15話

 驚いて振り向けば、そこには抜身の刀を構えたリューズナードがこちらを警戒するように立っていた。輝く刀身に背筋が凍る。ただ、抜刀したのは反射的な行動だったらしく、ロレッタと目が合った一瞬、彼も少しだけ驚いた表情を浮かべていた。


「……何してる」


「も、申し訳ありません! この花が欲しかったのですが、背が足りず、魔法で落としていました……」


 慌てて状況を説明すると、リューズナードは薄っすら警戒した様子のまま、慣れた手付きで愛刀を鞘へ戻した。


「村の付近で無闇に魔法を使うな。俺たちにとって、魔力の光は敵襲の合図なんだ。次は斬り掛かるぞ」


「はい、気を付けます……」


 あんなことがあった直後なのだから、警戒するのは当然だ。リューズナードも随分と気が立っている。周辺の見回りでもしていたのかもしれない。


 ロレッタは自身の軽率な行動を素直に謝罪した。


 頭を下げるロレッタを、リューズナードは黙って見ていたようだったが、やがて静かに背を向けて歩き出した。見回りに戻るのだろうか。


 頭を下げた拍子に、持っていたルワガの花が目に入り、ふとネイキスの姿を思い出す。リューズナードに嫌われたかもしれないと泣いていた姿を。


 離れていく背中に、気付けば声をかけていた。


「あ、あの! リューズナード、さん……」


 少し震えてしまったが、なんとか声は届いたようで、大きな体が歩みを止めた。


「……なんだ」


「あの、私、ネイキス君のお遣いでこれを取りに来たのです」


「ネイキスの?」


「はい。彼は怪我をしてしまったお母様のお見舞いに、お母様の好きなこの花を渡したくて、村の外へ出てしまったそうなのです。言い付けを破ったことは反省している様子でしたし、何よりも、あなたに嫌われてしまったのではないかと怯えていました。まだ彼と落ち着いて話ができていないのでしたら、どうか少しだけでも、時間を取ってあげてはいただけないでしょうか……」


 村に来たばかりの新参者が頼むことではないかもしれない。まして、ネイキスを連れ去った国の人間である自分が、どの面を下げて言っているのか。自己嫌悪は拭えないものの、それでもロレッタには、悲しむ少年を捨て置く選択などできなかった。

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