第2章 名前のない村

9話

 改めて考えてみても、ミランダの横暴にはぞっとする。全て自分と血の繋がった姉の振る舞いなのだと思うと、ロレッタは罪悪感で押し潰されそうな心地になった。政治の話は分からないけれど、民を導く立場であるはずの王族がするべき行いでなかったことだけは分かる。リューズナードも、彼の仲間たちも、大切な民なのだから。


「寝具は夜までにどうにかする。外を出歩くのは勝手だが、くれぐれも村の奴らに下手なことはしてくれるなよ」


「もちろんです。……あの、私はこれまで王宮からほとんど出た経験がなく、世間知らずな自覚があります。大変申し訳ありませんが、この村……ええと、“ヒビトの村”でよろしいのでしょうか? 村のことも存じ上げないので、教えていただけると――」


 恐る恐る提言を試みると、途中でリューズナードの表情が険しくなった。王宮で見たような、敵意だけを前面に押し出したような顔。思わず言葉に詰まる。


「その名で呼ぶな、と言っている」


「も、申し訳ありません! 姉が、そう呼んでいた気がして……。この呼び方は、正式な名称ではないのですか?」


 慌てて頭を下げたロレッタに、リューズナードが訝し気な視線を向けてくる。


「……お前、言葉の意味を知らずに言ったのか?」


「申し訳ありません……。……言葉の、意味……?」


 何が彼の機嫌を損ねたのか分からず、ただ頭を下げることしかできない。これ以上の失言を重ねたら、王宮で姉や兵士へ向けられていた刀の切っ先が、容赦なくこちらへ向けられるのだろうか。想像しただけで足が震える。


「ハッ! 下々の暮らしなんて、視界の端にも映らないか。さすがは王族、大層な身分だ」


 リューズナードが鼻で笑う。ロレッタを小馬鹿にしているようで、その実、「下々」に含まれるだろう自身を自虐しているようにも聞こえる、不思議な響きだった。

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