113話
重心を低く保ち、敵の群れの深くまで飛び込んだ。リーチの長い槍は、懐まで潜られるとその長所を活かしづらくなる。加えて、相手は群衆の中でたった一人の標的を狙わなければならないが、こちらは目に映る全てが標的なのだ。その場で適当に得物を振り回すだけでも、確実に敵に当たってくれる。
刀の峰を兵士たちの足の高さに合わせ、横一線。力いっぱい振り抜いた。全員とまではいかなかったが、それなりの人数を巻き込んだ手応えがある。ぐしゃり、という気持ちの悪い感触もあったので、最初に当たった一人、二人は骨が折れているかもしれない。
痛みによろけた兵士の体が、重力に負けて下がっていく。横から突き出される槍の穂先を躱しつつ立ち上がれば、開けた視界の先で再び衝撃波を放とうとしている兵士の姿が目に入った。後方からも同様の気配を感じる。兵士の一人が背後へ回り込んだのだろう。
狙撃するなら、絶対にこのタイミングだ。同じ立場であれば、自分もきっとそうしている。
衝撃波が確実に放たれたことを確認すると、リューズナードは大きく横に跳ねて射線から外れた。バランスを崩しており、回避行動が間に合わなかった兵士たちが巻き添えになる。直撃した者は少なそうだが、魔法同士の衝突によって生まれた凄まじい風圧にあてられて、バタバタとその場に倒れていった。
立っているのは、あと五人ほど。他の攻撃を躱しながらの各個撃破で問題ない。刀を強く握り直し、俊敏に床を駆け、無駄なく順番に捻じ伏せた。
自分を囲っていた兵士たちが全員地へ沈み、周囲の見晴らしはだいぶ良くなったが、まだ障害物は残っている。口で忠告を促したところで、道を譲ってはくれないだろう。軽く息を整えてから、修練場の中央部まで進んだ。
入口付近に広がる惨状を見て、アドルフが忌々しそうに眉を顰める。
「……やはり、人間ではないな。化け物め……っ」
「討伐でもしてみるか? 人間風情にできるなら、な」
仲間たちを傷付ける連中を人間と呼ぶのなら、自分は非人でも、化け物でも、構わないとリューズナードは思う。同じ扱いなんて、されたくない。こちらから願い下げだ。
「一体、なんのつもりだ? あの村を見捨てる気か」
「そんなはずがないだろう。用事が済めば、すぐに帰る。だから、どけ」
何時ぞやのように、アドルフがリューズナードへ向けて槍を構える。
「王女殿下には指一本触れさせない。ウィレムス王家の治める神聖な地を踏み荒らす逆賊は、ここで始末する」
後ろでロレッタを囲っている兵士たちも、一斉に臨戦態勢を取った。ロレッタは怯えた目をしている。その目が映しているのは、武器を構える兵士たちなのか、多くの兵士たちを一人で捻じ伏せたリューズナードなのか。なるべく怯えさせないようにと斬り殺すことまではしなかったが、無駄だったのかもしれない。
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