第4章 嵐の夜

31話

 その日は、朝から雨が降っていた。


 明け方から降り続けていた雨脚が、時間経過と共に勢いを増していく。村には動物の毛皮で作った外套が普及している為、多少の雨ならば外での作業も続行可能だ。しかし、昼過ぎには雨に加えて激しい風まで吹き荒れ始め、住人たちもいよいよ作業を断念した。


 ロレッタも数刻前にサラたちの家へ避難させてもらい、借りたタオルで髪の水滴を拭いながら、ぼんやりと窓の外を眺めている。


「今日はもう、畑仕事は無理そうね。ロレッタちゃん、どうする? 帰るのが難しいようなら、このまま泊まっていっても構わないけれど」


「ロレッタお姉ちゃん、泊まるの!?」


「れーたん、おとまり!」


 嵐など意にも介さず、キラキラした瞳ではしゃぐ子供たちが微笑ましい。言葉に甘えて厄介になり、疲れ果てて寝落ちてしまうまで一緒に遊び倒すのも魅力的に思える。しかし、ロレッタは首を横に振った。


「ありがたいご提案ですが、遠慮させていただきます。リューズナードさんになんの断りもなく外泊するのは、気が引けますから」


「あの子だって、この状況で文句を言ったりはしないと思うけれど……。言ったら私が叱り付けるから大丈夫よ」


「ありがとうございます。ですが、これでも一応、監視されている身ですので……」


 村に来て最初の日に、リューズナードはロレッタのことを、責任を持って監視しておく、と言っていた。彼の中で、ロレッタはまだ「村の仲間」ではなく「魔法国家から押し付けられた監視対象」なのだろう。関係性が築けていない今、余計な心労を増やすようなことはしたくない。


「ううん……ロレッタちゃんがそうしたいのなら……でも、何かあったらいつでも言ってね。ちゃんと戸締りもするのよ」


「戸締りをしたら、リューズナードさんが締め出されてしまうのでは……」


「リューは丈夫だから平気よ。自分のことを一番に考えなさい」


「ふふふ、ありがとうございます」


「ロレッタお姉ちゃん、帰っちゃうの……?」


「れーたん、ばいばい?」


「はい、今日はこれで失礼します。明日晴れていたら、たくさん遊びましょうね」


 名残惜しそうに見上げてくるネイキスとユリィに後ろ髪を引かれたものの、いつも通り笑顔で別れの挨拶をする。それから湿った外套をしっかりと被り直したロレッタは、吹き荒ぶ風雨の中を一目散に駆け出した。

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