53話
翌朝。普段通りの時間帯に目を覚ましたロレッタは、ぼんやりと辺りを見渡して、そう言えば避難所で眠ったのだった、と思い出した。いつもと同じく同居人の姿はすでになかったけれど、彼が使用している水瓶の上に、マティたちが作った草花の輪飾りが置いてあるのを見て、朝から穏やかな気持ちになる。昨日はバラバラに村へ戻ってきたのでその後の様子は把握していなかったが、ちゃんと受け取ってくれたようで安心した。
身支度を整えて村へ向かうと、改築を手掛けてくれている住人の一人に、明るく声をかけられた。
「おう、ロレッタちゃん。よく眠れたかい?」
「おはようございます。はい、とてもよく眠れました」
「それは良かった。あと四、五日もあれば終わるから、もう少し待っていてくれよな」
「承知致しました。お怪我などなさらないよう、皆様もお気を付けください。後ほど、差し入れをお持ちしますね」
本来、家屋の改築が一週間足らずで終わるはずはないのだが、この村ではライフラインを停止または開通させる工事が要らない為、それらを除いた最低限の作業量で済むのだろう。建物の外側を建築する者と、設備を組み立てて中へ運び込む者とで上手く分業すれば、数日程度で片付くのかもしれない。建築の知識が乏しいロレッタに、詳しい作業工程は想像できないので、言葉に甘えて大人しく待っていようと思った。
「はは、ありがとうよ。リューの奴、ほんとにいい嫁さん貰ったよなあ。ウチのかみさんと交換してほしいくらいだ。怪我に気を付けて、なんて、言われたことねえや」
「い、いえ、そのようなことは……」
気風の良い住人たちとの会話も慣れ親しんだものだが、このような話を振られた時だけは、未だにどう返していいのか分からない。曖昧に笑って、仕事へ向かう背中を見送った。
一日が終わり、村に夜の帳が下りる。避難所の床掃除だけを簡単に済ませたロレッタは、昨夜と変わらない流れで就寝準備を整えた。目を瞑ればまた、心地の良い環境音が聴こえてくる。
ただ、その日は昨夜と異なる点があった。ひたすら穏やかだった環境音の最中に、まるで雷でも鳴っているかのような、不自然な異音が混ざり込んでいたのだ。
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