114話
「団長、加勢しますか?」
「必要ない。数の優位が、そのまま戦力の優位になるわけではないことは、見ていて分かっただろう。お前たちは確実にロレッタ様をお守りしろ」
「はい!」
ここが開けた屋外であれば、アドルフを囮にロレッタを遠くへ避難させる、といった作戦行動も取れたはずだ。しかし、この建物で唯一の出入口はリューズナードの後方にある。みすみす逃がしてやるつもりはない。
残りの兵士もまとめてかかってきてくれたほうが楽だったが、一対一で挑んでくるつもりなら、それでも別に構わない。団長、と呼ばれているあたり、他の兵士よりは多少腕が立つのだろう。負ける気など全くしないけれど。それに、
(俺のほうが、強い)
ロレッタの前で、他の男に負けたくない。
全ての住人に対して敬称を付け、過剰なほど丁寧な口調で話す彼女が、目の前の男に対しては少しだけ、ぞんざいな話し方をしていた。家臣なのだから当たり前だったのかもしれないが、なんだか親しげに接しているようにも見えて、あまり良い気はしなかった。そんな男になんて、絶対に負けない。どの戦場でも感じたことのなかった意地のようなものが、刀を握る手に力を込めさせる。
真っ直ぐリューズナードの心臓を捉えていた槍の穂先が、強く光り輝いた。そのまま、その場でアドルフが袈裟斬りするように槍を振り下ろすと、斬撃の圧が魔力を帯びて形を成し、リューズナード目掛けて飛来する。先ほどの兵士たちが使っていた衝撃波よりも数段、速い。
だが、目で追えない速度ではない。しっかり捉え、横に跳ねて躱した。青い斬撃は軌道上の終点である壁に激突し、分厚い特殊素材をバラバラに粉砕する。あんなものを生身で受ければ、一溜りもない。生かして捕らえる気も、話を聞く気も、完全に失くしたようだ。
息つく暇もなく、次々と斬撃が放たれる。縦に、横に、斜めに、十字に、様々な向きや角度で襲い来るそれらを、負けじと縦横無尽に跳ね回りながら躱した。もちろん、後ろへは下がらない。少しずつ、しかし確実に、ジリジリと間合いを詰めていく。
やがて、アドルフとの距離が十メートルを切ったところで、リューズナードは一層力強く床を蹴り、一気に懐へ飛び込んだ。左から右へ、水平に刀を振り抜く構えを取る。
すると、それまで大きく槍を振るっていたアドルフの動きが一瞬だけ止まり、すぐさま穂を突き刺す動きに変わった。顔面に向かって迫り来る凶器へ、自ら突っ込んで行くかのような動勢になる。
瞬時に首を傾けて凶器から逃れた。しかし、重心が流れたことで力を入れ損ない、攻撃の体勢が崩れる。一度踏みとどまってから、上段の構えで素早く刀を振り下ろしたものの、難なく受け止められてしまった。
リューズナードが刀を振るえば、アドルフがそれを槍で跳ね除け、アドルフが槍を突き刺せば、リューズナードがそれを刀で受け流す。ガキン! ガキン! と、激しい轟音を修練場いっぱいに響かせながら、一進一退の攻防が続いた。
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