど、あいつが喋らない、ってことは、何か事情があるんだろうなと思った。あいつも、君とはまた違う方向性で分かりやすいからね。お兄さんは君たちが心配だよ」
「……そう、でしたか」
これはもう、今さら取り繕っても無駄だ。やはりウェルナーは、リューズナードのことをよく知っている。だからこそ、曖昧に流されてはくれない。
「で、嘘をつこうとする悪い子に話せることは何もないわけなんだけど……教えてもらえるかな。君は一体、誰なんだろう? どうして、リューのことを聞きたいの?」
笑顔も口調も柔らかいのに、リューズナードとは別の種類の威圧感がある。怯みそうになる自分を、ロレッタはなんとか奮い立たせた。
彼は決して、敵ではないのだ。自分がこの村やリューズナードにとっての敵にならない限り、彼もまた、自分の敵にはならない。味方として、仲間として信用してもらう為に、まずは自分のことを知ってもらおうと決心する。
「私は……」
「うん」
「……私は、
「…………うん? 王女……?」
笑顔を引き攣らせるウェルナーに、ロレッタは自分がこの村へ来た経緯を話した。
「――……いやいや、ちょっと待ってよ。情報量が多い……」
それが、話を聞き終えた彼の第一声だった。至極真っ当な反応なのだと思う。
「あー……でも、そっか。それなら、リューも話さねえよな。サラさん、気にしそうだもんな。ロレッタちゃんも、村に来た時すごい綺麗なドレス着てたし、話し方とか振る舞いとか上品だし、良いところのお嬢様なんだろうなとは思ってたけど、王族はさすがに予想外だったわ…………そっかあ……」
口に出すことで整理しようとしているのだろうか。普段よりも少し早口になっているウェルナーを、ロレッタは真剣に見詰める。
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